第10話 ダブルベッド

「ダブルベッドを置くしかないね」


 いきなり大問題が発生した。


 部屋を借りることが出来たのは良いが、かなりせまい部屋なので、部屋の大きさを計ってから家具職人の所に来たところ、上記のように言われてしまったのだ。ちなみにお店は宿のお姉さんから教えてもらった。


「え?嫌ですよ!私、こんな野獣のような男と一緒だなんて絶対嫌です!」


「おおおおいっ!俺の品性が疑われるような言い方は止めてもらえますかね!?」


「え?だってテーブルの上で下半身丸出しで・・・もがもががっ!」


 俺は慌ててソニアの口に手をやって塞いだ。こいつに事あるごとにこの話を吹聴ふいちょうされたのでは、この街で平穏へいおんに暮らしにくくなってしまう。


「とにかく!あなたと一緒のベッドとかお断りだから!」


 俺の手を振り払ったソニアがそう断言する。


「じゃあソニアさんは床で寝てください」


「なんで私が床なのよ!?」


 ソニアは信じられないこの男!女を床で寝させる気なの!?等とギャーギャー言っている。俺だって普通なら女を床で寝させるとか、そんな鬼畜な事絶対にせんわ!


「え?だってソニアさんは俺と一緒は嫌なんでしょ?」


 そう、この女は俺と一緒のベッドは嫌だと言い張るのだ。ならばソニアが床で寝るしか選択肢は無いだろう。


「あなたが床で寝ればいいじゃないですか!」


「え?嫌ですよ。僕はあなたと同じベッド寝るのを我慢できるんですから」


「我慢て何よ我慢て!?私と同じパーティーにいるのがどれほど光栄な事か、あなたには一度じっくりとわからせてあげる必要がありそうですね!」


「あの、いい加減にしてくれんかね?」


 俺とソニアが言い争っていると、店のおじさんから怒られた。


「あんたら夫婦じゃないの?」


「違います!」「違うわよ!」


 そして同じベッドじゃ絶対嫌だと主張するソニアに譲歩して、ベッドの占有割合を7:3とすることで、しぶしぶこいつを納得させることが出来た。もちろん俺が3の方だ・・・。


 宿屋に置いてあったような2段ベッドも考えたんだが、天井が斜めになっている関係上、どうしても高さが足りなかったんだよな。


 そして店の人に宿屋の部屋までベッドを運んでもらい、俺達は夕食を取るために宿屋の一階の酒場へと来ている。


 宿の人との交渉で、安く部屋を借りれる代わりに、朝晩の食事はここで取る事を条件に入れられたからな。まあ、かなり安く借りれたんでそこは譲歩させてもらった。贅沢しなきゃそこまで高い料金じゃないのも助かる。


「しかし最初はどうなる事かと思いましたが、これで私達はこの世界でも有数のエリートパーティーになりましたね。もちろん勇者であるこの私のおかげですが!」


 頼んだ海鮮パスタを食べながら、ソニアがそんな事を言ってきた。確かになあ、周りから見れば勇者とその従者パーティーって事で、それなりに羨望せんぼう眼差まなざしで見られている事は確かだ。


 けど実態は二人とも異世界初心者で、冒険のぼの字も知らない二人だ。しかも剣と魔法なんて使った事なんか当然あるわけもなく、唯一頼りなのがソニアがこの世界についての知識を有している事くらいだろう。


 なんかもう、まじで泣きそうなんですけど・・・。


「あ、優さん、それいらないならもらいますね」


 そう言ってソニアが俺の唐揚げを勝手に皿から取っていった。それは俺が最後の楽しみに取っておいたやつなのに・・・。


 そして夜になり、二人とも就寝の時間となった。


 そして非常にまずい状況になってしまった。


 昼間は全くなんとも思ってなかったが、いざダブルベッドを前にしてソニアと二人になると、無茶苦茶意識してしまう・・・。


 しかもこんな時に限って、死ぬ直前まで見ていたエロ動画の事なんかを思い出したりして、余計に挙動不審になってしまっていた。


「それじゃあ昼間言った通り、私が7割使いますから!ここから1歩でも入ったら領海侵犯ですからね!」


「そ、そんなことするわけ、なななないじゃありませんか!」


 やべえ、すげえどもってしまった!しかも何か言葉が変じゃなかったか?くそう、こいつの言葉通りじゃないが、ボッチで陰キャの俺には、この現状が高難易度のクエストにしか見えなくなってきた・・・。耐えろ!耐えるんだ俺!


 そしてどのくらいたっただろう?「絶対手を出さないでくださいよ!」とか「ああ、こんな危険な状況じゃ眠れません」等と言っていたソニアは速攻で寝てしまった。そして中々眠れずにいた俺が、どうにかうとうとしかけた時だった。


 俺の背中に何かが当たる感触がしたので後ろを振り向いてみると、ソニアが俺の背中に引っ付くように眠っているではないか!


 そして俺は背中の感触が何かを確かめるために寝返りを打って振り返っていた。つまり目の前には、見てくれだけは最高のソニアの寝顔があるという事だ・・・。


 これは非常にまずい状況だ!もしこんな状況で手でも出そうものなら、


「やはり高貴な天使である私の魅力には逆らえなかったのですね?良いのです。これは仕方のない事なのです」


とか


「エッチ!変態!やっぱりテーブルで下半身丸出しになっただけの事はありますね!」


 等と調子に乗られたりさげすまれたりすることは間違いない。それだけは絶対避けたい!しかし目の前には超絶美少女が!


 俺がそんな葛藤を繰り返していると、ソニアが「う~ん」と起きそうになった。そして、


「出雲優さん、そのお金は私のモノです。私のお金は私の物。あなたのお金も私の物です。わかりましたか?」


 などという寝言を言い、またすぐに寝息を立てて寝てしまった。


 そして俺は再び目を閉じて、今度は朝までぐっすりと眠ることが出来た。あれだ、人間気の迷いなんざ、一瞬くらいあるよな。

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