第30話 めっ

「あのね、ミケが居なくなっちゃったの・・・」


 しょんぼりとした表情で話しているのは、リリーナから直接依頼を受けた猫探しの猫の飼い主であるマリーちゃんだ。


 ちなみにミケというのは、マリーちゃんがたいそう可愛がっているという猫の名前だ。ちなみに三毛猫ではなく真っ黒な猫だそうだ。


 なぜにミケという名前にしたのか、思わず突っ込みそうになったが、小さな子に突っ込んでも仕方ないので思いとどまった次第だ。


「うんうん、大丈夫。お姉ちゃん達が一緒に探してあげるからね」


「ホント?ミケ探してくれるの?」


「うん」


 そう言いながらアリアはマリーちゃんの頭を優しくなでていた。なんだ、ただのサイコパス痴女かと思ってたら、優しい所もあるじゃん。


「じゃあ一緒にミケちゃん探しに行こうか?」


 そう言うと、アリアは女の子の手を取って道路を歩き始める。


「あの、何処か当てはあるんですか?」


 何の迷いもなく探し始めるアリアに驚いて俺はそう尋ねた。


「ないわよ」


「ええっ!そんな適当で大丈夫なんですか?」


 え?ホントにこの人に任せて大丈夫なのか?そもそもこの人、本来の姿はサイコパス痴女だぞ。


「出雲優、家猫が家出した場合、家の周囲で迷子になっている可能性が高いのよ」


「あ、そうなんですか?」


「だからまずは自宅周辺を探すのが普通と言えるわ」


 なるほど・・・。それでまずはマリーちゃんの自悪周辺をこうして歩き回っているのか。それじゃあ俺も頑張って探さないとな。


「おーい!ミケちゃーん!」


 なので俺は出来るだけ大きな声で猫の名前を呼んだ。これだけ大きな声で呼べば、ちょっと離れたところにいても聞こえるだろう。


「ちょっと!大きな声出さないでよ!」


「え?だって、もしかしたら猫がいるかもしれないじゃないですか」


「だとしても、そんな大声で呼ばれたら猫が驚いて逃げちゃうかもしれないでしょう?」


「す、すみません」


「え?ミケ逃げちゃうの?」


 すると今度はマリーちゃんが泣きそうな声でアリアにそう尋ねていた。あーやばい、マリーちゃんが泣いちゃう!


「大丈夫だよ。あのお兄ちゃんが大きな声を出さないように、今お姉ちゃんが「めっ」したからね」


「そうだよお兄ちゃん「めっ」だよ」


「ごめんなさい」


 マリーちゃんにも怒られてしまった。くそーなんだよ猫探し難しいな。


「マリーちゃん、いつも呼ぶようにミケちゃんを呼んでもらっていいかな?」


 すると今度はマリーちゃんに猫の名前を呼ぶようにアリアが言い始めた。何のためにするのかはさっぱりわからんが、何か意味はあるんだろう。俺はもう怒られたくなかったので黙っていることにした。


「いつもみたいに呼んでいいの?」


「うんお願い」


「みーけーどこにいるのー」


 辺りにマリーちゃんの可愛らしい声が響き渡る。


「うん、ありがとう」


 アリアは再びマリーちゃんの頭を優しくなでると、俺の方へ向き直った。


「出雲優、今の感じを覚えておいてね」


「え?今の感じ?」


 なんだ今の感じって?真似しろって事?


「今マリーちゃんがミケを呼んだのと同じ感じで猫の名前を呼んでくださいという事です。声の大きさやスピード等です。声の質・・・はあなたには無理でしょうから、そこだけを気を付けてお願いします」


 俺が全く理解していないようすだったからか、アリアは詳細を説明してくれた。


 なるほど。まるでマリーちゃんが呼んでいるようなイメージで呼べって事か。まあ、さすがに声質は無理だな。


 しかしこれは、俺一人で依頼を受けていたら、猫が嫌がる事をフルコースで行ったうえで、猫探しに失敗していたかもしれないなあ。


 そう考えると、あの時アリアに見つかって強引について来られたのは運が良かったのかもしれない。


「それにしても、アリアさんはなんで猫に詳しいんですか?」


 以前飼っていた事があるとかかな?いや待て、そもそも天界に猫とかいるのか?


「出雲優、あなた私を誰だと思っているの?」


「え?アリアさんですが?」


 それ以外に何があるというんだ。実はまりあでした☆とか言われても俺はそんな事知らんぞ。


「そうじゃないでしょ・・・。私とソニアは管理人なのよ」


 あ、そっちか。たしかにこの世界の管理人なら、猫の生態に詳しくてもおかしくはないな。


「いや、あなた何納得してるのよ・・・」


 俺が一人でなるほど~等と思っていると、アリアから呆れたような声が聞こえてきた。


「え?違うんですか?」


「違うわよ。昔猫を飼ってたのよ。いくら管理とは言え、そんなところまで管理してるわけないじゃない」


 知るかよ!お前が言ったんだろうが!


「え?お姉ちゃん猫飼ってたの?どんな猫さん?」


 俺は一人でぷんすかしていたが、マリーちゃんがアリアの猫の事で少しだけ笑顔になったので、これはこれで良しとしよう。


 その後しばらくは、アリアの飼っていたという猫の話をしているアリアとマリーちゃんの後ろを俺が歩きながらのミケ探しが続いた。


 しかし少しずつ捜索範囲を広げながら探しても、ミケの姿は一向に見つからなかった。


「見つかりませんね~もうこの辺りにはいないのかも」


「ふぇ・・・」


 俺のその言葉に泣き出しそうになるマリーちゃん。やばっ!ついうっかり口に出しちゃった・・・。


「大丈夫、だいじょうぶだからね。ミケちゃんが家を出てからそんなに経ってないから、まだ遠くへ入ってないと思うよ」


「ホント?」


 そう言いながらマリーちゃんの頭を優しくなでるアリア。しかしその眼は俺をジト目で睨んでいた。


「す、すみません・・・」


 俺は縮こまりながらアリアとマリーちゃんに謝った。ダメだ、なんかもう、アリアの邪魔しかしてない気がする!

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