第6話 天界からの報酬

「・・・あれ?俺いつのまにか寝ていたのか・・・ここどこだ?」


 目が覚めた俺は、大きなあくびをした後、目が覚めた場所が宿屋のベッドの上では無い事に気付いた。


 と言うか、この場所見覚えがあるんだが・・・。そうだ!俺が死んだときにきた場所だよ!え?つまりここって天界?あれー!?俺また死んだの!?なんで!?


 「出雲優いずもすぐるよ」


 俺が大混乱におちいっていると、これまた聞いた覚えがある声が聞こえて来た。


「え?この声って、ソニアのお父さんですか?」


「そうだ。久しぶり・・・ではないな」


 久しぶりどころかさっきぶりだよ!


「えーと、あなたがいるって事は、僕はまた死んだんですか?」


 だって神様がいるって事は天界って事だろ?という事は、俺は死んだって事になってしまう。


「そうではない。ここはお前の夢の中だ」


「夢?」


「そうだ。実はお前に話があって、お前の夢の中へお邪魔させてもらったわけだ」


 俺に話?神様が?・・・あー、ソニア関連の話しか?つーかそれしかねーよな。


「もしかしてソニアの事ですか?」


「そうだ。お前には無理やりあの子を押し付けたみたいで申し訳ないと思っている」


 ホントその通りだよ。金はパクるし金銭感覚はおかしいし、しまいには人の事を小汚いとか言い出すし!・・・あれ?ちょっとまて!


「あの、無理やり押し付けたって言いましたけど、あのハズレくじってまさか・・・」


「うむ、ワシが用意した」


「ちょっとあんた何やってくれてんすか!おかげで俺の異世界生活しょぱなからつまづいてばっかりですよ!」


「いや悪かったと思ってるよ」


 なんつーはた迷惑な事をしてくれたんだこのおっさんは!


 つーか、なんでそもそも自分の娘をハズレくじなんかに紛れ込ませてまで、異世界へ送り込もうとしたんだ?意味が分かんねーよ。


「なんでハズレくじに自分の娘を?」


 なので俺はダイレクトに聞いてやった。


「うむ、娘と言ってもあれは実の娘ではない。ワシが1000年前に死んだあの子を案内した事から始まったのだ」


 ・・・え?1000年前?あいつ1000年も生きてんの?と言うか、元は人間だったのか?


「あの日、そなたと同じように死んで天界にやって来たあの子に、もう一度人生をやり直すか天界で働くか決めさせたのだ。そしてあの子は天界で働くことを選んだ」


「なるほど・・・。僕とは逆の選択をしたわけですね」


「うむ。しかしな、天界の環境は、あの子を少々自由な人間へと成長させてしまったのだ」


「あれは少々ですかね!?」


 俺は天界で初めて会ってから、異世界で初めて宿に泊まるまでのあいつの言動を思い出してみたが、とても「少々」という言葉で片付けられるレベルじゃねーぞ!


「仕方なかったのだ。何しろ天界に来た時のあの子はまだ子供で、ワシも可愛くて仕方なかったからな」


 うーむあれかな?要は初孫が出来て嬉しくて仕方ないおじいちゃんのような態度で子育てをしてしまったって所か?


「それはわかりました。けど、それと俺に何の関係が?」


「あの子がわがままに育ってしまった主な要因は、何不自由ないこの環境にある、と言うのはさっきも言ったとおりだ」


 そうかなー!?たぶん育て方だと思うけどなー!


「そこで異世界と言う、天使という身分が何ら通用しない境遇で、自分みがきをして欲しいと思ったのだ」


「いやいやいや、それなら僕を巻き込む必要無いですよね!?」


「一人で行かせるのはかわいそうだろう!」


 それに付き合わされる俺の事は!?すげえかわいそうじゃね!?


「それで、前の候補者にも一緒に娘を連れて行ってくれと頼んだのだが、見事断られてしまったのだ」


「そりゃあ、断られるでしょうね・・・。あ!だからはずれくじに入れたんですか!?」


「うむ」


 な、なんて事だ・・・。前任者・・・と言うか、俺の前に異世界へ行った奴がソニアを連れて行ってさえいればこんな事には・・・。ん?ちょっとまて。


「あの、前の人は断ったんですよね?」


「うむ、残念ながらな」


「えっと、では今回僕が拒否したらどうなってたんでしょう?」


「仕方ないからくじを引き直させただろうな」


「・・・」


 あれ引き直せたのかよ・・・。そう言う事は早く言えよ!俺は神様の言葉に膝をついてがっくりとうなだれた。


「そう案ずるな」


 俺が落ち込んでいると神様がそう言ってきたが、そんなこと聞いたら絶対うなだれるに決まってるだろ!むしろこれ以上無いタイミングでベストうなだれなんだよ!


 しかし神様はそんな俺の態度など全く気にせず話を進める。


「見事邪竜を倒した暁には・・・」


 ・・・お!もしかして報酬とかあるのか? さっきの話しですっかり気落ちしていたが、神様からの報酬となればかなりの物に違いない!おお、ちょっとテンション上がって来たぜ。


「娘のソニアをお前の嫁にやっても構わん」


 そんな事をどや顔で言い出した。いや、顔は見えないからよくわからんが、絶対どやってるよな?


 確かにあの女は見てくれだけは最高だが、肝心の中身が最悪だ!絶対に俺は嫌だぞ!ちゃんと断る事の大切さを身を持って体験したので、俺は神様に断ることにした。


「・・・」


 あれ?


「・・・・・・・・・」


 あれれ?


「・・・・・・・!・・・・・・・!・・・・・・・・!?」


 あれー!?声が出ない!なんで!?


「それでは出雲優、娘の事を頼んだぞ!」


 いやおいちょっと待て!勝手に話しを進めるな!俺はお断りするんだよ!あ!思い出した!なんであんな変なダンジョンみたいな場所に俺らを転送したんだよ!おかげでひどい目にあったんだぞ!


「あ、それと娘は邪竜を退治するまでそなたとは離れられんから」


 はああああああああっ!?それって別個に別れて行動も出来ないって事!?おい!そんなの聞いてねーぞ!ふざけんなああああああああああああああああ・・・。


「・・ああああああああっ・・・いてっ!」


 頭に何かの衝撃を受けて俺は目を覚ました。目の前には超絶美少女の顔があった。


「なんだソニアですか・・・」


「何だとは何ですか!?何かよくわからないけど、失礼なこと考えてませんか!?」


 ただ単に、超絶美少女だと思ったらソニアだったからがっかりしただけだ。言うと怒られるから言わないけど。


「えっと、どうしたんですか?こんな夜中に」


 窓の外を見ると、まだ真っ暗の真夜中のようだった。


「どうしたもこうしたも、あなたがずっとうなされてるから降りて来たんです。そしたら苦しそうにしてたので、頭を叩いて起こしてあげたんですよ」


 頭を叩いてって・・・。まあいいやそれは。


「そうでしたか、それはありがとうございました」


「ねえあなた大丈夫なんですか?かなりうなされて・・・今も凄い汗ですよ。まあ、初めての異世界で不安もあるでしょうが、大船に乗ったつもりで私に頼ってください」


 そう言って、俺の額に浮かんだ汗を布で拭いてくれる。まあ、こいつも根っからの性格悪い奴では無いんだろうなあ。ただ自由過ぎるんだよな。そう思いながら俺はソニアの顔を見つめた。


「あの、なんで私の顔を、そんな温かい優しい目で見ているのでしょう?」


 そんな俺に、ソニアは気持ち悪いものを見てしまったかのような表情でそう言うのだった。

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