第23話 ここが私の家です

 無事(?)クエストを完了して下山した俺達は管理人さんに挨拶をし、街への帰路についていた。


「皆さん今回は本当にありがとうございました。おかげでプロポーズも計画通り行えそうです」


「お役に立てたのなら何よりです。プロポーズ頑張ってくださいね」


 ロベルトさんの言葉にソニアがそう答えていたが、俺も本当にそう思うわ。ここまで来たら絶対にプロポーズを成功させてほしい。


「あの、皆さんさえ良かったらなんですが・・・」


 ロベルトさんの言葉に俺とソニアは「なんだろう?」と顔を見合わせた。


「婚約者にお二人をご紹介したいのですが、ダメですか?」


 何かと思えばそんな事を聞いてきた。ダメじゃないって言うか、ロベルトさんの婚約者さんはぜひ見てみたい気がする・・・じゃなくて見たいな。


「ええ!?いいのですか?私もぜひご紹介頂けたら嬉しいです!」


 俺が答える前にソニアがすでに承諾・・・つーか、自ら進んでお願いしていた。


「それではついでと言っては何ですが、このまま私の家までご同行願えますか?」


「あら、でもいいの?プロポーズの邪魔になるのでは?」


「大丈夫です。ちゃんと二人きりになったらいい感じの雰囲気の中でプロポーズしますから」


 おおっ!カッコいいなロベルトさん。ちゃんと二人きりになったらって所も分かってる感じがして好感度爆上がりだぜ。


「わかりました。そういう事なら是非お願いするわ」


 そういう事に話が決まり、俺達は街へ向かって歩き出した。ロベルトさんはプロポーズの言葉を考えているのか、さっきから先頭に立って何やらぶつぶつ言いながら歩いている。


 しかしなあ・・・。俺はそう思いながら、俺の隣を歩いているソニアを横目でちらっと見た。まさかこの金の亡者の女があんなに恋バナに目が無いとは思いもしなかった。ロベルトさんの婚約者の話になったらすげえ真剣に話を聞いてたもんな。


「あの、なんですかさっきから。ちらちらとこちらを見て」


 俺の視線に気づいたのか、ソニアがいぶかしげな目で俺を見ながらそう言った。別にチラ見してた記憶は無いが見てた事は間違いないのですみませんと謝罪した。そしたら、


「あ、もしかしてようやく私の魅力に気付いたのですか?」


 等とふざけた事を言ってきたので、


「いえ、違います」


 と、即座に否定してやった。それを聞いたソニアはブスくれていたが構わずに話をつづけた。


「意外だったなあと思って」


「何がです?」


「ソニアさんがあんなに恋バナすきだったなんて・・・と」


「はあ?私がですか?」


 いやだって、めちゃくちゃ前のめりでロベルトさんの婚約者の話とか聞いてたじゃん。ソニアが何の事かわからないと言った感じで返してきたので俺はそう言ってやった。


「ああ、あれは違うんですよ」


「違う?」


 違うってなんだ?何がどう違うんだ?


「優さん、私は今回ロベルトさんに色々なアドバイスをしました」


「ああ、そういえば励ましたりしていましたね」


 ソニアがそんな事をするなんてとちょっと驚いてたくらいだ。


「そして彼はその事を婚約者に話すでしょう」


「まあ、そうでしょうね」


「すると彼女はこう思うでしょう「さすが勇者様!素晴らしいわ!」・・・と」


 ソニアは自分の胸に手を当て、目をつぶりながらいかにも神聖な事を行いました風に俺にそう語ってきた。


 え?何こいつ、勇者としての尊厳とかを集めたいが為に一生懸命アドバイスしてたって事?うわー引くわー。素直に感心していた俺が馬鹿みたいじゃん。


「な、何ですかその顔は!良いじゃないですか!私の助言でマリッジブルーも改善されたし!色々な不安も話すことで緩和されることもあるんですよ!」


 まあ、そう言われると否定はできないな・・・。顔を真っ赤にして怒っているソニアを見ながら俺はそう思った。ま、結果オーライか。


 そんな話をしながら歩いていると街へたどり着いた。そしてさらに歩いていると住宅が並ぶ区画へ景色が変わった。そういえばこっちの方にはあまり着た事が無いな。


「ああっ!」


 そんな事を考えながら歩いていると、突然女性の声が聞こえてきた。


「え?今の声なんですか!?」


 聞いたことが無いような女性の声に俺は驚いてソニアに尋ねた。


出雲優いずもすぐるさん、あまり気にしないでよろしいかと。あなたには全く関係ありませんので」


 ソニアはしばらく考える仕草をした後、そんな風に言ってきた。


「いや関係ないって、だれかが襲われていたりしたらどうするんですか!」


 つーか、こういう時こそ「勇者の威厳をー」つって飛び出す時だろ!


「大丈夫です。きっと合意の上で襲われていますから」


「は?」


 こいつ何言ってんだ?合意の上で襲われているって・・・はっ!俺はその言葉を聞いてとある一つの結論に辿り着いた。さっきの声、つーか今も時折聞こえる声、俺がこっそり見ていたエロ動画のあの声に似ている!・・・と。


 そう思って聞いてみると、叫び声と言うより明らかになまめかしい声に聞こえてきた。こ、これは今まさに男女がそういう行為を行っている最中なのでは!?


