異世界転生したら職業が「勇者の従者」になってしまったんだが

第28話 彼達が戻らなかった理由

「お姉さま！そこのモブは私と従者契約になっています。なのでお姉さまとは一緒に冒険は出来ません！」

　俺が混乱した頭でどう断りを入れようか悩んでいると、ソニアから思わぬ援護射撃が入った。モブは余計だが！

「そ、そうなんです！実は俺、ソニアの従者でして・・・」

「あら？あなたわざわざソニアの従者になったの？モノ好きね」

「いえ、好きでなったわけではないんですが」

「だって、天界の住人がこの世界でなれる職業って勇者一択だし、理解したうえで従者になったのでしょう？」

「・・・え？」

　俺は一瞬アリアが何を言っているのかわからなかった。

「えっと、どういう事です？」

「天界の住人が職業選択の儀式を行ったら、絶対勇者になるのよ。そんなの常識よ。だって私たちがそうなるようシステムを組んだのだから」

　なるほどなるほど。という事はソニアの奴、最初からわかってて自分が最初に儀式をしたって事か。なるほど。

「おい、こっち向け」

　俺はさっきから明後日のほうを向いて、自分は何も聞いてません～みたいなオーラを出しているソニアに向かってそう言った。

「な、なんですか？」

「なんですか？じゃねえ！お前全部わかっててやっただろ！」

「だって仕方ないじゃないですか！」

「どこが！」

「だってあなた、落ち着いたら私を放ってどっかに行くつもりだったでしょ！」

　う、それは・・・その通りだ。だって剣も魔法も使えない上、あの性格だぞ？むしろなんで一緒に居ようと思うんだって話だ。

「ほら！顔に出てる！なんか怪しかったんですよ！何かにつけては別行動をしたがるし！」

　くそっ、なんて事だ・・・。さりげなく別行動を促そうとしたつもりだったが、あれがいけなかったとは・・・。

「私、はっきりいって戦闘力には自信がありません！」

「よくもそんなどや顔で言えたもんですね！」

「なので、目的を達成するまでは、一生あなたに付きまとって生きていきますので！」

「くっ！」

　なんてことだ・・・。ずっと流れでこんな事になっていると思ってたのに、全部あいつの手のひらの上だったとは・・・。

　これじゃあ、何らかの方法であいつとの従者契約を切れたとしても、ずっとあいつに付きまとわれる人生確定じゃないか・・・。

　嫌だああああああああああああああああああああああああっ！

「あの、盛り上がってる所悪いんだけど」

「盛り上がってませんから！」

　俺はアリアの言葉に思い切り反発した。どこをどう見たら盛り上がっとるんじゃい。

「いや、そんな事どうでも良いし。そうじゃなくてね、私、しばらくあなた達のパーティーのお世話になるから」

「・・・・は？」

　へ？何？俺達のパーティーにソニアの姉も入るって言ったのか？

「ちょっと！どういうことですかお姉様！」

　しかし俺以上にショックを受けたのはソニアのようだ。物凄い勢いで姉に食って掛かっている。

「いや、だから、しばらくの間パーティーに入れてもらおうかな～って」

「却下します！」

「なんでよ～」

「お姉さまはどうせ優（すぐる）さん狙いでしょう！そうはさせませんわ！」

「いいじゃない。私も一人だと大変なのよ～。ほら、私達って戦闘力全然じゃない？だからあなたの従者に稼いでもらおうと思って」

「だーめーでーす！出雲さんは私を養う務めがあるんです！」

「ねーよそんな務め！」

　しかしそんな俺の言葉なんぞ聞いてるわけもなく、ソニアとアリアは二人でギャーギャーと騒ぎ出した。

　パッと見、俺をめぐって二人の女が争っているように見えるが、大事な俺というATMを逃がしたくないソニアとアリアの醜（みにく）い争いだ。

　いかん、自分で言ってて落ち込んできた・・・。

　なぜだ？確か異世界行きを選んだ時は、夢と希望にあふれていたはずだったのに、なぜこんな事に・・・。　

　しかし、俺はソニアとギャーギャー醜い争いをしているアリアを見ながらふと考えた。

　そんなにパーティーに困っているなら、もっとパーティーメンバーを大事にすればいいのに。なんでレベル１で竜に向かわせたりしたんだろうか？結果は火を見るより明らかじゃん。

「あのー、ちょっといいですか？」

　俺はソニアにアイアンクロウを決めているアリアに、そこの所を聞いてみようと話しかけた。というか、何をどうしたらアイアンクロウを決めるような展開になったんだ？

「俺があなたを養うかどうかはともかくですね、そんなにメンバーに困ってるなら、どうしてドラゴン討伐なんかしたんです？もっと大事にあなたのパーティーメンバーを育てる方法もあったのでは？」

「だって手っ取り早いじゃない」

「いやでも、死んだらお終いじゃないですか」

「え？だってもう一度この世界へ戻ってくればいいだけじゃない」

「え？」

　え？まじで？それってありなの？

「あの、そういう事出来るんですか？」

「普通は出来な行けど、私は管理者だから」

　なるほど。職権乱用するという事か・・・。あれ？でもおかしくね？だったらなんでこの人は今一人なんだ？

「あの・・・」

「何？」

「じゃあ何でアリアさんは今一人なんでしょう？」

　おかしいよな？もし今の話が本当なら、今頃戻ってきててもおかしくないはずだろ？

「それがわからないのよねえ。冒険中も口酸（くちす）っぱく万が一があったら戻ってくるように言い含めておいたのに」

　これは、余程（よほど）戻りたくない理由があるって事じゃなかろうか？だってアリアさん、俺から見てもすげえ美人だぞ。しかもさっき俺に迫ってきていたように、恐らく冒険中色んな事をしてくれるに違いない。

　にもかかわらずだ。こっちの世界に戻ってこないという事は、もう彼女との冒険はよほど嫌だった、という事なのではないだろうか？

「あの、ちなみに前のパーティーの方は、どんな死に方をされたので・・・？」

「彼なら、ドラゴンの爪で体を真っ二つにされたわ」

「・・・」

　両手を広げてやれやれという感じでため息をつくアリア。俺は絶対この女の従者にだけはなるまいと固く誓ったのだった。