第13話 だって私の従者でしょ?

「ここがカラフル山の入口ですか・・・」


 俺達はもらった装備と購入した防寒着を来て、カラフル山の入口に立っていた。


「そうです、ここがカラフル山の入口です」


「今は冬の周期に入っているという話ですよね?」


「今のカラフル山は雪が降り積もる、それはそれは素敵な山となっています!」


「ふむ」


 その話を聞いて、俺はもう一度入り口付近から山全体を見ていた。しかし何度見ても雪の「ゆ」の字も感じないのだが。普通に木が生えていて「ザ・山」という感じの山だ。


「あの、冬の周期と言う割には全くそんな感じが全くしないのですが」


「ああ、それは入ってみればわかりますよ」


 そう言うが早いか、ソニアは山の入り口に立っている管理者に通行許可証を見せて、スタスタと山の中へと入っていった。そして俺もそれに続いて山の中へと入っていく。


「おおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は思わず絶叫していた。山と街の境界線がどこにあるのかはわからなかったが、ある瞬間から一面銀世界へと景色が変貌していたのだった。目の前には小さな洞窟らしきものも存在し、雪山って感じをさらに盛り上げている。


「すっげええ、一面雪景色だ!どうなってるのこれ!」


 俺はめちゃくちゃ興奮していた。なんせ住んでた場所は雪は降るけど積もる事なんて無かったからな。興奮するなってのが無理な話だ。


 しかしあの金の亡者の天使ソニアは、そんな俺を冷ややかな目で見ていた。なんでだよ、お前が一番はしゃいでたくせに。


 そして俺は、ふとある事に気が付いた。


 俺は山の外へ目を向けたが、「出口」と書かれたゲートが見えるだけで、こちら側からは街の様子は伺えないようになっていた。どうなってるんだこれ?


 山の外の入り口付近にはお土産屋がこれでもかと並んでおり、ここからでも店が余裕で見えるはずだし、すぐそこには管理者もいるはずなんだが全くそれが見えず、延々と雪山が続いているように見える。


「ソニアさん、なんで街の様子が見えないんでしょうか?」


 俺はこの世界の管理もしていたというソニアに聞いてみた。


「それは景観を損なわないようにとの配慮からです」


 と、何故か小さい声でぼそぼそと話している。


「なんでそんな小さな声で話してるんですか?」


 なので俺も小さい声でそう聞いてみた。


「出雲優さん、さっきも言いましたがこちらかは見えていないだけで、外からはこちらに誰がいるのかとか見えてますし、話し声もばっちりそこの管理者に聞こえています」


「え?」


 それを聞いて、俺はさっきまで管理者がいたはずの場所へ目を向けた。つまりこっちから見えないだけで、向こうからは俺が見えてるの?さっき俺がおおおおっ!とかはしゃいでたのも丸見えか!?


 あ!それでこいつさっきからずっと大人しかったのか!


「ちょっとそういう事は早くいってくださいよ!」


 俺はさっきよりも小声でソニアに抗議した。


「大丈夫ですよ出雲優いずもすぐるさん。あなたのような卑しい身分の者が騒いだところで、誰も気に留めたりはしません。あ、でも勇者の従者となったのですから、少しはわきまえてくださいね」


「だーれが卑しい身分ですが誰が!」


「え?あなたですけど?」


 ソニアはさも当たり前のことを何故にこの男は聞いてくるのかしら?みたいな顔で俺を見ていた。


「いえ、もういいです」


 ダメだ、こいつを当たり前の常識を持った奴として接していたら俺の負けだ。俺はこの話題は切り上げて、クエストの話題に切り替えることにした。


「ところで「氷草」でしたっけ?なんか山腹に生えている事が多いとのギルド情報でしたが」


 スタッフの話によると、冬の山中で採れるこの薬草は、なんでも高熱を下げたり、熱中症等の症状に良く効くそうだ。やはり冬に生える草だから、熱を吸収したりする効果でもあるんかね。


「たしか、カラフル山の山腹にあるカラフル湖の周辺に生えていた記憶があります」


「え?詳しいんですか?」


「出雲優さん、私はこの星の管理者です。それくらいの事は知っていて当然です」


 このはずれ天使は何当たり前の事聞いてくれてんのよって感じで俺に答えてきた。知ってて当然の管理者だったら、もっと楽に生きられるように行動してくれませんかね!


