第5話 こんにちは異世界

 魔法陣に乗った俺達の体が宙に浮いたかと思うと、いつの間にか別の場所にテレポートしていた。


 さっきの部屋と似ているが松明などは無く、出口のようなところから太陽の明かりのような光が差し込んでいる。


「どうやらテレポートの魔法陣だったようね」


 ソニアはさっきまで魔法陣があった所を見ながらそうつぶやいた。魔法陣は俺達が出現してすぐに消えてしまったんだ。


 部屋を出ると、どうやら山の上のちょっとした穴だったらしく、そこからは眼下に広がる森のようなものが見え、少し遠くには町の建物が見えた。


「良かった・・・街がありますね」


 俺はそう言って、遠くに見える街を指さした。この距離でも見えるって事は、そこそこ規模の大きな街なんだろう。


「そうですね。こんな場所にいつまでもいないで、さっさと降りることにしましょう」


 それにしてもさっきの魔法陣は一体なんだったんだ。なんか誰か知らないけどすげえ剣幕で俺達がいた部屋まで来てたし。さっきの奴らが追いかけてこないうちにとっとと山を下りてしまおう。


 そして俺達が山道を道なりに降りていくと、森の中の通っている道にたどり着く事が出来た。これをさっき見た街の方向へ歩いて行けば、いよいよ異世界での俺の冒険が始まるわけだ!


 そして俺達は街へ向かって森の道を歩き始めた。そしてしばらく歩くと森が開け、草原へと景色が変化した。近くにはあまり高くないが、山もあるようだ。


「おおっ・・・」


 そしてしばらく草原を歩いて街にたどり着いた俺は感嘆の声を上げていた。だってアニメやゲームで見た事のあるファンタジー世界が広がっているんだぜ?そりゃ興奮するに決まっている!


 車やバイクなんか一台も走っておらず、もっぱら徒歩か馬車だ!来たぜ異世界!そして俺はこの世界でモンスターを倒したり、仲間とクエストを達成したり、そして異世界の女の子といずれ結婚し子供が出来たり・・・。


 おおおっ!夢が広がるな異世界!


 しかし、とりあえず何をすればいいんだ?そうだ!まずは冒険者ギルドじゃないのか!?よくわからんけど、登録しないとクエストを受けられないとかあるんじゃないの?そんな事を考えていたら・・・。


「今日はまず宿を探しましょう」


 ソニアがそう宣言した。


「あれ?まずは冒険者ギルドとかじゃないんですか?」


「いえ、まずは泊まるとこを確保しましょう。私、嫌ですよ?来て早々野宿とか」


 それはそうだな。まあ、異世界は逃げることは無いんだし、あわてず騒がずに行こう!そう考え、俺はソニアに付いて行くことにした。


 ソニアは街の守衛みたいな人に手慣れた感じで挨拶をしていた。俺もそれに倣う。


「ソニアさん、なんかこの世界に慣れた感じですね」


「当たり前です。この私が管理しているのですから」


 なるほど。そういえば天界のお仕事は色んな世界を管理運営とか言ってたな。という事は、この世界はソニアの管轄って事になるんだろうか?だったら色々と勝手が良いんだけどな~。


 そして俺はソニアに連れられて・・・と言うか、勝手について来たんだが、とにかく宿に到着した。


 外観は4階建ての思ってたよりちゃんとした宿だった。迷うことなく宿まで来たところを見ると、やはり一応この世界の事はわかっているんだろうと思う。


 カラン、と音を立てるドアを開けると、建物の一階では大勢の客がテーブルについて酒を飲んだり食事をしたりしていた。どうやら1階は飲食店も兼ねているようだ。いいじゃんいいじゃん異世界っぽいじゃん。


「部屋を借りたいのですが」


 俺がそんな事を考えていると、いつの間にかソニアはカウンターへ行っており、宿泊を申し込んでいた。俺も慌ててその後ろへとついて行く。


「はいよ。一番安い部屋でいいのかい?」


 それに対しカウンターのお姉さんが、慣れた感じで対応している。とりあえず一番安い部屋を案内するのが普通なんだろうか?それとも俺達を見て判断したのか?


「いいえ、一番高い部屋をお願いするわ」


 それに対しソニアは即答で一番高い部屋を要求していた。こいつ値段も聞かずに部屋を決めやがった。もしかしたら相場とかわかってんの?


