第26話 逆転勝訴
「あら?じゃあ
俺が一人で
「あの、丁度良いって何がですか?」
つい聞いてしまった俺に、ソニアはこれまで以上のどや顔をした。うぜえこいつ。
「まずそこのチャラ男が言うように、ただの冒険者であるロベルトさんの言葉は信じてもらえない可能性が高いでしょう」
「誰がチャラ男だよ!」
チャラ男と名指しされたハリーが思わず抗議の声を上げていた。いや、どこからどう見てもチャラいんだが。しかしそんな事は今どうでも良い。
「信じてもらえないのはダメじゃないですか!」
どや顔で話始めるから何を言うかと思えば、結局それか!思わず叫んだ俺に、ソニアはますますどや顔となった。
「ただし例外があるんです」
「例外?」
「はい。例えば証人がS級の冒険者だった場合、その発言の
なるほど・・・。つまり証人としての信頼・・・と言うよりは、社会的なステータス的な意味合いが強いって事か。「S級の人が言うのだから間違いないだろう」みたいな。これはこれで問題ありそうな気はするが。しかし、しかしだ・・・。
「あの、ここにS級クラスの冒険者は・・・」
「そしてもう一つ!」
俺がこの場にS級なんかいねーと言いかけるのを遮って、ソニアが一段と高い声でそう叫んだ。すげえ唾が飛んだんだが!
「例えば証人が勇者だった場合です!」
あ!そういうこと!?なんでこいつがどや顔してたのか不思議だったんだが、そういう事ね!
「ソニアさん、グッジョブです!」
俺は素直にソニアを褒めた。
「そうでしょ!?私グッジョブでしょ!?」
普段ソニアを褒める事なんか全く無い俺が珍しく称賛したのが余程嬉しかったのか、俺の手を両手で握って目を輝かせてそう言ってきた。
「は?お前ら頭おかしいんじゃねーの?どこに勇者なんているんだよ」
しかし事情を知らないハリーは鼻で笑いながらそんなセリフを吐いてきた。まあ確かにな。普通はこんな平和な街に勇者なんて居ないなんて思うよな。
「ソニアさん、お見せしては如何ですか?」
「そう?いいわよね?見せていいのよね?」
「今こそでしょう!ソニアさんの威厳を思い切り見せつける時は!」
俺がそう言うと、ソニアは今までに見たことが無い位パーッと顔を輝かせた。そして首に掛けていた冒険者証を、バーンと某時代劇のあれのように二人に見せつけた。
「は?これがなんだって・・・!?」
そこまで言って、ハリーはソニアの冒険者証を見たまま固まってしまった。そりゃそうだろうなあ。
「ちょっとハリー!何固まってるのよ!」
ソニアの冒険者証を見たまま固まっているハリーに業を煮やしたフィリアが顔を真っ赤にしながら駆け寄り、ソニアの冒険者証をのぞき込んだ。
「え!?な、なんでこんな所に勇者が・・・」
そして真っ青な表で「そんな・・・」とか言いながらそのまま固まってしまう。顔を赤くしたり青くしたり、お前は歩行者信号か!
しかしまあ気持ちはわかるぜ。まさかこんな平和な街に勇者がいるとは思わないだろう。しかも目の前に。さっきまで余裕の表情でロベルトさんを馬鹿にしていた二人は、完全に
いやあ、すっかり意気消沈している二人を見ているのはすっきり爽快な気分だぜ!さっきまで随分と冒険者を馬鹿にしてくれたからな!
