第2話 チェンジお願いします!

 死んだのに未来があると聞いた俺は、一体どういう事なんだ?と頭をひねって考えていた。


「いえ、難しい事ではありません。あなたにはこれから新しい人生を歩んでもらう事になるのです」


 え?もしかして生まれ変わるとかそういう事か?よく聞く前世の記憶なんかをリセットして、新たに新しい命を吹き込まれるあれか!?


「はいはいはい!」


「はい、出雲優いずもすぐるさん」


「イケメンに生まれ変わって、モテまくりの人生を送りたいです!」


 普段なら恥ずかしくてそんな事とても言えないが、俺はもう死んでるし、次の人生が掛かっているからな!そんな事気にしていられるかよ!すると俺の言葉を聞いた天使は、フッと優しい表情になった。


「出雲優さんがこれまでの人生、陰キャでボッチで寂しい生活をしてきたことから、そのような願望に至ってしまうのはよーくわかります」


「陰キャとかボッチとか本人目の前にして良く言えますね!?」


 もう、お前のこれまでの言動で、俺のライフはとっくにすっからかんなんだよ!あと生暖かい目で俺を見るんじゃねー!


「しかし自分で選べるというのは「好きにできる」と言う事では無いのです」


「ん?それってどういう事ですか?」


「あなたには3つの未来が用意されています。その中から選択するのです」


「3つの未来?」


「そうです。一つは私達の仲間となり、日本を含む地球上のあらゆる物事を管理する事です。今の私が亡くなられたあなたを案内しているように、色んなお仕事があります」


 なるほど。よくわからんが天界の住人になって、日本を含む全世界の管理運営をして行くって事か。なんかそれって面白そうじゃね?シミュレーションゲームみたいでさ!


「当社はみんな仲が良く、アットホームな雰囲気でお仕事が出来ますよ」


 そう言ってにっこりと微笑ほほえむ天使ソニア。


 ・・・うさんくせえ。なんか良い感じかもと思いかけていたが、今のあいつの言葉を聞いて、急にブラック企業の宣伝広告が頭に浮かんでしまった・・・。しかも当社ってなんだよ当社って。


 と言うかこの会社に就職したら、どう考えてもこの天使は俺より上役になるわけだよな。さっきから陰キャだとか、ボッチだとか、モラハラみたいな発言バンバンされてるんだが!どの辺にアットホーム要素があるんだ?


「えっと、他の選択肢も教えてもらえますか?」


 とりあえず他の選択肢も聞いてから決めた方が良さそうな気がする。この選択をしたら絶対後悔する気しかしねえ。


「えー他ですかー」


 あからさまにやる気が亡くなった天使。お前さっきの説明の時と全く態度が違うだろ!


「さっき3つあると言ってましたし・・・」


「言いました?」


「言いました!」


「チッ」


 おい。こいつ今舌打ちしたぞ。


「じゃあ仕方ないので残りも説明します」


 なんだよ仕方ないって!これはあれだ。さっきのこいつの仲間になるって選択肢は絶対排除したほうが良さげな気がしてきた。ブラック企業の匂いしかしねー。


「二つ目は「記憶をリセットし、もう一度地球上の生命体となって生活する」というものです」


「おおっ!そんな選択もあるんですね!」


 なんだよー、めちゃくちゃ普通の選択肢もあるじゃん。もうこれしかないんじゃないか?どこのご家庭の子供として生まれるか何て事も決めれたら嬉しいが、それは欲張りすぎだろうな。


 願わくば、可愛い妹と美人な母ちゃんとお金持ちの父親に恵まれた家庭の子に生まれ変わりたいところだ。


「はい。トイレの害虫から、将来立派な焼肉になる予定の豚の子供、朝食のお供に食べられる運命の鶏の卵など、地球上の様々な生命に生まれ変わるチャンスです」


「・・・次教えてください」


「えーそうですか?ハエの子供とか滅多にできないレア体験ですよ?」


「もういいんで。次お願いします」


 そんなレア体験いらんわ!。これだったらさっきのブラック企業就職を選んだ方が遥かにましだったわ!