「スミマセンデシター」


 そう思いつつも、面倒なので表面上謝ることにした。


 しかし冬にとれる薬草が高熱に効くなら、他の季節に採れる草花も何らかの効果があるって事だろうか?ソニアに聞くのが手っ取り早そうなんだが「そんなことも知らないのですか?これだから下賤の者は~」とか言われそうなので、今度自分で調べることにしよう。


 そしてそれから数時間ほど歩いただろうか?少し広い場所に出る事が出来た。ソニアの言っていた通り小さい湖も存在していた。


「ここがさっき言ってた湖ですね」


「そうです。恐らく周辺を探せば氷草が生えてると思うのですが・・・」


「なんか特徴とかありますかね」


「カチカチに凍っています」


「いや、大抵の草木は凍ってますけど・・・」


 雪が積もってるもんだから、大抵の草木は真っ白なんだが。


「いえ、そうではなく、草そのものが凍っているのです。雪がどうとかではなく最初からそうなのです」


「あ、それで「氷草」ですか?」


 なるほどねえ。雪が降るから凍るんじゃなくて、最初から凍っているから氷草か。面白いな。


「なので、その辺りの草むらをはたいてみて、カチカチに凍っている物があったらそれが「氷草」です」


「了解です」


 ソニアから詳しい特徴を聞いた俺は、そこら辺の真っ白になった草むらに突撃していった。確かにこれは面倒だわ。


 それから30分ほど経過しただろうか?俺はついにカチカチに凍った氷草を発見した!確かにこれは凍っているという表現しかできないわ。雪が積もって凍っているんじゃなくて、草そのものがカチコチなんだ。


 俺はそれを採れるだけ採って、ソニアから渡された保冷バックに収納した。


「ソニアさん、氷草見つけましたよーって!あんた何やってんだーーー!」


 俺が氷草をを見つけてソニアの所へ戻ってくると、なんとこのはずれ天使は雪だるまを作って遊んでいた。俺が必至で氷草を探す為に寒い思いをしながら雪の積もった草むらを書き分けている時に、この女は雪遊びだとおおおおおっ!


「見てください出雲優さん!この立派な雪だるまを!私、初めて作ったというのにこんな立派な作品が出来上がりました!」


 しかしそんな俺の怒りに全く気付いていないソニアは、そう言いながらどや顔で俺を見てくる。


「いやそうじゃなくてですね!僕が必至に氷草を探している間、あなたは何やってたんですか!」


「雪だるまを作ってたと言ってるじゃないですか!」


「そうじゃねーよ!氷草を探してくださいよ!なんで俺だけ探してるんですか!」


「そんなの当り前じゃないですか」


 え!?なんで?何で当たり前なの?


「だってあなた、私の従者ですよ?」


 はあああああああああっ!?なーにが従者だからだああ!だったらお前は勇者らしいことのひとつでもやれやあああああ!


 そうブチ切れた俺がソニアに文句を言おうとしたその時だった。それまでシンシンと降っていた雪が、突然横殴りの吹雪に代わったんだ。


「うぉっ!なんだこれ!」


「もう!あなたがさっさと氷草を見つけないから吹雪いてきちゃったじゃない!」


「俺のせいかよ!?だったらあんたも手伝えば良かったんじゃん!」


「なぜ勇者で天使の私がそんな雑用を・・・うわっぷ!」


 くそっ、やばい!雪がマジで強くなってきやがった!


「ソニアさん、早いとこ下山しましょう。このままじゃ遭難してしまいます」


「そうですね。吹雪がこんなにきついものとは思いもしませんでした」


 とりあえず今は喧嘩している場合じゃないだろう。正直寝袋とか防寒着とか必要ないじゃんって思ってたのだが、こりゃ確かに必要だわ。


 そんな事を考えながら、俺は下山の為に猛吹雪の中を歩き始めた。

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