第21話 カラフル山の法則
俺の目の前には巨大な芋虫が横たわっていた。10分ほど格闘した末、最後には芋虫の後方にそーっと回っていたソニアが剣でとどめを刺したんだ。
俺が懸命に格闘してもどうにもならなかった芋虫だが、ソニアが剣スキルにポイントを割り振っていたおかげか、はたまた勇者補正か何か知らないが、思ったよりも早く倒す事が出来た。
「ま、まあ、私にかかればこんなもんですけどね!」
ソニアが息を切らしながらそんな事を言ってきた。
「そ、ソニアさん、息切れしながら言っても説得力無いですよ」
「あなたこそ息切れしてるじゃないですか・・・」
俺とソニアの二人とも、いつもの口論にしてはキレが無かった。
巨大芋虫は正直低レベルのモンスターなので、動きももっさりしているし、正直弱い部類のモンスターらしい。とは言え、俺とソニアの二人は、初めてモンスターと遭遇して戦闘したわけだ。はっきり言って
「それにしても・・・」
俺達に回復魔法を掛けてくれているロベルトさんがそう話し始めた。
「ここはモンスターが出るような場所じゃないんです。なのになぜ巨大芋虫なんかが・・・」
「そういえば、ここはモンスターがいないって話でしたね」
カラフル山は街のすぐ近くにあるが故に、初心者冒険者のいい訓練と金稼ぎの場所になっている。なので、モンスターも狩られつくしているはずなんだと。現にもう何年もモンスターを見かけたことは無いのだとか。
「そうなんですよー。だから僕も安心していたんですが・・・」
「で、でも実際出たわけだから気を引き締めていきましょう!余裕とか大丈夫とか絶対言っちゃ駄目よ!?わかった!?」
いつもだったら「どんなモンスターが出ても私の勇者の威厳で~」とか言ってそうなソニアが、えらく慌てた様子でそんな事を言い出した。
そういえば、この前ロベルトさんが「クエストが終わったら結婚する」とか、フラグ立てのお約束みたいな事言った時から、なんか死亡フラグみたいなのに敏感になってる気がするんだよな。
・・・怪しい。
「あのロベルトさん、ソニアさんがトイレに行きたくなったらしいので、心配なので連れ添ってきます」
ソニアの言動に疑問を抱いた俺は、ソニアを問い詰めることにした。こいつ絶対何か隠してるだろ!
「え?あ、はい、そうですね、一緒のほうが良いかも」
「は?何言ってるんですか?私トイレなんて一言も・・・ギャアアアっ!」
俺は何かを言いかけてたソニアを「え!?もれそう!?それはまずい!」と言って、担いで茂みの方へ連れて行った。
「ちょっとこんな所連れてきて一体何をする気なの!?エッチ!変態!」
「おい、お前何か隠してるだろ?」
俺は罵詈雑言を俺に投げつけてくるソニアを無視してそう聞いた。
「ぎくっ」
おい、こいつ「ぎくっ」とか言ったぞ。
「な、何の事かしら~」
そう言うとソニアは、明後日のほうを向いて鼻歌を歌い出した。こいつ絶対何か隠してるぞ。あくまでもとぼけるつもりならば俺も容赦はしない!
「もし言わないのなら・・・」
「・・・何よ?」
「報酬は全部僕がお預かりしますので」
「はあああ!?そんな事許されるわけないでしょー!」
「え?でも僕そういう事ちゃんとしますよ?そもそも、僕のお金をソニアさんが全部持って行っているんですから、何の
俺がそう断言すると、ソニアは若干涙目になって諦めたようだ。この前実際に全部報酬持って行ってやったからな。あの時の苦い思い出がよみがえったのだろう。
「わかりましたよ!でもこの世界の人達に絶対話しちゃだめですよ!」
俺が「わかりました」と頷くとソニアは話を始めた。
「実は、カラフル山にはある法則が働いているんです」
「法則?」
「フラグ発言を行うと、それが現実になってしまうんです」
ん?一体どういう事だ?俺は一瞬何のことかわからず悩んだが、さっきのロベルトさんの会話を思い出した。
ロベルトさんは「ここは絶対モンスターが出ないから安心」って言ったんだよ。そしたらソニアが慌てだして、その後すぐにモンスターが出現した。
え?つまりフラグが立っちゃうような発言をすると、本当にフラグが立つという事か?え?まじで?
「えっと、なんでこんな事になってるんですか?」
「いやだって、モンスターも狩られ過ぎてしまって、刺激もないし丁度いいかな~って・・・」
なるほど・・・。この世界の管理者として、初心者の稼ぎ場としても刺激が無くなってしまったカラフル山へのアップデートってところか?それにしてもよりによって「フラグ立て」のシステムをなんで持ってくるんだ・・・。意味が分からんわ。
「分かりました。けど危険じゃないですか?口に出しただけでそうなる可能性があるなんて」
「そこは大丈夫!殺傷能力に長けたモンスターは出ないようにしてますから!」
ホントかよ・・・。まあ、さっきのもかなり低レベルモンスターぽかったし、大丈夫か・・・。
「しかしどうしてフラグの法則なんです?一定期間で弱いモンスターが沸くとかでも良かったのでは?」
「丁度その頃、一級フラグ建築士物のラノベにはまってたんです」
なんつーはた迷惑なものを・・・。まあしかし、効果はカラフル山に限定されているっぽいし、弱いモンスターしか出ないのなら問題は無いか・・・。全く出ないよりは、忘れた頃に出るほうが緊張感も増して、初心者の修練場としては良い狩場になるかもしれないな。
もちろんそんな事をソニアに伝えたらすげえ調子に乗ることは目に見えていたので、今度からそういう事は事前に言ってくださいとだけ伝えることにした。
そして俺達とロベルトさんは合流し、再び湖を目指して歩き始めた。
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