第二章 異世界修羅場
第16話 求む!同行者のいるクエスト
「違うの!誤解なの!愛しているのはあなただけなの!」
「へえ、じゃあ君は僕を愛しているにも関わらず、別の男と平気で関係を持つような女だったんだ?」
「違うの!」
もうこのやり取りも何回目だろう。部屋の中では緊迫したやり取りが行われていた。そしてそれを固唾をのんで見守る俺とソニア。
ソニアを見ると、さすがのこの天使もこの場の空気に完全に飲まれているようで、微動だにしていない。
椅子に座り、腕を組みながら浮気した女を静かに、だが確実に追い詰めているのはロベルトさんだ。彼は俺達と一緒にクエストに行った仲間で、女の方はロベルトさんの婚約者だそうだ。
「なんでこんな事になったのでしょう・・・」
俺はぼそりと言ったソニアの言葉を聞いて、これまでの経緯を思い返していた。
「クエストに行きましょう!」
俺とソニアが宿屋の1階で夕食を食べていると、突然そんな事を言ってきた。今日はやけに静かだなと考えていたら、クエストの事を考えていたらしい。と言うか、前回のクエストもこんな感じで始めなかったか?
前回受注したカラフル山で氷草を採取してくるクエストでは、そのほとんどを俺の熱中症の治療の為に使ってしまい、思ったような報酬は受けられなかったのが余程堪えているんだろう。
最初クエストの成功報告をしたとき、こいつが報酬を受け取ろうとしたので、俺が無理やり横からかっさらっていったんだ。そしたら、
「ちょっと!人のお金盗らないでください!」
等と言ってきやがった。
そもそもこいつは俺の金を「管理する」とか言って渡さないのに、なんでそんな奴に盗人呼ばわりされなきゃならんのだ。
「わかりました。ではあなたが預かっている俺のお金を寄こしてください。それと交換です」
「拒否します!」
おい!なんで俺のお金を自分で持つことを拒否されにゃならんのだ!あれは元々半分は俺の物だろうが!
「ではこれはお渡しできません。それと前にも言いましたが、俺は自分が使った分を計算していますので、今いくら残高が残っているか把握していますからね。もし自分の計算より残高が少なかった場合、あなたが俺の分を着服したとみなしブチ切れますので!」
そう言うと、ソニアは言い返せなかったのか、明らかに不満顔でこちらを睨んでいた。思い切りほっぺを膨らませるような怒り方なので全く怖くないんだが。
とまあ、こんなやり取りがあったのが数日前の事だ。恐らくソニアの中で金を稼ぐにはクエストしかないと言う判断になったんだろう。つーか日頃から俺みたいに、小さなクエストをコツコツやっとけばいいのに、
「そんな弱小クエストみたいなものをやってたら勇者としての
とか
「なぜ天使の私がそんな使い走りのような事をしなくてはならないのですか?」
とか言ってるから何もできなくなるんだよな。
俺の方は毎日一人でできるクエストをやっているおかげか、僅かではあるが報酬も入るし、街の住人とも顔見知りになる事が出来ていた。いや~やってみると人付き合いも悪くはないもんだね。
しかしクエストか・・・。俺は目の前にいる、見た目だけはピカ一の天使の娘さんを見ながら考えていた。
俺もこいつも正直異世界での冒険者としては素人同然だ。ソニアがこの世界の管理をしていただけあって俺よりもこの世界には詳しいが、まあそれでも誤差の範囲だろう。
せっかくの知識も、持っているだけではダメだと言うのはこの前のクエストで身に染みて痛感した。
俺達にはもっとこの世界の常識に詳しい人間が必要だ。別に高レベルとかじゃなくてもいいから、この世界の一般的な常識を知る人間が。そうだ・・・。俺は一つの案を思いついた。
「ソニアさん、今度のクエストは、同行者がいるやつにしませんか?」
「どういう事ですか?」
つまりだ、要は誰かのお手伝いをする系統のクエストを探そうという事だ。俺達がメインで何かをするのではなく、誰かのお手伝いをさせてもらう。そうすることで経験を積むことが出来るんじゃないだろうか?
「つまり、誰かと一緒にクエストをしようという事です」
俺は詳細を話さずにそれだけを言った。だって俺達だけじゃ不安だから誰かと一緒に行ってもらうなんて言った日には、
「この私と言う存在がいるだけで十分じゃないですか?」
とか
「天使としての
とか言い出しそうだったんだもん。
「なるほど、勇者としての威厳を下々の者にも見せつける必要性をあなたも感じていたのですね」
しかしこのはずれ天使は違う受け取り方をしたようだ。もう駄々をこねなければなんでも良いわ。
「しかし問題があります」
「問題ですか?」
誰かと一緒にクエストをするのに何か問題などあっただろうか?俺としてはソニアが迷惑かけなきゃ良いけどな~くらいしか思いつかないのだが。
「天界では神の使いである天使であり、地上では勇者として君臨するこの私に相応しい人物が、果たしてこんな田舎町に存在するのか?という問題です」
真面目に聞いて損したぜ。
「わかりました。ではソニアさんはあなたに相応しい人物を探してください。俺は俺に相応しい人物を探してクエストに行きますので」
俺がそう言うと、ソニアは思考停止したかのように一瞬だけ固まったが、
「と、言いたいところですが、私は非常に寛容な天使なので、下々の者がクエストに同行することを特別に許可しましょう!」
と、慌てて言ってきた。
つーか、最初から素直に行くと言えばいいのに。
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