第25話 修羅場

「違うの!誤解なの!」


 ロベルトさんに対して必死の形相で叫ぶフィリアさんだが、ロベルトさんと普段は二人で使っているであろうベッドで、もう一人の幼馴染おさななじみであるハリーと半裸でいる状態では、何が誤解なのかを説明するのは大変難しいだろう。


 もう一方のハリーさんの方は、頭の後ろで手を組んで窓の外をぼーっと見ていた。


 最初こそ驚いてベッドの上で正座なんかしていた気がするが、まるで自分は関係ないと言わんばかりのその態度は、俺が最初に「ちゃらい」と思ってしまった印象そのものだ。


「何が違うのでしょうか?誤解とは?」


 さっきまで真っ青になって座り込んでいたのとは違い、ロベルトさんは毅然とした態度でフィリアに質問している。


「違うのよ!愛しているのはあなただけなの!」


 それに対しまるで答えになっていない回答をするフィリアさん。いやなんか、お昼の時間帯にやるドロドロの恋愛ドラマを見ているような気分になってきたな。


「ちょっといいかしら?」


 緊迫した雰囲気の中、何を思ったのかソニアが声を上げていた。こいつこの雰囲気の中よく発言できるな。俺なんかさっきからびびって一歩も動けないんだが。


「あなた誰よ!ロベルトの何なの!?」


 フィリアさんはソニアに喧嘩腰にそう叫んだ。まあ、見た目だけなら人類最高峰レベルのソニアだから、恋人としては心配になったんだろう。自分は浮気しといてな。


「私ですか?私はロベルトさんの冒険仲間です!」


 どや顔で鼻息荒くそう語るソニア。あーこいつ、一度こういう冒険者らしい言葉、言ってみたかったんだろうなあ。すげえ顔がどやってるもん。


「は?その冒険者仲間風情が何の用なのよ!関係ないんだから引っ込んでなさいよ!」


 そう言われてソニアの顔に一瞬血管が浮かんだ気がしたが、すぐに冷静な表情へと変わった。


「あなた、ロベルトさんを愛していると言いましたよね?」


「そうよ!私はロベルトを愛しているの!寂しくてつい魔が差しただけなの!信じてロベルト!」


 フィリアさんはソニアからロベルトさんに向き直って改めてそう宣言した。その眼には涙も浮かんでいる。言われたロベルトさんもさっきまでの追及するような表情では無かった。まあ、すげえ涙目で反省しているみたいだし、寂しかったってのも事実なんだろうなあ。


 まあ、元々本人達の問題だし、ロベルトさんが許すと言えば俺達にいえる事なんて無いしな。一応は解決かな・・・。なんて俺は思っていた。


「あら?あなた寂しかったら魔がさして浮気するんですか?」


 そのソニアの言葉にきょとんとしているフィリアさん。俺もその言葉に「はっ」としたね。しかしさらにソニアは言葉を続ける。


「しかも、ロベルトさんが留守にしてからまだ2,3日ですよね?あなたもしかして、今までもロベルトさんが留守にするたびに浮気してたんですか?」


「そ、そんなわけないでしょ!」


 え?なんかフィリアさん動揺してね?


「あなた、結婚した後もロベルトさんが仕事に行っている間にそのチャラ男を呼び込むつもりだったんでしょう?」


「なんでよ!今までもちゃんとロベルトが2,3日帰ってこないのを確認してから家に呼んでたわよ!毎日じゃないわよ!」


「・・・え?」


「・・・あ」


 シーンと静まり返る部屋内。そっかあ「今までも」って事は、魔が差したってのは嘘だったのね・・・。思い切り常習だったんだろうなあ。やばい、彼女の涙にコロッと騙されたぜ・・・。


「なるほど、わかりました」


 ロベルトさんはそう言うと、静かに椅子から立ち上がった。


「あの、ロベルト・・・?」


「フィリア、今日で貴方とはお別れです。この家も私の家なので、準備が出来次第出て行ってもらいます」


 ロベルトさんはフィリアさんにきっぱりとそう言っていた。


「ちょ、ちょっと待ってよロベルト!別れるって、お父さんもお母さんもあなたと結婚するって思ってるのよ!今更そんなことできるわけないわよ!」


「事情を話せばわかってくれますよ。それとハリー、君のご両親人にもこの事は伝えさせてもらう」


「へ、勝手にしろよ。まあ、親父とお袋がお前の言う事を信じるとは思えんけどな。軍を辞めてただの冒険者になっちまったお前の言葉なんかな!」


 そういうとハリーはロベルトさんをあざける様に笑い出した。なんで冒険者だと話を信じてもらえないんだ?俺はそう思いソニアにそっと尋ねた。


「ステータスの問題です。公務員とアルバイト、どちらが社会的に認められると思いますか?」


 俺はフリーターがダメだとは思わないが、どっちがと言われれば公務員と答えざるを得ないだろうな・・・。そのくらい冒険者と軍人では格差があるって事なのか。


 しかしこれは困った展開だ。あいつの言う通り、ただの冒険者の言葉なんか信じてもらえないのなら、それを補う証人の存在が必要となる。けどその証人も冒険者の俺とソニア・・・。あれ?これ詰んでねーか?


「お前はただの冒険者で、そっちの二人もそうなんだろ?軍のエリート兵士の俺の言葉と、お前らただの冒険者の言葉。親父達はどっちを信じるかなあ?」


 ハリーの奴はにやにや笑いながらそんな事を言ってきた。こいつがずっと余裕な感じだったのはそういう事だったのか・・・。


「はあ、もう本当にがっかり。こんな情けない男を好きだったなんて」


 さっきまで誤解だのなんだのとロベルトさんに懇願していたフィリアまでそんな事を言い出した。


「真面目だけが取柄で出世も間違いないと思ってたから付き合ってきたけど、もういいわ。将来性も無いただの駆け出し冒険者のあなたと一緒になるメリットなんかないもんね。軍のエリート兵士をまた探さなきゃ」


 フィリアは、さっきまでの態度はどこ行った?というくらいの手のひら返しでロベルトさんをディスってきた。なんだこいつら!すげえ腹立つ!

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