第7話 勇者ソニア誕生
異世界での初めての朝を迎えた俺は、宿屋の1階で朝食をとり、ソニアと一緒にギルドへと向かっていた。
昨日の夜とんでもない目にあったせいか、初めての異世界での朝だと言うのに、俺の心はどんよりとしたままだ。
だって異世界で邪竜を倒すまで、あのはずれ天使にずっと付きまとわれることが判明したからな。旅の途中であいつを置き去りにするなんてプランは破棄するしかなくなったわけだ。つーか邪竜てなんなの?
あーそういえば、あいつのお姉さんの事を神様に聞くの忘れてたわ。忘れてたっつーか、聞けなかったんだけど。まあ、また聞く機会はあるだろ。
しかしそんな事ばかり考えていても仕方ないので、ギルドでクラスだけでも決めておかないとな。
ただ俺の場合、職業についての詳しい情報など全くわかっていないので、ソニアから軽くレクチャーを受けていた所だ。
「まず、この世界では好きな職業につくことは出来ません」
「え?何故です?」
おいおい、この天使様は一体何を言ってるんだ。俺が知っている異世界情報と全く違うんですけど。俺がラノベとかで読んだ情報では、自分の能力に応じて、ある程度好きな職業に付けたはずだ。
「ギルドでは、私達の潜在能力を計測します。それによって自動的に最適なクラスに振り分けられるのです」
「えーまじですかー。でも、自分がなりたい職業になれなかったらどうすれば・・・」
例えば魔法使いになりたかったのに、適性が戦士だったりしたら。修行を積んでやり直しとかできるのだろうか?
「その場合、冒険者への道を諦めるか、妥協して提示されたクラスを受け入れるかしかありません。人の持つ潜在能力と言うのは、生まれ持っての物ですから」
うわー、嫌だなそれ。俺、魔法も剣も使えるような万能職に付きたいんだけど、適性が戦士だったら魔法とか一切使えないんだろうか?
「あの、もし戦士になったら、魔法は一切使えなかったりするんですかね?」
「いえ、使えますよ。ただ、魔力のスキルポイントが一切付与されないので、レベルが上がっても初期状態の魔法しか使えません」
「つまり、強い敵と戦う場合なんかには役に立たない・・・と?」
「そう言う事です」
ロールプレイングゲームで言うと、ゲーム初期で使える魔法でラストダンジョンで戦うようなもんなのかな?そりゃあ使えねーよな。
「ただ・・・」
「ただ?」
「一応救済処置があります」
「救済処置?」
「はい。例えば「回復魔法師」とか。これは魔法使いと回復師の上位職となります」
「あ、転職が出来るという事ですか?」
「転職と言うより、クラスのアップグレードですね。回復魔法師は文字通り一般魔法と回復魔法の両方が使える上位クラスです。アップグレードなので、魔法使いから戦士へ転職などは出来ません」
なるほど!という事は当然「魔法戦士」みたいなのもあるはずだよな!なんだ、じゃあそんなに慌てる事も無いじゃん。
「それと、これは私達のように異世界から来た人だけに当てはまるのですが」
「え?異世界人専用の何かがあるんですか?」
おいおいまじかよ!いわゆるチート級の能力とかが付いてくるのか?いやでも、それは特典として用意されていたような・・・。
「異世界から来た冒険者は、クラス別のステータスとは別に、異世界人用のステータスポイントが用意されています」
「別のステータスポイント?」
「はい。通常レベルアップすると、クラス別にステータスにポイントが加算されるのですが、異世界人は特別スキルポイントを貰うことが出来ます」
「え?という事は、戦士でも魔法スキルを覚えたりできるって事?」
「そうなりますね」
なんだよ異世界スキル万能じゃん!
