第三章 天使の姉

第27話 お姉さま登場

「なんでお姉さまがここに!?」


 それは驚きというより悲鳴に近い叫びだった気がする。


 冒険者ギルドに入ってきた女を見たソニアは、突然顔をゆがめながらそんな事を叫んでいた。


 そういや、こいつに姉がいるって話は天界でもしてたな。あとなんだっけ?そうだ、この世界の管理を姉と共にやっていたとか。


 いやでも、ソニアが金髪なのに姉の方はどっちかというと、オレンジに近いような・・・。まあ、天界の住人の見た目の事なんか良く知らんけど。


「あら・・・?」


 そんな事を考えつつ二人を見ていると、ソニアの姉という女が俺達に気付いてこちらに近づいてきた。まあ、あんな声で叫んでたらそりゃ気付くだろう。


「あなたソニアじゃない。なんでこんな所にいるのよ?」


 やはり姉のようだ。そういえば、姉の話をするソニアは、それはそれは渋い顔をしていたのを俺は思い出した。


 結構好き放題に生きているように見えるこいつが嫌がる姉って、一体どんな奴なんだ?そう考えるとちょっと怖いような興味があるような・・・。


「お、お姉さまお久しぶりです」


 心なしか、ソニアの声も上ずっている気がする。しかもなんかどもってるし。


「実は、お父様に言われてこの方・・・出雲優さんと一緒にこの世界にやtt・・・もがもがもがっ!」


 俺は咄嗟とっさにソニアの口を手で塞いだ。こいつ一体何を口走ろうとしてるんだ!


「ちょっと何するんですか!」


「何するんですか!・・・じゃないでしょうが!あんた一体公衆の面前で何を言おうとしてたんだ!」


「何って、あなたと私が・・・あ」


 どうやら天界から来たって話を、このそれなりに人がるギルドでしようとしていた事の重大さにようやく気付いたらしい。


「ロベルトさん、パーティーの話は後日改めて・・・という事でよろしいでしょうか?」


 俺はとても人前でできる話ではないので、ロベルトさんにお願いした。とりあえず勧誘どころの話ではなくなってきたしなあ。申し訳ない。


「わかりました。色々と事情もありそうなので、また後日という事で」


 そう言ってロベルトさんは快く提案を受けてくれた。ええ人や・・・。なんでフィリアはロベルトさんじゃなくてあんなちゃらいハリーを選んだんだろうか?理解に苦しむぜ。


「それじゃあちょっと場所を移動しましょうか」


 そして俺達は話す場所を自分たちが借りている部屋へと移動した。


「それでは改めて自己紹介させて頂きます。俺は出雲優と言います」


 俺はソニアの姉に自己紹介した。何か色々バタバタしてて名前も名乗ってなかったからな。


「あら?モブにしてはきちんとしつけが行き届いてるじゃない」


「も、モブ!?しつけ!?」


 おいおい、とんでも無い事を口走ったぞこのお姉さんは。


「あらあなた、モブの意味が分かるの?もしかして日本人?」


「ええ・・・まあ・・・」


「ふーん、ソニアも相変わらず趣味が悪いわね。こんなモブと一緒に地上に降りるなんて」


 な、なんだとこの女!ソニアに負けず劣らず、すっげえ美人だからはりきって挨拶したが、やはり姉妹だけの事はあるな。もうソニアに対する対応と同じでいいだろこれ。


「と、所でお姉さまは何故こちらにいらっしゃるんでしょうか?」


 しかしソニアは姉の俺へのモブ発言など全く無かったかのように、姉にそう質問していた。つーか、ずっとビビり気味なんだよな。何がそんなに怖いのだろうか?