「じゃあ3つ目は異世界へ行き、邪竜と闘う為に今の記憶を持ったまま転移、または転生する事です」


「え?異世界ですか?」


「はい、異世界です」


「もしかして剣と魔法の?」


「はい、剣と魔法です」


 おい、まじかよ!剣と魔法のファンタジー世界ってことか!?しかも記憶を持ったまま?え?もうこれ一択しかないじゃん!RPGだぜ!


「実は、この世界を選択する人が少ないんですよね」


「え?何故ですか?だって剣と魔法ですよ?」


「モンスターも出ますので、無残に殺されたりするリスクもありますし」


「なるほど・・・」


 確かにゲームと違って死んだりするのか・・・。いやでも、憧れのファンタジー世界だろ?剣で魔物を切り裂き、魔法の一撃をくらわす・・・。イヤー考えただけでワクワクしてきた!


「決めました!異世界にします!」


「えー!死んじゃうかもなんですよ?」


「剣と魔法とか、すげえわくわくするじゃないですか」


「良ーく考えてください。この会社で優しい同僚達と充実した毎日をアットホームな環境で過ごせるのと、過酷な弱肉強食の世界なんて、比べるまでもないじゃないですか!」


「いえ、異世界に行きます」


 俺はぴしゃりと言ってやった。ぐずぐずやってるとこいつの部下になりかねんからな。つーかさっきから会社ってなんだ会社って。


「わかりましたよー。異世界転生は天界からの推奨となっていますので、プレゼントがあります」


「プレゼント?いやまてそれよりも、推奨って言いました?」


「はい。異世界転生は天界推奨です」


「それにしては、やけに天界での就職をおすすめしていた気がするんですが・・・」


 なんか、ずげえ天界への就職を推してたよな。普通に聞いたらそっちが推奨されてるようにしか聞こえなかったんだが・・・。


「あーそれは、ただ単に私が楽をしたかった・・・じゃなくて、働く仲間が欲しかっただけです。アットホームだし」


「・・・」


「異世界の管理とか大変なんですよねー」


 天使は自分の髪を指でクルクル巻きながらそんな事を言っている。ダメだ、早くこいつの元から去った方が良い気しかしない。関わると碌なことが起きない予感しかしねー。


「それではプレゼントの授与になります」


 そういうと、天使は背後からガサゴソ何かを取り出している。


「あれ?」


 後ろでガサゴソやってる天使がそんな声を上げる。


「どうしました?」


「おかしいです。仕様が変わっています」


「仕様?」


 おい、仕様ってなんだ?オンラインゲームの仕様か何かか?今まで集めていた高額レアドロップが、仕様変更でいきなりゴミになるような。


「お父様、仕様が変更になっているのですが?」


 ソニアはそう言って後ろにいる神様に声を掛ける。そういや神様いたんだった。あまりにも存在感無さすぎて忘れてたわ。


「うむ、以前は一種類だけだったのだが、ご要望にお応えして種類を増やしたのでガチャにしたのだ」


 なんだご要望にお答えしてって・・・。


「だそうです」


「だそうです・・・って、好きな物選べないんですか?」


「残念ながら」


 なんだよそれ。しかし天界からのプレゼントていうくらいだから色々便利な物があるんじゃねーの?あとガチャとか言うなよガチャとか!レアが出る気が全くしないだろ!


「あの、ちなみにどんな特典があるんですかね?」


「えっとですね・・・」


 ソニアが教えてくれた特典は、中々豪華な物だった。「凄まじい攻撃力を誇る剣」「無限の魔力」「無詠唱むえいしょうの魔法」「先見さきみ魔眼まがん」などなどだ。これはかなり期待できるんじゃねーか?これだったら仮に自分の希望とは違っても、ハズレを引くことは少ない気がするな。


「じゃあ、この箱の中から一枚引いてください」


 ソニアがそう言いながら差し出してきた箱に俺は手を伸ばした。お願いですから良いのが当たりますように!えい!そう言って俺は一枚の紙を引いた。そしてそっと開いてみる。


「・・・」


「どうされました?」


「・・・あの」


「はい?」


「ハズレって書いてます」


「・・・は?」


 ちょっと見せてください!と言ってソニアは俺の引いたくじを俺の手から取って行った。いやいや、なんで特典なのにハズレが入ってるんだよふざけんな!わざとか?わざと嫌がらせしてんのか?


