第29話 初めての共同作業
面倒なことになったもんだ。俺はギルドで軽めの食事をしながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
ロベルトさんを仲間に迎え入れようとしていた矢先、ソニアの姉であるアリアが突然現れた。そして彼女は俺達のパーティーに入りたいという。
本来なら仲間は一人でも多く欲しい所だが、なんせ性格に難がありすぎる。しかもロベルトさんが仲間になった日には、絶対色仕掛けを行う気しかしねえ。
普通ならほおっておくところだけど、アリアパーティーの前任者達の扱いを考えると、ロベルトさんをアリアの犠牲にさせるわけにはいかない。
ロベルトさんは俺が守らなければ!
「あの~
俺がそんな事を力強く考えていると、受付嬢のリリーナから声を掛けられた。
「あ、はい、どうしました?」
「いえ、さっきから、「あー」とか「うー」とか言いながら、何やらお悩みのようでしたので」
うわー、俺、声に出しちゃってたか・・・。恥ずかし!
「いえ、すみませんちょっと考え事をしてまして・・・」
「そうだったんですね。悩みがあったら遠慮なく言ってくださいね」
そう言いながら微笑む彼女はまるで天使のようだった。あぁ、なんで俺についてきた天使は、あの守銭奴じゃなくて目の前にいる女の子じゃなかったんだろう。
「ところで・・・」
「はい?」
「出雲さん、今お暇ですか?」
・・・え?これはもしかして、デートのお誘いとかそういう事か!?いやいやいや、そんな上手い話があるわけが・・・いやでも、最近ちょっと仲が良くなってるきもするし、もしかしてワンチャンあるのでは・・・。
「実はお願いしたいクエストがありまして・・・」
ですよねー!
「ええっと、はい、大丈夫ですよ」
「良かったー」
まあいいや。この笑顔が見れるなら受けた甲斐があるというものさ!
「ところでどんな内容ですか?」
内容も聞かずに返事しちゃったけど、リリーナからの依頼なら、とんでもない内容の物は依頼してこないだろう。
「実は、ギルドからの正式な依頼では無いんですけど・・・」
「正式な物じゃない?」
ん?どういう事?
「実は、私の家の近所にマリーちゃんって子がいるんですけど、その子の飼っている猫が昨日から帰ってないらしくて」
「そうなんですか?」
なるほど。猫の捜索依頼って所か。
「それで、言い難いんですが、成功報酬も用意できなくて・・・」
あー、そういう事ね。
「わかりました!この出雲優、困ってる子を放っておく事なんか出来ません!お任せください!」
おれは「どんっ!」と胸を叩いて依頼を受ける旨を伝えた。だって俺を選んでくれたんだぜ?引き受けなきゃ男が廃る!
「じゃあ早速出発ね」
「そうですね!・・・え?」
俺は「そうですね」と返事をしてしまってから一瞬間をおいて、声の主の方へ振り返った。
「えっとアリアさん?」
そこにはソニアの姉のアリアがいつの間にか立っていたのだ。
「なんか聞き間違えじゃ無ければ、あなたも一緒に行くような風に聞こえたんですけど・・・」
こいつ、早速出発ね!とか言わなかったか?え?もしかして一緒に行く気なの?
「そうよ、早くいきましょうよ」
「いやいや、何でアリアさんが一緒に行く感じになってるんですか?」
これは俺がリリーナさんから受けたクエストであって、この人には全然関係ねえ!
「え?だってパーティーメンバーなんだから当たり前でしょ?」
「だから、まだ決まってませんてば」
この人、押し強すぎだろ。むしろ俺はパーティーに入れたくない方向なんだよ!
「あら?でもあなた、猫に詳しいのかしら?」
「え?いや、詳しいって程じゃ・・・」
「それじゃあどうやって探すつもりだったの?」
「そりゃあ、地道に人に聞きまわってですね・・・」
「
アリアはそう言って俺にダメ出しすると、リリーナの所へ行った。
「あなたリリーナさんだったかしら?居なくなった猫の情報と飼い主の事教えてくれる?」
「あ、はい。えっと猫の名前はミケちゃんで、全身真っ黒な猫ちゃんです」
さらにアリアは飼い主の住所なども聞いていたようだ。そしてしばらくするとリリーナさんとの会話を終えて、俺の所へ戻ってきた。
「さ、準備できたわ。行きましょう」
そう言うと、俺の返事も待たずにさっさとギルドの出口へと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!行くってどこへ行くんですか?」
なんかもう、まるで目的が決まっているかのように進んでいくアリアに俺はそう声をかけた。
「飼い主の家よ」
「ああ、詳しい情報を聞くんですね」
「ま、それもあるわね」
それもって、それ以外に何があるというんだ?そう思いながらも、他に何も思いつかない俺は黙って彼女の後ろを歩いていた。
まずい、さっきからずっと彼女のペースに乗せられっぱなしだ。いつの間にか依頼も共同ですることになってるし・・・。
だけどもう断るにはタイミングを完全に逸してしまった気がする、今断ったらすげえ空気になりそうだ。とてもじゃないが俺には耐えられそうにない。
どうする?どうするんだ俺!?このままなし崩し的にパーティーメンバーになってしまった日には、俺やロベルトさんの身が危ない上に、ソニアからもなんて言われるか・・・。
はっ!もしかしてアリアのサイコパスな性格を案じた神様が、やはりソニアと同じように「はずれくじ」を作って、アリアを異世界に送り込んだんだろうか?
「あの・・・」
俺はその辺りがどうしても気になってしまい、アリアに声をかけた。
「アリアさんはどうしてこの世界にやってきたんですか?もしかしてソニアと同じ理由ですか?」
「ソニアはどういう理由で貴方と一緒にこの世界にやってきたの?」
俺が質問すると逆にそう聞かれたので、はずれくじに入っていた事も含めてアリアに説明した。もちろん俺の死因については一切語ってない。
「ぶっ!あの子お父様が作ったはずれくじに入ってたの?何それ受ける!」
俺の話を聞いたアリアは、しゃがみ込んで爆笑し始めた。いやいや笑い過ぎじゃないですかね。あの場にいた俺はソニアが不憫すぎて笑えなかったよ。
いや、と言うか、一番不憫なの俺だよね!?そんな人の従者になっちゃったんだから!
「と言うかですね?」
「なーに?」
「アリアさんはどういう経緯でこちらに来られたんですか?」
ソニアははずれくじに入れられて、半ば強制的に異世界へやってきたんだけど、この人はどういう経緯だったんだろう?
「あー私?私は天界で死んだ人の面談をしてたら、イケメンの男の子が異世界へ行くって言うから一緒についてきたの」
「あ、はい」
多分そう言う理由だと思ってましたとも、ええ。
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