 そう確信した俺は、声の方へとより集中して意識を向けようとしたが、突然ソニアにより両耳をふさがれてしまった。


「ちょっと!何するんですか!」


「はいはい、出雲優さんにはまだ刺激が強すぎますからねー。ロベルトさん、早くこの場を去りましょう」


 ソニアは俺の耳をふさいだままロベルトさんにそう言っている。


 ふざけんな耳から手を放せー!と言いたいところだが、何故耳から手を放せと言うのですか?と聞かれたら返答に困る。まさかあの声が聞きたいという訳にもいかず、何か良い案は無いだろうかと思案していると、それまで歩いていたソニアの足が止まった。


「えっとどうしまし・・・た?」


 ソニアにそう聞こうとしていたが、ソニアの視線の先にあるロベルトさんの姿を見て、少し言葉に詰まってしまった。ロベルトさん顔面蒼白だ。


「大丈夫ですか!?」


 ソニアがそう言いながらロベルトさんに駆け寄り、俺もそれに続いた。ロベルトさんは顔面蒼白になりながら、地べたに座り込んでしまっている。一体どうしたんだ?


「出雲優さんがさっきのあえぎ声に興奮してしまって、よほどそれが気持ち悪かったのですね。大丈夫!私がちゃんと今夜言い聞かせますので」


 ソニアがロベルトさんの背中をさすりながら、そんなとんでもない事を口走る。


「なんでだよ!!そもそも俺は興奮なんてしてねえ!」


「下半身丸出しでテーブルに乗っていた人にそんなこと言われて・・・モガガッ!」


「おいそれ以上言うな!」


 俺は思い切りソニアの口に手をやってふさいだ。ロベルトさんにまで変な目で見られたらたまったもんじゃないぜ・・・。


「いえ、そうでは無いんです・・・」


 そう言うロベルトさんの顔は真っ青だ。早く家に連れて帰らねば。そう思い俺はロベルトさんに「肩を貸しますよ」と提案した。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 と、やんわりと断られてしまった。


 仕方ないので、俺とソニアもロベルトさんの体調が回復するまで一緒に座っていることに。


 しかし静かに座っていると、さっきの女性の喘ぎ声みたいなものがより鮮明に聞こえてきた。エロ動画と違って現実の生の声が聞こえてくるとあって、俺はポーカーフェイスを気取りながらも内心大興奮だった。


 しかし至福の時はそれほど長くは続かなかった。何故なら隣に座っていたソニアが俺の両耳を再び手で塞いできたからだ。


「ちょっとやめてくださいよ!」


 俺はソニアの手を振り払った。せっかく生の声が聞けるチャンスだと言うのに、このはずれ天使は何をしてくれるんだ!


「あの声は出雲優さんの教育に大変よろしくないので遮断します」


 この女、俺がしっかり聞き耳を立てていることにもしかして気付いていたのか!?つーか、教育によろしくないのはお前の行動全ての方だろうが!


「いえいえ、他人様のお家の性事情を盗み聞きするほど野暮ではありませんので、どうぞお構いなく」


 そう、俺は社会勉強の為に聞いているだけだ。決して他意は無い!そしたら、


「まあ、出雲優さんが、毎晩この私と言う最高の女性と暮らしていることから、色々なものがまっているのは分かっているつもりなんですけどね」


 このはずれ天使はこんな事を言ってきた。なので俺もキチンと返事をしておいた。


「いえ、それは全く無いです」


「なんでですか!?おかしいでしょ!こんな麗しい女性と毎日一緒なんですよ!?絶対ムラムラしてるに決まってるじゃないですか!」


「寝言で「お前の金は俺の金」なんて言う奴にどうやったらムラムラ出来るんですかね!こっちが教えて欲しいわ!」


「あのお・・・」


 俺とソニアがギャーギャーと言い争いをしていると、ロベルトさんが困り顔で話しかけてきた。


「あまり大きな声を出すと聞こえてしまいますよ」


「「す、すみません」」


「それに僕の家の近所で騒がれると、後々大変なので・・・」


「重ね重ね申し訳・・・ん?ロベルトさんの家ってこの近所なんですか?」


 なるほど。そりゃ、他人の家の情事を盗み聞きしていたなんて事が広まったら、ここに住みにくくなるな・・・。そう思ってたら、


「ここが私の家です」


 ロベルトさんがそう言った瞬間だった。


「ああっ!」


 ロベルトさんが指した、ロベルトさんの家と思われる建物の中から色っぽいあの声が再び聞こえてきた。


 え?ロベルトさんの家ってここ?だって、ロベルトさん婚約者と住んでるって言ってたよね。え?じゃあロベルトさん家から聞こえるこの声は誰の声なんだ?


 思わず顔を見合わせたソニアの顔には滝のような汗が流れ落ちていた。多分俺の顔も一緒だろう。


「ええーーーーーーーっ!」


 そして俺とソニアは同時に驚きの声を上げていた。

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