「ちょっとお父様、これはなんですか?」


 しかし意外な事に、天使ソニアは不機嫌な顔で父親に突っかかっていた。どうやら彼女本人も外れくじについて本当に聞いていなかったらしい。


「うむ、それはお前の事だ、ソニアよ」


 そう言われて硬直しているハズレ天使ソニアさん。自分の父親から「外れ」とか言われている様に、俺は本人でも無いに関わらず、何とも言えない気持ちになっちゃったよ・・・。


「なぜ私がはずれなんですか!?」


 天使はプルプルと震えながらそう聞いていた。そりゃそうだろうなあ。まさかはずれくじに自分が入ってるとは思わないだろう。俺だってこんな展開予想もしてなかった。


「ソニアよ、ハズレと言うのは当たりはずれのハズレでは無い。規格に収まり切れないという規格外という意味でのハズレだ」


 いやいや、そんな話聞いた事ねーよ。さすがにこんな嘘通用するはずないだろ。


「そんな・・・。幾ら私が優秀だからって、魔法も剣もまったく扱えないんですよ!異世界なんかいったら野垂のたれ死んでしまいます!」


 えー信じるのかよお前・・・。絶対騙されてるぞ。いやそれよりもだ!俺は目の前にいる自称天使をまじまじと見た。


 こいつ天使の癖に特殊能力の一つも使えないの?そんな奴が俺へのプレゼントとして付いてくんの?それって単なる罰ゲームじゃねーか!これ、規格外のハズレじゃなくてまじのスカのハズレじゃねーか!


 さっきまで天使を不憫に思っていた俺だが、急速に現実に引き戻された。だってこの人が俺に付いてくるって事だろ?あり得ねーよ!


「ちょ、ちょっと神様!僕もそんなの困ります!だって剣も魔法も使えないような人が一緒でも、正直迷惑って言うか・・・」


「はあああああああああああああ!?出雲優さん、それどういう意味ですか!?」


「いやだって、自分でも「野垂れ死ぬ」とか言ってたじゃん!」


「あれは言葉のあ・や・で・す!私クラスになれば、それはもう華麗な異世界生活を堪能させて差し上げます!」


 両手を腰に当てて鼻息荒くそんな事をいうハズレ天使ソニア。


「ソニアよ」


 俺と天使があーだこーだと言いあいをしていると、神様がソニアに話しかけて来た。


「今の言葉しかと聞いたぞ」


「・・・え?」


「ソニアよ、しっかりとこの人間を導くのだぞ?」


 え!?今のこいつの発言でほぼ決まり!?いやいやいやねーよ!


「ちょ、ちょっと待ってください!こんな何もできない人と一緒に異世界なんか行きたくありませんよ!こんなの罰ゲームじゃないですか!」


「ちょっと!罰ゲームって何よ罰ゲームって!」


 俺の胸ぐらを掴みながらソニアがなんか言ってるが、お構いなしに俺は力いっぱい神様に向かって抗議を続けた。だって死活問題だからな!


「少年よ、娘を頼んだぞ」


「チェンジお願いします!」


「私の何が不満なのよ!?」


「不満だらけに決まってるじゃないですか!」


「私がその気になれば、例え跳梁跋扈ちょうりょうばっこの異世界であろうと、あなたを導くことくらい余裕です!」


「うむ、その意気じゃソニア」


「はいお父様!このぱっとしないモブ顔の少年を立派に導いてみせます!」


「なんだと!誰がモブ顔だ!」


「あなたですよあなた!」


「安心せい。お前の姉のアリアもすでに地上に降り立っておる」


「え?お姉さまがですか?」


 え?天界にも姉妹関係とかあるの?と言うか姉ちゃんいるの?


「そうじゃ。もし地上で出会ったら二人仲良く協力して物事を解決するのだ」


「待ってください!お姉さまが降りてるとか聞いていません!」


「それでは達者でな」


「お父様あああああああぁぁぁぁぁあっ!」


 その言葉を最後に、俺の見ている風景は暗転した。


「あ、それと支度金に100万ゴールド送っといたから大切に使うんじゃぞ・・・」

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