第一章 カラフル山のクエスト
第11話 カラフル山
拝啓、お父さんお母さん、そして妹よ、元気ですか?僕は元気です。
今僕は、天使様と一緒に異世界へ来ています。
なんと天使様は勇者様なんですよ?
そして僕は勇者に仕える者として充実した生活を送っていm・・・。
・・・さん・・・ぐるさん・・・。
あれなんだ?誰かの声が聞こえるような気がする。俺はいま家族に手紙を書いてるんだよ。読んだ人誰もが心温まるような手紙さ。だから邪魔しないでくれるかな。
「優さん!起きてください!」
突然女の声が聞こえたかと思うと、俺の顔に
「いってええええっ!」
気が付くと、ソニアが俺の上に馬乗りになってビンタをしていた!
「ちょっと!なんでビンタして・・・あれ?なんだこれ!ちょー寒いんですけど!」
「しっかりと気を持ってください!じゃないと凍え死んじゃいますよ!」
俺はソニアの言葉に慌てて周囲を見ました。辺り一面吹雪で前も見えないくらいだった。そしてどうやら俺は気を失っていたらしい。体の半分ほどが雪に埋まっていた。
危なかった・・・。どうりであの天使を「様」付けしたり「充実した日々を」とか、あり得ない夢をみたはずだ。しかし夢の中まで現実逃避してしまうとは・・・ううっ涙が出てきそうだ・・・。そう思いながら俺は周囲を見回した。
そこは見渡す限りの雪雪雪!そうだ・・・思い出した!俺達はクエストに来ていたんだった・・・。
「クエストに行きましょう!」
俺のはずれくじに入っていた天使のソニアさんが、ある日突然そんな事を言い出した。
「突然どうしたんですか?」
「突然ではありません。ずっと考えていたのです。このままでは、資金が尽きてしまう・・・と」
このはずれ天使は
「いやだから、割と早い段階で僕が指摘しましたよね?資金なんか使えばなくなるんですよって。何回も言いましたよね?」
そう、俺はずっとこいつに言ってたんだ。お金は使えば無くなるんですよ?って。なのにこの女は、
「大丈夫です!何故なら私は勇者だから!」
等と訳の分からない理論を振りかざして、俺の言う事なんか全く聞いてなかったんだ。
で、この女が何をしていたかと言うと、繁華街へ繰り出して「あ、勇者様だー」等と言われ、良い気分になって浮かれまくるという、そんなあほ丸だしの日々を過ごしていた。
そしてある日、俺はこの仕事もせずに遊び歩いている遊び人みたいな自称天使にこう言ったんだ。
「ソニアさん、前にも言ったと思いますが、僕は自分の使ったお金をしっかり計算して覚えていますので、勝手に僕の分を使ったりしたらブチギレますからね」
「えー大丈夫よ~。お父様からもらったお金はまだたっぷりあるし~」
とか言っていたが、その後裏でごそごそ天使の箱を確認していたのを俺は見逃さなかった。そして「クエストに行きましょう!」と言う、冒頭の言葉につながったわけだ。
おそらく思ったよりもお金が減っていたんだろう。俺は今すぐこいつから現金を奪って逃走したい欲求にかられてしまいそうになるが、俺はこの天使から離れられないと神様から言われている。
そのうえ何と、勇者であるソニアが死んだら、勇者の従者である俺も死んでしまうと言う、まさに一心同体、僕達ずっ友だヨ☆
自分で言ってて気分が滅入ってきた・・・。
そういうわけで、俺達はクエストを探すために冒険者ギルドへやってきた。ソニアは職業が勇者になって以来初めてここに来たらしい。一体こいつは何のために勇者になったんだ・・・。
俺はと言うと、ソニアに財布を握られている事への不安感から少しでもお金を稼ごうと、高齢者の家の草むしりやその他の雑用など、戦闘スキルを必要としない安価な報酬クエストに勤しんでいた。
だって考えてもみろよ今の状況を。自分で稼いだ給料を奥さんに全部握られて、毎月決まったお小遣いで生活しているサラリーマンみたいじゃないか。まあ、うちの親父なんだけど。
親父に金を渡すと湯水のように使ってたからな。ありゃ財布のひもを厳しく縛っていたおふくろが正しいわ。それはともかく、俺も自分で自由に使える金は持っているに越したことはない。
そんな事を考えていると、ソニアがクエストを見つけてきた。早いな、もう見つけたのか。そう思って用紙を
「カラフル山の氷草を求む」
と書いてあった。
「あの、カラフル山ってなんですか?」
名前を聞いて、思わず原色に染まった山の様子を想像してしまった。なので俺はソニアにそう聞いていた。この天使はこの世界の管理もしていたそうだから、恐らく知っている事だろう。
「出雲優さん、このカラフル山というのは、約4週間毎に季節が移り替わるのが特徴なのです」
「季節が移り替わる・・・。あ、それでカラフルですか?なるほど」
4週間ごとに見せる顔が違うからカラフルかあ。面白い山だな。さすがファンタジー世界って感じがするぜ。
「あれ?そこそこの報酬の割には難易度が凄く低いですね。なんでこんなお得なクエストが残っていたんでしょうか?」
よく見ると難易度は最低ランクのEだ。あ、ちなみにSSからEまで難易度は設定されていて、Eが一番優しい難易度となる。ちなみに俺がやってた雑草取りなんかには難易度は設定されてない。
「そうなんですよ。私もそれを不思議に思ってまして。それでギルドのスタッフに伺おうかと考えていたところです」
「なるほど、それが良いかもしれませんね」
そして俺達はギルドのスタッフの人にクエストの詳細を聞くことにした。しかし10秒経っても20秒経ってもこの女は一向に受付に向かおうとしない。
「あの、受付に行かないんですか?」
しびれを切らした俺はソニアに何故受付に行かないのかを尋ねた。
「出雲優さん、私は勇者なのですよ?その勇者が最低ランクのクエストの事で質問なんて、恥ずかしくて出来たものじゃありません!」
そのくらい察してください!とそっぽを向いてしまった。
「ソウデスネ」
もう、何かを言うのも疲れたので黙って俺が受付に行くことにした。
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