「な、なあロベルト、俺達
「そ、そうよ!私だって、魔が差しただけなんだから!本当に愛しているのはあなただけだから!」
ソニアから勇者のカードを見せられて、立場が逆転してしまった事を悟った二人は、テンプレのようなセリフを吐きながらロベルトさんにすがり寄った。なんだろうなあ。ずーっとお約束のような展開を見せられている気がする。
「「はあ、もう本当にがっかり。こんな情けない男を好きだったなんて」」
すると突然ソニアがそんなセリフを言い出した。ん?このセリフどっかで聞いたような・・・。あ・・・これさっき、フィリアがロベルトさんに言ってた暴言だ。
「「真面目だけが取柄で出世も間違いないと思ってたから付き合ってきたけど、もういいわ。将来性も無いただの駆け出し冒険者のあなたと一緒になるメリットなんかないもんね。軍のエリート兵士をまた探さなきゃ」」
そしてさらにソニアはフィリアが言ってたセリフを繰り返した。そう言えばそんな事も言ってたな。当のフィリアはますます顔色が悪くなっている。
「魔が差した割には、随分とお喋りでしたねー」
そして俺のその言葉で完全にフィリアは沈黙してしまった。そしてハリーもそれを見て完全にうなだれてしまう。
「では、この事はお二人のご両親、及びハリーの上司、つまり私の元上官にも伝えさせて頂きます。申し訳ないのですが、ソニアさんと出雲さん、ご同行願えますか?」
その言葉に俺とソニアはもちろん首を縦に振った。
ロベルトさんの話を聞いた二人の親御さんは、最初ロベルトさんの話を信じなかったんだが、ソニアがロベルトさんの保証人となっていることを知ると、ハリーとフィリアに対しブチ切れた。
そして何卒内密にしてくれとロベルトさんと俺達に迷惑料として、決して少なくないお金を支払ってきた。俺達は口止め料という事ならと、そのお金を遠慮なく受け取った。ただし、俺達・・・と言うか、ロベルトさんの事を悪く吹聴するようなら遠慮なく「勇者ソニア」が真実を語っちゃうぞ!とも脅しといた。
こうしてロベルトさんのプロポーズの為のクエストは終了した。
後はクエスト完了報告をギルドに提出するだけだが、今日はもう疲れたので明日にでも行う事となった。まあ色々とありすぎた一日だったし、俺も今日は帰ってベッドにもぐりこみたい気分だ。
そして次の日、俺達とロベルトさんはギルドで待ち合わせをして、完了報告を行った。俺達は遠慮したのだが、報酬は報酬としてちゃんと受け取って欲しいとの事だったので、クエストの報酬は規定通りもらう事にした。
「それであなたは、今後どうするつもりなの?」
一通りの事務手続きを終え、椅子に座って談笑していた時だった。急にソニアがロベルトさんにそう尋ねた。
「そうですね、まさか彼女と破局したからと軍に戻るわけにもいきませんし、冒険者として頑張る事にしますよ」
そういえば彼女と結婚するために、時には命の危険を顧みない任務に当ることもある軍人ではなく、ある程度その辺りのリスクをコントロールできる、つまり自分で選べる冒険者としての人生を選んだらしいんだ。
しかしその彼女の浮気で破局。やるせないよな~。
「じゃあ私達のパーティーに参加しなさい」
ロベルトさんの言葉を聞いたソニアは、腕を組みながらどや顔でそう言った。
あ、あーそういう手もあったな!魔法が使えるロベルトさんが加入してくれれば、かなり戦いが楽になりそうだ!
「僕からもお願いします。ぜひうちのパーティーに!」
「あの、良いのですか?勇者パーティーに参加できるなんて夢みたいな・・・」
大丈夫!うちの勇者は名前だけのポンコツだから!と、一瞬思ったものの、それは口には出さずにロベルトさんを歓迎する言葉を話そうとしたその時だった。
「もう!やっと帰って来れたわ!」
ロベルトさんに俺が勧誘の言葉を掛けようとした時、ギルドの入り口付近からそんな声が聞こえてきた。
「誰よ!あの魔法陣を勝手に使った馬鹿は!見つけたらただじゃおかないから!」
声の主を見てみると、俺と同じくらいの年齢・・・に見える女の子が怒りながらギルドへ入ってくるところだった。ソニアもかなりの美人だが、この女の子もそれに負けず劣らずだった。
「ちょ、お姉様なんで・・・」
そしてその女の子を見たソニアが、呆然とした表情でそう呟いていた。
ん?お姉さま?
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