「実はこのシステムの導入には反対してたんです私」
「へ?なんでですか?」
こんな便利システム、反対する理由なんか無いだろ?大体こいつは天界に居たんだから、何の関係も無いじゃん。
「だって、こんな便利機能が付いたら、異世界行く人が増えるじゃないですか。そしたら私の仕事も増えるんですよ?でもまあ、私が使う事になったわけだし、結果オーライですね」
ダメだこいつ、性根から叩き直さないと。神様、あんたのびのび自由に子育てしすぎだろ!と言うかこいつの話を総合すると、この世界ってこいつらが作ったのか?システムを導入とか言ってたしな。
そしてソニアからそんな話しを聞いているうちに、俺達はギルドに到着した。
ギルドのドアを開けると、そこには荒くれ者達が昼間から酒を浴びるように飲んでいた・・・りする事は無かった。
部屋の中には掲示板の用な物がたくさん設置されていて、一番奥にカウンターがあり、その奥でスタッフが仕事をしていた。一応ロビーで食事を頼む事もできるようだ。
なんか俺が考えていたギルドのイメージと全然違うな。
一応、ソファーとテーブルのような物は設置されているし軽い食事も販売しているようだが、しかし昼間から飲んだくれて、冒険で起こった出来事を自慢げに話している親父なんかは、どこを探してもいなかった。
まあ考えてみれば、酒を飲みながら仕事の話しなんか出来るわけ無いよな。飲みたかったら酒場へ行くか、宅飲みすればいいわけだし。
俺がそんなくだらない事を考えている間も、ソニアはスタスタとギルドの奥へと歩いていき、そしてカウンターで足を止めた。
「あの、冒険者登録をしたいのですが?」
ソニアが受付の奥にいるお姉さんにそう話しかけた。
「あ、はーい」
そして受付にやって来たのは、腰まであるブラウンの髪がとっても素敵なお姉さまだった。
「はいはーい、冒険者登録ですね。まず、登録料金3000ゴールド、そして年会費3000ゴールドの計6000ゴールドが必要ですが、よろしいですか?」
「これを」
そう言って、ソニアは二人分の12000ゴールドをお姉さんに渡している。
「あら?お二人はもしかしてパーティーメンバーですか?」
「はい、その通りです」
「不本意ですが仲間です」
俺の言葉を聞いて「キッ」と俺を睨むソニア嬢。やばい、本音がついうっかり出てしまった。
「ん?えっとでは、お仲間なら割引が適用されて、9600ゴールドになります」
おお、異世界でも家族割みたいな事やってるんだ?注意事項として小さな*印がいっぱいついてたりしないだろうな。
「グループで登録されますと、お互いのクラスに影響を及ぼしてしまいますが、よろしいでしょうか?」
「ん?どういう事ですか?」
俺はその辺をソニアから聞いていなかったので、何のことか全くわからなかった。
「例えば、戦士と魔法使いになったとします。すると、戦士は仲間である魔法使いの影響を受けて魔法抵抗力が上がったり、逆に魔法使いは基本体力が上昇したりするんです」
「へー、それいいじゃないですか!」
「まあ、どのステータスに影響を与えるかは選べないんですが、なんらかのステータスの上昇は見込めますよ」
なるほど、それだと一人で登録するよりも有利な状況で冒険者登録が出来るって事か。
「それではどちらから登録されますかー?」
「私が先に登録します」
スタッフの言葉に、さも当然のように先に登録するソニア嬢。はいはいわかってますよ。どーせ俺は後回しですよ。
「では、ご存知かもしれませんが、規約により冒険者登録のご説明をさせて頂きます」
そういうとスタッフは、さっき俺がソニアから受けた説明と同じものを俺達に話し始めた。もちろん異世界人独自のスキルについては話しは無かった。異世界人という存在は、この世界では公になっていないのだろう。
「ではソニアさん、こちらのカードをお受け取り下さい」
そう言ってソニアが手渡されたのは、8インチスマホくらいの大きさのカードだった。表面はガラスで出来ているようだが、詳しくはわからないな。
「それではカードを両手で持って、カードに集中してください」
スタッフがそう言うと、ソニアは両の手のひらにカードを乗せ目を静かに閉じた。なるほど、こうやってカードに集中するのか。こりゃあ先にソニアにやってもらって正解だったかも。俺から先にやってたら何もわからず恥かいてたな。
そしてソニアがカードに集中してから5秒ほど経っただろうか?彼女の周りから金色のオーラのような物が出始めた。
「・・・え?えええええええっ!?」
すると突然受付のお姉さんが驚愕の声を上げ始めた。そして気が付くと、部屋の奥に居たスタッフがぞろぞろとカウンターの前に集まっていた。
え?え?これ何?何が起こってんの?俺は突然の出来事に訳が分からず混乱していた。そしてしばらくすると光は収まり、ソニアは目を開いた。
そしてソニアの周りを取り囲んでいたスタッフが一斉にソニアのカードを覗き込み・・・そして歓声が上がった!
「え?何?何騒いでんの?」
俺が呆気に取られ、一人でまぬけな顔をしていると、ソニアがカードを俺に手渡してくる。なんだよ一体・・・。そう思いながら俺はソニアのカードを見た。
名前:ソニア
職業:勇者
んん!?
職業・・・勇者って書いてある。
「ゆうしゃあああああああああああああああああああああああああっ!?」
俺は思わず、ギルド内に響き渡るようなでっかい声でそう叫んでいた。
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