第8話 俺の職業が「勇者の従者」になってしまったんだが

「この街から勇者が誕生したぞおおおおおおおおおおっ!」


 誰かが大きな声で叫び、それを合図にスタッフ達から「うをおおおおおおおっ!」と歓声が上がった。そして、ギルド内に居た冒険者達も集まって来た。


「まじで勇者様が誕生したのか!?」


「やったあああああああああっ!」


 皆で大騒ぎである。


 なんかおかしくね?こいつ天使だけど、ガチャのハズレくじに入っていたハズレ天使だよ?おれのおまけだよ?なんでそいつが勇者になっちゃってんの?しかも神様から育て方を間違えたとか言われちゃうような奴だよ?


 いやまてよ?もしかしたら異世界から転生、もしくは転移してきた人間はみんな特別なクラスになれるんじゃねーのか?こいつは腐っても天使だったから、恐らくそういう事実も作用したんじゃないだろうか?だとすると、俺も特別なクラスに慣れる可能性は高いんじゃ!?


「あのすみません、僕のクラス適性もみてもらえないでしょうか?」


 勇者誕生で盛り上がってる中めちゃくちゃ声を掛けにくかったが、意を決してスタッフさんに俺のクラス鑑定をお願いした。


「・・・え?」


 そしたら「・・・え?」とか言われてしまった。え?ってなんだよ!え?って!むしろ俺が「え?」ですよ!


「あ、いえ、僕はまだクラスの適性を見てもらってないので・・・」


 予想外の出来事に俺の事などすっかり忘れていたんだろう。まあそれは仕方ない。仕方ないけど、とりあえず俺の適性も見てくださいお願いします!くそー、すっかりあいつに主役の座を奪われてしまった。


「えっと、あの、お客様は勇者様のお仲間として申し込まれましたよね?」


「はい、不本意ですが」


 あくまでも、俺の意思では無い事ははっきりさせておかねばな。


「あの、それだと適性検査は受けることが出来ないんです」


「・・・は?」


 おいおいおいおい、どういう事だよ!なんであいつの仲間だと適性鑑定出来ないんだよ!


「ちょっと!それどういう事ですか!?」


 俺はスタッフに詰め寄った。そりゃそうだよ!冒険者にあこがれて異世界に来たって言うのに、職業につけないって意味が分かんねーよ!


出雲優いずもすぐるさん」


 俺が涙目になってスタッフさん相手に取り乱していると、ソニアが声を掛けて来た。


「何ですか?今僕はスタッフの方と大事なお話をしているので、後にしてもらえます?」


 今お前におべんちゃらを使っている暇はない。俺の新しい人生の幕開けの大事な場面なんだ!


「出雲優さん、その方の言う通り、あなたはクラス鑑定を受ける必要は無いのです」


「へ?」


 俺はソニアの言葉にまぬけな返事を返していた。必要が無い?出来ないじゃなくて?必要が無いってどういう事?出来ないとは違うのか?


「さっき、パーティーを組んでから職業につくと、色々な相乗効果があるって話しをしましたよね?」


「ああ、そういえば・・・」


 例えば魔法使いだけど、パーティーに戦士が居たら魔法使いの体力が上昇する・・・みたいな相互効果があるとは聞いた。


「それはさっき聞きましたけど、それとこれが何の関係が?」


「実は、仲間が勇者になるとですね・・・」


「はい」


「パーティーの一人目のメンバー、つまりこの場合出雲優さんの事ですが、絶対に職業が固定されてしまうんです。このカードを持ってください」


 固定されるってどういう事だ?そう思いながらも俺はソニアがもらったのと同じカードを手にした。すると、ソニアのとは比べ物にならないくらい小さな光が一瞬だけ浮かび、すぐに消えてしまった。


「どうそカードを見てください」


 俺のカードが光ったのを見て、受付のお姉さんがそう言ってくる。なので俺は恐る恐る自分のカードを見てみた。


名前:出雲優


職業:勇者ソニアの従者


・・・。


「あの・・・」


 俺はギルドのスタッフさんに恐る恐る確認した。だってなんか、あり得ない文字が書いてあるんだもん。絶対これバグかエラーが出てるぜハハハハハ。


「はい」


「なんかの間違いで職業が勇者ソニアの従者になってるんですけど」


「はい!おめでとうございます!あなたは勇者の従者という、大変名誉な職業に付くことが出来るんです!」


 受付のお姉さんは、そりゃもうとびきりのスマイルで俺にそう言ってきたよ。


「あの、多分エラーか何かなのでやり直しとかは・・・?」


「ええ!何故ですか!?そもそもやりなおしは出来ません。後、従者は勇者が死ぬか、従者が死ぬまで従者を辞めることは出来ません」


 はあああああああっ!?え、じゃあ何か?俺、今後ずっと勇者の従者のままなの?あのハズレ天使の?お前ふざけんなよー・・・。


 ちとら夢と希望を持って異世界来たんだよ?これじゃ天界でブラック企業で天使の部下やってるのと変わんねーじゃねーか・・・。


 いや待て!そういえば、勇者が死んだら従者を辞めれるって言ってたな・・・。もういっそ、魔物の真ん中にこのハズレ天使を放り込んでとんずらしてやろうか?


「あの、勇者が死んだらどうなるんですか?」


 俺は一応念のために聞いてみた。


「勇者様が死亡された場合、従者の役職を解かれてしまいます。そして従者も死亡してしまいます」


 終わった。俺の異世界生活は、スタートと共に終了してしまった。グッバイ異世界。


「と言うかですね!?なんでそういう大事な事はもっと早く言ってくれなかったんですかー!」


 俺だってその可能性があるなら、最初から仲間としての登録なんか絶対しなかったんだよ!しかも勇者が死んだら従者の俺も死ぬ?つまり俺は、この異世界生活のすべてを、このハズレ悪魔天使を守る為だけに捧げなければいけないわけだ。


「説明足らずだったのは申し訳ありません。まさかこの街から勇者が誕生するなど、誰も予想していなかったものですから・・・。大抵は、もっと危険な地域等から誕生しているんです」


 やっぱりソニアが天使だって事が勇者になった事に関係しているのかもしれないな。だからこんな最初の街で勇者が誕生してしまった。なんてこった・・・ん?誕生している?「している」ってどういう事?


「あの、その言い方だと勇者が複数いるように聞こえてしまうんですけど・・・」


 それか邪竜討伐に失敗した勇者が複数いて、その勇者たちの出身地がもっと難易度の高い危険な地域出身だったっていう過去の話か?


「はい、勇者様は世界に複数存在しておられますよ。当たり前じゃないですかー」


 俺の言葉を冗談だと思ったらしい受付のお姉ちゃんは「もうやだー」とか言いながら笑っていらっしゃる。普通勇者ってこの世に一人だろ?大抵はってなんだよ大抵はって。いやちょっと待て!たしか神様の野郎がこう言ってたぞ・・・。


「あ、それと娘は邪竜を退治するまでそなたとは離れられんから」


 って!


 え?という事は何か?他の勇者に邪竜を倒されてもアウトなのか!?他の勇者に倒されたら、俺はずっとソニアと一緒に異世界生活を送らなきゃいけないって事?


 ただでさえ邪竜って言う、超難易度の試練が待ち受けているってのに、それに加え他の勇者との競争まで追加されるのかよ・・・。


 夢と希望の異世界生活は一体どうなってしまったんだ・・・。

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