第4話:再会の少女

 車内の空間は、想像していたよりも広々としていた。内装は白を基調としており、進行方向と平行に、ソファのような座席が向かいあった形で配置されている。座る部分だけが黒い革のような材質でできたその椅子には、二人の人間が座っていた。


 一人は、早朝に見かけた少女だ。彼女が、私たちの存在を報告していたのかもしれない。近くで見ると、遠くから見た印象よりも大人びて見える。年は十歳前後といったところか。パドマより多少年下だろう。彼女はもう一人の女性の左奥に隠れるように座っており、恐々とこちらをうかがっていた。


 一方、少女の手前にいる女性は、二十歳前後の年に見える。服装こそ青いワンピースを着ていて少女と違っているものの、黒い髪とわずかに茶色い虹彩こうさい、ほほに出来たえくぼなどはそっくりで、姉妹のような雰囲気を漂わせていた。彼女は隣の少女を気遣うように手を握ってから、にこりと笑いかけてくれる。


 そのかわいらしい笑顔に笑みを返したところで、先ほどの女性が車の中に乗り込み、私の隣に座った。位置関係としては、パドマの目の前に怯えた様子の少女がいて、私の前に少女の姉らしき人物がいる、という形だ。案内役の女性の対面は、空席になっている。


「申し遅れました。コイトマと申します」

 隣の彼女が手をさし出してきたのを合図に、静かに車が走り出した。車内からは、外の景色が透けるように見えている。


「アガサとパドマです」

 コイトマと握手をしつつ、自分とパドマを手で示しながら答えた。少女は、初対面の相手とあまり話したがらない仕様らしい。


「ブルーナとアドリアと申します。お会いできてうれしいです」

 目の前の女性が伸ばしてきた手を、穏やかに握った。続けて、アドリアという名前の少女に微笑みかけてみたものの、目をそらされてしまう。


「すみません、初対面の方と話すのが苦手なんです」

「大丈夫ですよ、彼女も苦手ですから」

 パドマを意識して言うと、すぐに「物静かなだけ」と、尖った声が耳に届いた。


「素敵な街ですね。あの建物は何ですか?」

 少女の声を無視して、低刺激の話題を提供する。ブルーナの後ろには、屋根の高い建物がそびえていた。ギリシャの遺跡を思わせる大げさな柱が印象的だ。


「あれは議事堂ですね」

 コイトマが答える。


「議事堂?」

「何か物事を決める時は、あそこに街中の人間が集まって議論をするんです。図書館も併設されています」

「何人くらい集まるんですか?」

「三百人と少しくらいでしょうか。街の人口がだいたいそれくらいですので」

「へぇ、すごい」


「ちなみに、反対側は運動場になっています」

 大人の笑顔でこちらの反応に答えたコイトマは、手を後方に向けた。首をひねると、開けた空間が目に入る。

 石畳の道の奥には、テニスやサッカー用と思われるグラウンドが数面と、屋内スポーツ用と思われる建物があった。人口三百人の街にしては、とてつもなく豪華だ。


「そして、あちらがメディナ家の邸宅です」コイトマは最後に、車の進行方向へ目を向けた。「すぐに着きますので」


 彼女が示した先、緩やかな上り坂の向こうには、石造りの屋敷が見えている。

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