第17話 勇者の威厳

 今後の方針が決まると、早速ソニアは「クエストを探してきます」と言って、掲示板の方に駆け出して行った。そこは自分で行くんだ?と思ったが、余計な事は言わないことにした。


 一人テーブルに残された俺は、今後の事について少し考えることにした。と、言うのが、この前のクエストで、俺とソニアのレベルが幾つか上がったからなんだ。


 たった一つのクエストで上がるもんなの?って疑問に思ったんだが、クエスト中に文字通りどんな経験をしたかでもらえる経験値の量も違うらしい。


 特に俺の場合、あのクエストで死にそうになったりした経験は全くの無駄ではなかったみたいで、一気に3つも上がってしまった。もうあんな事はごめんだけどな!


 そして俺は冒険者ギルドから渡されたカードを見ていた。そこにはレベルアップ可能の文字が表示されており、これを押せばレベルアップモードになるんだと。


 レベルアップモードでは、レベルアップに応じてポイントが進呈され、それで各種ステータスを上げていくシステムらしい。通常は1レベルアップに付き2ポイントもらえるのだが、勇者の従者は何故か1ポイントしかもらえない・・・。


 しかし他の職業と違い、上げるステータスの種類に制限が無く、魔法でも回復でも何にでもポイントを割り振れるのだとか。


 要は勇者の為の便利屋さんになれるような職業なのだろう。勇者が回復が必要だと感じたら回復に、前線で戦って欲しいと思ったら剣技にポイント割り振る・・・と言った感じだ。


 ちなみにソニアは2レベル上がっている。なーんにもしてないあいつが何で2も上がってるんだ?と疑問に思ったのだが、勇者は従者が取得した経験値の20%を取得できるらしい。


 つまり俺が稼いだ経験値の2割は自動的にあいつにピンハネされるという事だ。しかも勇者はレベルが上がりやすいらしい。普通逆じゃね?


 そして俺は驚愕きょうがくの事実を知る事となった。それは前回のクエストが終了し、レベルアップ時のポイント割り振りをどうしようかと、自室のベッドに座って考えている時だった。


 同じように隣でベッドに座りポイント割り振りをしていたソニアが、何も考えずに「えいえいっ。これで終了です」と、ものの数分で終わらせてしまったんだ。


「あの、一体どんな割り振りをしたんでしょうか?」


 あまりに早い行動に、そう聞かずにはいられなかった。


「特別に見せてあげましょう」


 等ともったいぶって言ってきたソニアのカードを見ると、


「勇者の威厳いげん


 と言う項目が+2になっていた。


「なんですか、この勇者の威厳とは?」


 ステータス名からは一体何の効力があるのか、全く予想できなかった。


 俺がそう言うと、隣に座っていたソニアはベッドから立ち上がり、俺方へ向き直りこう言った。


出雲優いずもすぐるさん、勇者の威厳とは、大勢の中から選ばれた特別なものである勇者の威厳、それを確かなものとし、より敬意を持って敬われるようになるスキルの事です!」


 と。


「えっと、つまりどんなスキルですか?」


 俺はソニアの説明では全く何の効果があるのか理解できなかった。


「これまでの私は、天界の神の使いである天使と言う特別なオーラで人々を魅了してきました」


 俺のはずれくじに入っていた天使は、それはもう真面目な顔でそんな話を俺にしてきた。そんな部分ひとっ欠片も無かったように思えるのだが。


「しかし勇者の威厳をまとった私は、誰かのそばを通るだけで、私から勇者としての威厳があふれ出てしまうのです」


「すみません、一ミリも理解できないのですが」


 一体この女は何を言ってるんだ?さっきからずーっと話が進まねえ。


「でーすーかーら!私を見るだけで、人々は私を勇者だと認識できるようになるのです!」


「え?それだけ?」


「それだけとは何ですか!?勇者にとって多くの人達から尊敬の念をもって見られることは重要な事でしょう!」


 それを聞いた俺は本気で頭が痛くなってきた。異世界での知識も経験も乏しく、しかも戦闘経験など無いに等しい俺達なのに、よりにもよってそんなどうでもいいスキルに割り振ってしまうとか・・・あ、そういえば・・・。


「ソニアさん、転生者は確か、別口でポイントをもらえたんですよね?」


 確か転生者のボーナスで、転生者ポイントももらえたはずだ。


「あ、忘れてました!そちらも割り振らないと」


 そう言ってソニアはいそいそとカードを取り出した。


「ところでソニアさん、転生者ポイントはどこに振るつもりですか?」


「もちろん勇者の威厳に決まっています」


 転生者ポイントにも勇者の威厳スキルあんのかよ!まあそれはいい。俺は適当に「そうなんですねー」とか言いながら、ソニアのカードを覗き込んだ。ソニアは今まさに勇者の威厳にポイントを振ろうとしている所だった。なので俺は、


「えいっ」


 そう言って「剣」のスキルを連打してやった。そして「剣」スキルに+2が表示された。


「よしっ!」


 これで何とか低レベルモンスター相手なら戦えるだろう。後は俺がソニアを補助するようなスキルを覚えれば・・・。


「あんた何してくれてんのよーーーーーーーー!」


 俺がそんな事を考えていると、次の瞬間ソニアに思い切りベッドに押し倒されて、凄い勢いで胸ぐらを掴まれて揺さぶられた。


「け、剣のスキルを習得させてあげたんです!」


「何余計な事やってくれたのよ!転生者ポイントも全部威厳に突っ込んで、色んな所でありがたいお話を皆に聞かせてお金を稼ごうとおもってたのにー!」


 うわ、こいつ最低・・・。


「そんな事しなくても、普通にクエストを受けてお金を稼げばいいじゃないですか」


「どっちが楽だと思ってるんです!?」


 うわ、こいつまじで最低!


 そんなやり取りを得たのち、しばらくの間ソニアはへそを曲げていたが、みるみる減っていく神様預金を目にして、そして俺が、神様預金を半分寄こさないならクエスト報酬はお渡ししませんと断言したことで危機感が生まれたんだろう。ある日「クエストに行きましょう」等と俺に言ってきたのだ。


 そして俺はと言えば、パーティーに回復薬がいないのはまずいと考え、回復スキルと解毒スキルにポイントを割り振った。


 なんではずれ天使が主人公役で俺がモブ役やってるんだ。納得いかねえ・・・。

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