第18話 破格のクエスト

すぐるさん、良さそうなクエストを持ってきました」


 しばらくすると、クエスト探しに行っていたソニアが戻ってきた。


「あれ?一枚だけですか?」


 ソニアの手に握られていたのはクエスト用紙1枚だけだった。てっきり何枚も持ってくるかと思ってたんだが。


「それが、王都までの長期間の護衛クエストやモンスター退治の補助要員などばかりでして・・・」


 はぁ、とため息をつきながらソニアはそう答えた。なるほど・・・。要は俺達の条件に合うようなクエストが無かったという事だな。やはり戦力の底上げは急務だな。レベルが低いと安くてきついクエストしか回ってこない。


 なんかいつもだったら「この私が選んだクエストですよ。ありがたく御覧なさい」とか言いそうなのに、えらく大人しかったのは、レベルの大切さを少しは理解してくれたって事だろうか?


「ちょっと用紙を見せてもらっていいですか?」


 そう言って俺はソニアからクエスト用紙を見せてもらった。


・依頼者:ロベルト

・内容・カラフル山への同行者募集

・報酬・10,000ゴールド

・同行者のレベル:不問、初心者でもOK

・ギルドの設定難易度:E


「ええっ!何ですかこの破格の内容は!?」


「ふふっ」


 俺が驚くと、ソニアは口に手を当てて笑い出す。


「やはり天使であり勇者であるこの私が直々に選んだクエスト、出雲優さんもさぞかし驚いたのでは?」


 等とどや顔で言ってきた。


 なんかえらく大人しくしてるなと思ったら、別にそんな事は無かった。単にどや顔したいだけだった。


「しかし、なんでこんなに報酬が高いのでしょうか?」


 俺がそう言うと、そこはソニアも気にはなっていたらしい。


「そうなんですよねー。報酬が高いから一応持ってきてはみたのですが、レベル不問初心者OKでこの報酬は怪しいですよね」


「そう思っていたのなら聞いて来て下さいよ」


「は?何故勇者であり天使でもあるこの私がそんな事をしなければいけないのでしょう?」


 俺が文句を言うと、至って真面目な顔でそう返されてしまった。


「はいはい、俺が聞いて来ますよ俺が」


 もう言い返すのも面倒だったので、自分で受付に行くことにした。後ろではソニアが「気の利かないモブですね」等と言いながらお茶を飲んでいた。あいつ絶対いつか見とけよ・・・。


「あの~すみません~」


 俺は受付に行ってスタッフさんに声をかけた。


「あら、出雲いずもさんじゃないですか?今日は畑のモグラ探しのクエストがありますよ?」


 ここのスタッフさんとは顔見知りで、俺が行くと必ずお勧めのクエストを紹介してくれる。


「いえ、今日はこのクエストについてお聞きしたくて」


「どれですか?ああ、ロベルトさんの依頼ですねー」


「あ、ご存じなんですか?」


「実は出されたばかりのクエストなんですよー。とてもお得な依頼だったので、誰が受けるのかな~って思ってたら出雲さんだったんですね」


スタッフさんの反応から察するにどうやら怪しい類の依頼ではないようだ。俺はちょっと安心したが、なぜこんなに破格の報酬なのかが気になっていたので聞いてみることにした。


「あの、どうしてこの依頼は報酬が高いんですか?」


「ああ、気になりますよねー」


 そう言って笑うと、スタッフさんはこの依頼について説明してくれた。


「実はロベルトさんは最近冒険者になられた方なんですよ」


「あ、そうなんですね」


 じゃあ俺達と一緒って事か。


「それでその件で相談を受けまして、一人で行くと、何かあった時に危ないのでは?とアドバイスさせて頂いたんです。それで大事な依頼なので絶対に成功させたいという事で、ギルドが信頼できる人に許可をお願いします・・・という事だったんです。それで報酬が高めになっているんです」


 なるほどなあ。だとすると、俺達じゃこの条件に合わないのではないのだろうか?だって俺達ペーペーの初心者ですよ。そう思ったので聞いてみたら、


「出雲さんのパーティーなら太鼓判ですよ」


 と、にこやかに言われてしまった。


「いや、でも僕ら初心者のペーペーですよ?もっと他に良い人いるんじゃ・・・」


「このクエストは難易度自体は高くないんです。なので、必要とされているのは「信頼」ですね。そういう意味では勇者様のいる出雲さんのパーティーはこれ以上ないくらい条件にぴったりだと思いますよ」


 まじかよ!ここにきて初めてソニアが勇者であることが役に立つとは・・・。そう考えると、このクエストを円滑に進めるために「勇者の威厳」にポイントを振っていたのは多少意味があるかもしれないな。


「受けましょうこのクエスト!」


 突然後ろから声がしたと思ったら、いつの間にかソニアが立っていた。こいつは前も同じことしてなかったか?気になるなら一緒に聞きにくればいいのに。


「勇者というこの肩書が信頼の証ならば、私にはそれに応える義務があります!」


 びしっと決め台詞を言うソニア。そしてそれを見たスタッフさんが「おお、さすがです!」と拍手をしている。なんだこれ。


「行きましょう優さん!私を待っている依頼人がいます!」


 そう言ってソニアはスタスタとギルドの出口へ向かっていった。


「ソニアさん、まだ手続き終わってませんよ。一体どこへ行くんです?」


 俺がそう言うとソニアはスタスタと戻ってきた。


「(そういう事は早くいってくださいよ!恥かいたじゃないですか!)」


 そして「私外で待ってますから!」と言って、スタスタと外へ出て行った。あいつは一体何がしたいんだ?

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