第4話 天使の箱

「何ですその箱は?」


 俺が問いかけると、ソニアはにっこり微笑んでから金が入った袋を懐から取り出し、その箱の中へとしまった。そして何と、箱は姿を消してしまった。


「ちょ!お金消えちゃったんですけど!」


「大丈夫です。この箱は私が自由に出し入れできる天使の箱です」


「天使の箱?」


 なんだその安易なネーミングは・・・と思ったが、話がこじれそうなのでそこは黙っておくことにした。


「そうです。そして、この箱を開けれるのは私だけです」


 そう言ってどや顔をするソニア。そういえば、さっきも天界で俺の死因について聞いた時、何もないところから書類を出して確認していたな・・・。これを使っていたのか。


「・・・えっと、じゃあとりあえず俺のお金だけ下さい」


出雲優いずもすぐるさんは異世界での経験が乏しく、詐欺などに引っかかる可能性もあるので私が管理しときますね」


 そういって、この悪魔天使はニコっと微笑んだ。


 おい待て。そんなことされたら、恋人と一緒にラブラブ異世界生活が満喫出来ないだろ。例え恋人が出来たとしてもこんな奴がいつも一緒だとか最悪だ!


「ちょっと!そんな事言ってそのままネコババする気じゃないでしょうね!」


「はあ!?高貴な神の使いであるこの私がそんな事するわけないでしょう!」


「高貴な神の使いが勝手に人のお金を自分のポケットに入れちゃうんですかあああああ!?」


 なーにが高貴な神の使いだ!はずれくじに入っていたはずれ天使のくせに!そもそも高貴な神の使いだったら、最初からちゃんとお金を渡してるだろうが!


「だから管理って言ってるじゃないですか!か・ん・り!」


「いいからそれを寄越よこしてく・だ・さ・い!」


「ちょっと!変な所触らないでよ!この変態!」


「誰が変態だ!そのお金が無いと剣も防具も買えないだろうが!とりあえず良いから寄越してください!」


「だーかーら!私と一緒に来れば私が買ってあげるわよ!大体私、魔法も剣も使えないんだからね!絶対一緒に来てもらうからあ!」


 俺は無理やりソニアから箱を取り上げようとしたが、こいつはこいつで徹底抗戦するつもりのようだ。


 この野郎、自分が何もできないから俺におんぶ抱っこするつもりか!?そうはさせるかあああああ!


 こうして俺とソニアのお金を巡る激しいやり取りはしばらくの間続いた。しかし決着がつくことは無く、お互い無駄に疲弊しただけだった。俺は一体何をやっているんだろう?


「きょ、今日の所はとりあえず休む所を探しませんか?」


「き、奇遇ですね。私もそう考えていた所ですよ」


 ソニアも同じことを考えていたようで、俺達は一旦休戦することにした。


「それにしても・・・」


 ソニアとの不毛な言い争いを終えてしばらく休憩した後、俺は自分達が立っている場所を改めて見回してみた。


 松明が設置されている洞窟は明らかにこちらの世界で言うダンジョンのように思える。そして不気味な魔方陣。


 これ、どうやってここから出るわけ?魔法陣に乗ればいいのか?いやでも乗った瞬間、モンスターが巣食うモンスター部屋になんか転移させられたら嫌だぞ。


「あの、どうやってここから出ればいいんですかね?」


 このはずれ天使が知ってるとは思えないが、少なくとも俺よりはこの世界についての知識はあるだろう。


「え?わかりませんよ?」


「・・・」


 聞いた俺が馬鹿だった・・・。


「ちょっと!あからさまにがっかりした顔をするの止めてもらえる!?」


「いえ、心底がっかりしたので」


「はあ!?大体私だって突然異世界へ連れてこられたのよ!あなたがくじを引いたんだから、あなたが責任取りなさいよ!」


「はああああ!?責任って何ですか責任って!大体異世界に来たのはあなたがはずれくじに入っていたからじゃないですか!」


「はずれくじじゃないわよ!規格外れだから!」


 なーにが規格外れだ!体よく厄介払いされたようにしか見えんわ!そしてさらに俺が文句を言おうとしていた時だった。


「おい!なんか声がしなかったか!?」


 洞窟の奥の方からそう叫ぶ声が聞こえてきた。


「魔法陣の方から聞こえたぞ!まさか賊か!?」


 やばっ!なんか知らんけど、盗賊か何かと間違えられてる!?やばい何とかそうじゃない事を説明しないと!


 いやでも、こんな何もない所に突然現れた俺達をどう説明すんの?神様から転送されてきちゃいましたー☆ってか!?絶対無理だろ!


「ちょっとソニアさん!これどうすればいいの!?」


「私だってわかりませんよ!と、とりあえず魔法陣に!」


 そう言うが早いか、ソニアは魔法陣に飛び乗っていた。すると魔法陣が急に白く光り出す。え?何これ?なんかやばいんじゃないのか?ホントにモンスター部屋送りになっちゃうんじゃね!?


「出雲優さん、早く乗ってください!」


「は、はい!」


 こうなったらやけくそだ!なるようになれ!そう思いながら俺は魔法陣に飛び乗った!すると、俺とソニアの体がふわっと空中に浮いて・・・。


「あーーーー!魔法陣がああああああああああっ!」


 魔法陣のある部屋に入ってきた誰かの声を聞きながら、俺達はその場からテレポートした。どうか安全な場所へ逃げられますように!

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