出雲優いずもすぐるさんはどうするのです?」


 さっさと自分の部屋を決めたソニアが俺にそう聞いてきたので俺は・・・。


「あ、一番安い部屋をお願いします」


「あいよ」


 受付のお姉さんはソニアへのそれと変わらない態度で手続きを始めた。うーん、高い部屋を取ったからと言って、特別待遇されるわけでも無いのか。ちょっと面白いな。


 俺が日本とは全く異なる文化の違いに感銘を受けていると、ソニアから俺を小馬鹿にしたような冷やかしが入って来た。


「さすがひきこもりのボッチは違いますね。私には真似まねできません」


 ソニアはそう言って手を口にあてて笑い始めた。こいつはいちいち人をおとしめないと生きていけない生物なのか?何が高貴な神の使いだ。


 そう思って文句を言ってやろうと思ったが、さっきみたいな目立つ喧嘩はしたくない。なので俺は冷静に対応することにする。


「いえいえ、さすがはソニアさんです。ぼくなんて貧乏が身に染みているので、高級な部屋なんか泊まると、逆に緊張しちゃいます」


「ふふ、そうでしょうそうでしょう」


「あ、それと僕は貧乏性なので、自分がどれだけお金を使ったかきちんと記録していますので」


「ん?あ、そう。それはまあ良い心がけじゃない」


「なので、僕の分が後どれだけ残っているかしっかりと把握していますので」


 にっこり笑いながらそう言ってやったぜ。あいつが自分の分使い果たしても、俺はびた一文わけてやらんぞ。


 そして俺がそう言うと、高貴なソニアさんは引きつった笑顔を浮かべながら、受付のお姉さんに再度話しかけていた。


「あのーすみませーん。やっぱり~贅沢は敵だって教えられて育ってきたので~、一番安い部屋をお願い!」


 最後はちょっと早口だったな。最初からそうしときゃ良かったんだよ。


「あんたら仲間なの?」


 俺達のやりとりを見ていたお姉さんが、どちらに言うでもなくそう聞いてきた。


「違います」「そうよ」


「どっちよ?」


 全く違う答えをいう二人に困惑するお姉さん。すみませんお姉さん、俺はこいつを異世界を一緒に冒険する仲間とは思いたくないんです。


「もうこの人の言う事信じなくて良いですから!」


 俺の言う事を全否定するソニア。くそー、こいつが財布のひもをがっちり握っているんでなければ、とっとと別の宿を探すところなんだが。


「仲間なら、二段ベッドの部屋がおすすめだよ。二人別々に取るよりかなり安いからね」


 それを聞いたソニアは、かなり悩んでいる様子だった。


「割引価格ですか・・・しかしこの男と一緒の部屋・・・。お金を取るか身の安全を取るか・・・」


「おーい!変な事言わないで下さい!それじゃまるで俺が何かするみたいじゃないですか!」


 この女は突然何を口走ってるんだ!受付のお姉さんに俺と言うものを誤解されてしまうだろうが・・・。


「え?だって、テーブルの上で下半身露出してひゃっほおおおおおおっ!とか言う人信用できるわけ無いで・・・モガモガ!」


「うわあああああああああああっ!人前でそう言う事言うのはやめろー!」


 こいつお姉さんの前で何言ってんの!?それじゃまるっきり変態のように聞こえちゃうだろうが!しかも全くの嘘では無いので否定できないのがつらい!俺は慌ててソニアの口を手でふさいだ。


 俺はそーっと受付のお姉さんを見てみた。おうふ・・・俺を見る目が氷が入ってキンキンに冷えた水みたいに冷たくなっているぜ・・・。


 少なくともこのお姉さんとのラブラブな展開は潰えたと言っても過言では無いだろう。グッバイお姉さん。さようなら俺の異世界での初恋。


 くそー、宿屋の受付の女の子とのラブラブ異世界生活とか、異世界に憧れる男子なら一度は夢見るものだろうが、このハズレ天使のせいで、それはもう叶わぬ夢となってしまった・・・。


「もう、あなたの好きにしていいですから!」


 そして一秒でも早くこの場から離れたかった俺は、ソニアにそう叫んでいた。


 結局ソニアは、二段ベッドのある部屋を選んだようだ。まあ、先が全く見えない異世界生活を考えると無駄遣いは出来ないからな。そして部屋を決めた俺達は部屋番号を聞き、お姉さんから鍵を渡された。


 部屋の中は6畳ほどの大きさで、二段ベッドとテーブルと椅子が用意されている質素な部屋だった。本当に泊まるだけの部屋って感じだな。そして部屋に入るとソニアが突然走り出し、二段ベッドの上の段に上り始めた。


「上段は私が占拠しましたから!何を言われても譲りませんからね!」


 お前は子供か!別にどっちの段とか興味ないわ!


 しかしそんな俺の心の声などソニアには聞こえるはずも無く、ご機嫌でベッドの上ではしゃぎ始めた。お前がそこで暴れると、下の俺にほこりが落ちて来るんですけどね・・・。


 一瞬文句を言ってやろうかと思ったが、あまりに疲れていたのか、いつの間にか俺はベッドの上で眠りに落ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る