第32話 現れた救世主
丘の上の
「ミーちゃん!」
それを見たマリーちゃんがそう叫んだ。という事はあれがいなくなった「ミケ」で間違いないんだろう。
木はかなりの大きさで、どうやってあそこまで登ったのか不思議なくらいだった。
ただ幸いな事に、今猫がいる場所は枝の太さも猫より太い位なので、落ちる心配は無いだろう。問題はあの場所までどうやって猫を助けに行くかだ。
「あの、勇者のスキルに「飛行」なんてものは無いんですか?」
俺はダメ元でアリアさんに聞いてみた。万が一そういうスキルがあればそれで解決だ。
「飛行スキルは設定しようとは思ってたんだけど、高い所は嫌だってソニアが猛烈に反対しちゃって・・・」
あの
「
俺が宿に帰ったら、どうやってソニアに文句を言おうか考えていると、アリアから名前を呼ばれた。
「あなた、木に登ってミケちゃんを助けられないかしら?」
「・・・へ?」
この女は一体何を言ってるんだ?こんな高い木なんか登って、途中で落ちたら俺、死んじゃうだろ!
「いやいや、こんなに高い木に登って途中で落ちちゃったりしたら、俺死んじゃいますよ?」
なので思ってる事をそのままアリアに言ってやった。
「あら、死んだらお父様にお願いしてまた戻ってくればいいじゃない」
何さらっと恐ろしいこと言ってんだこいつは。
「嫌に決まってるでしょ!もし死んだら神様にお願いして地球人に生まれ変わらせてもらいます!」
もし無理だとか言われたら、あんたの娘達に散々迷惑かけられてるんだけど!ってゴネまくってやる!
「何よ、小さい男ね」
「全然小さくないですから!そもそもそんな事をやってたら、男に嫌われますよ!」
「え?なんで?」
なんで?って、そんな事も分からんのかこの女は。マジでわからないって顔してるぞ。
「そりゃ自分の事を大事にしてくれない奴なんて、絶対好きになれないでしょう?」
「そういうものなの?生き返れるのに?」
「当たり前ですよ。普通は大事に思ってる人には痛い目にあって欲しくないでしょ?」
俺がそう言うと、アリアは何やら考え込んでしまった。つーか、天界で人の生き死にに常に晒されていると、その辺麻痺ってしまうもんなのかねえ。
「みけーっ!」
俺とアリアが下らないことで言い争いをしていると、突然マリーちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。
「え!何であんなところに・・・」
俺達が言い争いをしている間に、何とミケは枝の先の方へと進んでおり、そこは自分の体よりも細く、今にもミケの体重で折れてしまいそうな場所だった。
「大変!あの子、降りられなくて完全にパニックなってるわ!」
さっきまで考え事をしていたアリアは、状況を見て顔を真っ青にしている。
いなくなったミケが見つかり一安心したのもつかの間、今度は落下の危険性が出てきた!なんで猫ってのは降りられないのに登ってしまうんだよ!
「出雲優!あなたは冒険者ギルドに行って状況を説明して、応援を呼んできてちょうだい!私はここで出来る限りの事をするから」
「わかりました!」
アリアさんの言葉に従い。俺がギルドへ向かおうとした瞬間だった。
「あっ・・・」
アリアさんの声が聞こえ、振り向くとミケが枝から滑り落ちていた。
「嘘だろ!」
俺はそう言いながら猫の落下地点へと走ったが、絶対に間に合いそうにない。くそー!こんな小さな子に飼い猫の悲惨な姿なんか見せたくねーぞ!
しかしそんな俺の願いもむなしく、ミケが地面にまもなく激突しようとした瞬間だった。
「スロー!」
そんな声が聞こえたかと思うと、猫の落下スピードが急速に落ちて行った。
俺はその状況に戸惑いながらも全速力で猫の元へ走り、そしてついにミケを両手でキャッチすることに成功した!
あ、危なかったあ。猫の落下スピードが落ちてなかったら絶対地面に激突していただろう。
「い、出雲優!大丈夫!?」
俺がミケの生存を確認してると、アリアも慌てて走ってきた。そういやこの人もミケを助けようと走って来たのか。相当息が上がっている。
ミケは自分の置かれた状況が理解出来ていなかったのかしばらくはぼーっとしていたが、派っと我に返ると慌てて俺の腕から飛び降りた。思い切り俺をひっかいて。
「フギャー!」
「いってぇ!」
あの猫、思い切り俺の顔を引っ搔きやがった!ふざけんな一体誰が助けたと思ってるんだ!そう思ったんだが・・・。
「みけー!」
俺の腕から飛び降り、マリーちゃんの腕にしがみついてるミケと、そのミケを抱きしめながら泣いてるマリーちゃんを見たらどうでもよくなってきた。
「お疲れだったわね出雲優」
そんな感動的なシーンをちょっと胸を熱くしながら見ていると、アリアさんが声をかけてきた。
「アリアさんこそお疲れです」
この人もこの人で必死だったんだろう。額に汗が浮かんでいる。
「それにしてもさっきの魔法、アリアさん・・・じゃないですよね」
あれは間違いなく男の声だったし。
「残念ながら私じゃないわ。向こうの方から声が聞こえてきたと思うんだけど・・・」
そう言って木の裏の方を見るアリアさん。するとその方向から一人の男が姿を現した。
「やあ、間に合ったようですね」
「ロベルトさん!」
大樹の向こう側から姿を現したのは、何とロベルトさんだった。
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