第22話 ここは俺に任せて先に行け
巨大芋虫と遭遇した後は特にこれと言ったトラブルもなく、俺達はすぐに湖に到着した。ここは以前、俺とソニアが氷草を採取した場所でもある。
カラフル山は4週間と言うサイクルで季節が変わる面白い山なんだが、実は草木も4週間サイクルで変化しているらしい。どういう事かと言うと、夏には夏の草花や木の実が成り、春には春の草花が生えているんだ。
実は季節が変わる瞬間に一斉に咲いている花や草、なっている木の実がその季節の物に変化するらしい。
なのでたった4週間と言えど、きちんとその季節の生物や草花が存在するんだと。しかも約1か月単位で季節が変わるので、季節固有の薬草などを独占しようと言う輩も現れない。結構考えられてるよな。
そんな話を鼻高々とソニアから自慢されながら俺は夏化粧を採取していた。化粧って言うくらいだから、それなりに派手な花なのかなーと思ってたら、白く透明感のある質素な花だったので驚いた。
とても品のあるきれいな花で、なるほど女性へのプレゼントとして選ばれるのにも納得の花だと思った。
「ロベルトさん、花はどれくらい必要なんでしょうか?」
「そうですね・・・。出来れば花束として渡したいので、それくらい集まってくれれば嬉しいです」
そう言われて、俺とソニアは再び花の採取に取り掛かった。前回ソニアは雪遊びに興じて全く採取を行わなかったが、今回は木陰に夏化粧が生えていることもあり、一応採取活動を行っているようには見える。
まあ、ソニアが「それでは頑張って採取してください」と俺達を送り出そうとしていたので「クエストに参加せずに報酬をもらおうとか思ってませんよね?」と念を押したからというのもあるかもしれない。
明らかに採取した本数が少ないように見えるが、こっちが汗だくで働いている時に、湖辺りでうろうろされるよりは精神的に楽なので何も言うまい。
しばらく活動を続けていると、それなりの本数が揃ったので、花をソニアの持つ天使の箱に入れて、少し休憩をとったら下山しようと言う話になった。
「そういえばあなたの婚約者はどんな人なの?」
休憩の為に近場にあった岩に座っていると、突然ソニアがロベルトさんにそんな事を聞きだした。確かにそれは俺も気になるな。こんな依頼をしてまで花を集めてプロポーズしたい人なんだろ?
「実はフィリアは・・・あ、婚約者はフィリアと言うのですが、実はもう僕の家で一緒に住んでいまして」
「あら?同棲してるって事かしら?」
「そうなんですよー。で、今回は仕事で1週間ほど留守にするって言ってあるので、帰ったら驚くんじゃないかな~」
なるほど・・・。完全にサプライズってやつか。1週間会えないと思っていたら突然帰ってきて、しかも夏化粧の花束を持ってプロポーズか!ロベルトさんやるなあ。
「フィリアは僕の幼馴染でして、同じ幼馴染のハリーと3人でよく遊んだ仲なんです。今回のプロポーズは、実はハリーにも内緒でして。帰ったら二人ともきっとびっくりしますよ」
「あら?ハリーって事は男の幼馴染なの?」
「ええ、僕の大親友です」
「ふーん。でも、男二人に女一人だと、取り合いになったりしなかったの?」
あーなんか漫画とかでありそうな展開だよな。それで、男のうち一人が身を引いたり、事故で亡くなったり、3人ともダメになったりとかするんだよな。
「それがハリーは少しやんちゃな奴で、フィリアのような大人しい女の子はタイプじゃなかったらしいです。実は昔、フィリアにハリーが好きなんだけどどうすればいいかな?って相談されまして・・・」
「あら!それであなたはどうしたのですか!?」
ソニアが前のめりになってロベルトさんに尋ねていた。しかし気持ちはわかる。俺もどうなったのかすげえ気になるもん。
「僕は彼女の事が好きだったので、それを聞いた時はショックでしたけど、僕なりに精一杯のアドバイスはしましたよ」
「それでどうなったんです?」
「はい、結局フィリアはハリーに振られてしまって・・・。それで僕が慰めているうちに、いつの間にか付き合う事に・・・。なんか、僕が彼女を上手い事を言って丸め込んだみたいですね」
「そんな事無いわよ!あなたが一生懸命自分の事を考えてくれてた事にその子も気付いたんですよ!プロポーズするのにそんな弱気でどうするんですか!」
「ははっ確かに。すみません、ちょっとプロポーズを前に不安になってたのかも」
なるほど。マリッジブルーみたいなものにロベルトさんはなってたのかもな。しかしソニアも中々いいこと言うじゃないか。
「さっ、じゃあそういう事なら早いとこ彼女さんに花束を届けてあげましょう!」
「そうですね善は急げです」
俺の言葉にソニアも賛同し、俺達は休憩を終わって早速下山することにした。
前来た時も思ったんだが、下山するときのほうが楽かと思ったら、意外とそうでもないんだよな~。結局山道は上るときも降りるときも大変だ。
ガサガサっ!
そんな事を考えながら歩いていると、茂みからかなり大きな音が聞こえてきた。
「あの・・・動物にしてはやけに大きくなかったですか?茂みの音・・・」
「いやでもまさか・・・。今回は誰も何も言ってませんよ」
ソニアの言葉に俺はそう返事をした。ソニアの言葉信じるなら、フラグが立つようなことを言わなければ何も起きないはずだ。
「ちょっと心配ですね・・・」
俺がそんな事を考えていると、ロベルトさんがそう言いながら俺達の前に一歩出た。
「なーに大丈夫!何が出てきてもお二人には指一本触れさせやしません!ここは僕に任せて先に・・・もがもがもがっ!」
俺はロベルトさんの口を咄嗟に手でふさいだ!やべー!この人フラグ製造機か!ここは俺に任せて先に行け!なんて言われた日には、どんなモンスターが出てくるかわかったもんじゃない!
「よくやったわ
俺はソニアの言葉に従い、ロベルトさんの口をふさいだまま後ろへ後退した。すると・・・。
ガサガサガサッ!
大きな音と共に飛び出したのはイノシシだった。イノシシはしばらく俺達の方をずっと見ていたが、害が無いと分かったのかそのままどこかへ行ってしまった。
「た、助かった・・・」
そう言ってソニアはぺたんと地面に座り込んでしまった。そして俺もロベルトさんの口から手を離した。
「ちょっと何してるんですか!もしあれがモンスターだったら大変なところだったんですよ!」
いやいや、あんたの発言が一番危なかったんじゃ!とも言えず、俺はひたすら「すみませんすみません」と謝っていた。
はあ、今度神様が夢に出てきたら速攻でこのシステムは排除してもらおう。そう固く誓ったのだった。
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