「そうなの!聞いてくれる?」


 ソニアの質問に姉はパンと手を叩いて応じる。


「実は一緒に地上に降りてきたパートナーがドラゴンにやられちゃって」


 ん?という事は、この姉も転移した奴と一緒にこの世界に来たって事か。


「んで、仕方ないから現地の男を調達したんだけど、ダンジョン内で迷子になっちゃったから、放ってきちゃったのよね」


「・・・え?」


 放ってきたの?仲間を?俺が怪訝けげんな表情で見ていたからか、さらに姉は説明をつづけた。


「だった仕方ないじゃない。脱出魔法は私一人しか使えなかったし、脱出用の魔法陣は誰かに使われちゃってたし」


 要は、そいつを見捨てて一人で逃げたって事か・・・。こわっ!


「あの魔法陣を勝手に使った奴、見つけたら絶対許さないんだから」


 まあでも脱出用魔法陣は用意していたのか。・・・ん?魔法陣?・・・あれ?なんか既視感があるんだけど・・・。


 そう思いながら俺はソニアの方を見た。そこには汗を滝のように流しながら立っているソニアがいた。


「あのお姉さま、ちなみに魔法陣はどこに設置していたんでしょうか?」


 恐る恐る姉に聞くソニア。おい、それ聞くの?俺、聞かないほうが絶対良いと思うよ!


「この街の近くにある小高い丘・・・ん?山かしら?そこに設置していたわ」


 ぎゃああああああああああっ!絶対あれじゃん!俺達がこの世界に来た時にダンジョンから脱出するときに使った魔法陣!あれの事だろ!?


 え?という事は何か?あの時俺達が盗賊か何かだと思ってたのは、実は姉パーティーだったって事?


 やばい!これは絶対知られてはいけない!


「ところで・・・」


 俺とソニアが魔法陣の事で挙動不審になっていると、姉が俺の方に話しかけてきた。


「あなた、私とパーティー組む気ないかしら?」


「・・・は?」


 色々と頭が混乱していた俺は、この女が一体何を言っているのかわからなかった。


「えっと・・・?」


「だから~私と一緒に~冒険しましょぉ~って言っているの」


 姉は妙に腰をくねらせて近づいてきて、俺のあごに触れながらそう言ってきた。ええっ!?何これ!え!?どうなってんの!?


「どうせあの子の事だから、なーんにも手を出させてもらえないんでしょ?」


 手って何だ手って!


「私だったらぁ~な~んでもさせてあげるわよ」


「ちょっとお姉さま!」


 ま、まじで!?あんな事とかこんな事とか、まじで全部させてくれんの!?ソニアなんか俺の事、下賤の者とか言って邪険にするばかりだぞ!?


「い、嫌でも俺、そんないきなり会ったばかりのお姉さんとパーティー組むとか・・・」


「アリア、私の名前」


 お姉さん改めアリアさんは、俺の唇に人差し指を当てながらそう囁いてくる。やばい・・・これはアリアお姉さんに逆らえる要素が一ミリも無い・・・。


 いや、待て待て待て俺!さっきの話思い出せ!この人、ダンジョンで迷ったら平気で俺を置いていくぞ絶対。あと最初の転移者が何で死んだのかも気になる。


「あの・・・」


「なあに?」


 俺はアリアさんの誘惑に精一杯の抵抗をしつつ質問した。


「最初のパートナーさんは、何で死んじゃったんですか?ドラゴンと戦ったって言いましたけど」


「そうなの。やっぱり名を上げるにはドラゴン退治が一番だと思って退治に行ったんだけど、いきなりやられちゃったのよね」


「はぁ」


「勝ったらめいいっぱいサービスしてあげるって言ったら張り切ってたけど、やっぱレベル1じゃ無理があったのかしら?」」


「・・・」


 やべええ。この人サイコパスだ。かわいい顔しているけど、思考が危険すぎる。


「ねえあなたレベル幾つ?」


「へ?俺はレベル4ですけど・・・」


「ホント!?じゃあドラゴン退治大丈夫ね」


「なんでだよ!」


 なんで1が駄目で4だとOKなんだよ!思わず突っ込んじまった!

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