第20話 モンスターいないって言ったじゃん

 ロベルトさんとの打ち合わせから数日後、俺達は必要最低限の装備を整え、カラフル山の入口までやってきた。


「おうあんた、もう体調は大丈夫なのかね?」


 俺達が入り口付近にゃってくると、管理人のおじさんが俺に声をかけてきた。


「あ、どうも、その節はお世話になりました」


 以前クエストでこの山に登った時に、すこしだけご迷惑をおかけしてしまったんだ。


「今日もクエストかね?」


「はい、そうなんです」


「あまり無茶するんじゃないよ?」


「はい、気を付けます」


 前回のクエストでは、ソニアに頭を揺らされて雪の中意識不明になったり、熱中症で死にかけたりと散々な目にあったからな。ただし今回は俺とソニア以外にもロベルトさんと言う地元の人もいるし、滅多な事にはならないだろう。


 俺達は管理人に挨拶をして山の中へと入った。ゲートをくぐると、そこは夏真っ盛りの景色が広がっていた。


「うわーめちゃくちゃ暑い・・・」


 数週間前に体験したのでわかっちゃいたが、それでも暑い。


「こ、これは中々こたえるものがありますね・・・」


 ソニアが早くも弱音を吐いている。しかし俺も同じ気持ちだった。


 この地方は比較的温暖な気候ではあるんだが、季節はまだ夏ではない。なので、山の外まで着ていた服をソニアの天使の箱へ一旦収納し、ある程度身軽な服装へ着替える。


 実は荷物をどうするかと言う話になった時に「かさばる物は私の箱に入れましょう」とか言って、ソニアが天使の箱をロベルトさんの前で取り出した事があったんだが、何もない所から箱を取り出したものだから大騒ぎになったんだよな。


 結局ソニアが「き、企業秘密なので内緒です!」で押し通して今に至っている。まじで気を付けて欲しいぜ。まあ、そのおかげで今は堂々と使えているわけなんだけど。


「さて、カラフル山にはモンスターはいませんが、体調管理含めて気を付けていきましょう」


 ソニアがそう宣言し、俺達は登山を始めた。


 しかし一度来た山とは言え、夏と冬なので全然見える景色が違うな。前来たときは一面銀世界だったからなあ。今は「The・夏」という感じで、木々や草木も葉っぱが青々と生い茂っている。秋になったら紅葉とか見れるのだろうか?


 そんな事を考えながら、俺たち一行は水分補給などを小まめに行いながら、目的地である湖を目指した。湖と言うか、ちょっとでかめの池って感じだけどな。


 何で知ってるかと言うと、前回受けたクエストと同じ場所だからだ。どうもあの湖の周辺は、色々な植物が生えているらしく、余程希少価値のある植物でない限り、大抵はそこで揃ってしまうのだとか。


 実はこの街には冒険者の卵とも言うべき人達が大勢集まっている。その大きな要因が、このカラフル山なんだって。と言うのが、この山には生活に役立つ物から冒険に役立つ物など、様々な素材が採れるという事で有名なんだとか。


 しかし山は山なので、通常の登山に関連する危険と準備の面倒さは兼ね揃えている。なので、アイテムの採取依頼などは絶えない。それが初心者冒険者の手ごろなクエストに繋がっているというわけだ。


 そういう話を今ロベルトさんから教えてもらったところだ。


「なるほど、だとすると初心者冒険者の私には有難い山ですね」


「そうなんですよ。ここは絶対モンスターも出ないですしね。その面では安心安全です」


 そういえばモンスターも出ないとかソニアが言ってたな。それを思い出してソニアの方を見ると・・・。


「あの、ソニアさん大丈夫ですか?」


 物凄い絶望感を漂わせてソニアが突っ立ていた。顔色も悪い。


「・・・また、フラグ立てのような事を言いました」


「は?」


 フラグ?フラグって・・・ああ!ロベルトさんが言った「絶対モンスターが出ない」って所か!?さすがに気にしすぎだろ。


「何かこの前も似たようなこと言ってましたね。そんなに気になるんですか?言っときますけど、あれは漫画やアニメの世界での出来事ですから」


 大体何かを口にしただけで、フラグみたいなもんが立ってたまるか・・・ん?あれなんだ?俺達が歩いている山道の先に、何やらうにょうにょした生き物がいた。


「え?ええっ!?あれは巨大芋虫です!なんでこんなところに・・・」


 ロベルトさんがそんな驚きの声を上げた。


 巨大芋虫?何それ?


「あの何ですかそれ?」


「モンスターです。動きは鈍いのですが力が強く、攻撃が当たるとかなり危ないです」


 まじかよ、モンスターいないって言ってたじゃん!と、とにかくここは何とかしなければ!


「先生!出番です!」


 俺はソニアにそう叫んだ。今でこそ、その勇者の称号の実力を世に知らしめるときだろう。


「え?なんで私なんですか!従者のあなたがなんとかしなさいよ!」


 しかしソニアはそんな事を言って戦闘を拒否。


「無茶言わないで下さいよ!僕は回復補助メインなんですよ?ソニアさんは剣スキル持っているじゃないですか!」


 お前こういう時の為の勇者だろうが!ここで剣を取らなかったらいつ取るんだって話だぞ!


「いやですよ!大体自慢じゃないけど、私、剣なんか振った事ないんですからね!」


「自慢しないで・・・うわああああっ!」


 ふと気付くと巨大芋虫はゴロゴロ転がりながらロベルトさんの方へ向かっていた。ロベルトさんは杖を持ったまま固まってしまっている。


「くそおおっ!」


 俺はそう叫びながら芋虫に向かって突進していった。

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