異世界転生したら職業が「勇者の従者」になってしまったんだが

クロヒロ

序章 勇者誕生

第1話 その話いる!?

「おめでとうございますっ!」


 ギルド内にひびき渡るスタッフの祝福の声。それを合図に、その場にいた者達が歓喜の声をあげた。


「この街から勇者様が誕生だあああっ!」「おおおおおおおおおっ!」


 ギルドは熱気で溢れていた。そりゃそうだろう。こんな低レベル冒険者ばかりが集まる街のギルドで初の「勇者」が誕生したんだからな。


 そしてその「勇者」になったのは、この俺「出雲優いずもすぐる」・・・ではなく、俺のおまけで異世界にやって来たはずの俺の「はずれくじ」だった。


「な、なんでこんな事に・・・」


 そして俺はと言うと、異世界転生したら職業が「勇者の従者」になってしまったんだが・・・。この状況おかしくね!?


 そして俺は「どうしてこうなった?」と、ここに至るまでの経緯を思い返していた。




出雲優いずもすぐる、よくぞ天界へ参った」


 ふと気が付くと、真っ白な着物みたいな服を着たおっさんが豪華そうなソファーに座っていた。周囲を見てみるが、どこまでも真っ白な雲のような景色が続いている。一体ここはどこだ?そしてこのおっさんは誰だ?


 今日は両親と妹が親戚の家に泊りがけで行くと言うので、俺は断固として留守番を志願したんだ。なぜなら友達からもらったエロ動画を大型テレビで堂々と見る為だ。


 しかし今現在、何故俺はこんな場所でこんなおっさんと二人きりになっているというのか・・・。


「えっと、なんで僕の名前を知っているんですか?あなたは誰なんですか?」


 なので俺は思ったことを素直にこのおっさんに尋ねてみた。そしてここはどこだ?


「出雲優、そなたは今日死んでしまったのだ。そしてここは天界、そして私は死んだ者を導く神だ」


 ・・・は?俺が死んだ?いや俺生きてるんですけど?何言ってんだこのおっさんは。


「あの、僕いまあなたと話していると思うんですが・・・」


「お前は死んで天界の入口へと来ているのだ。ここは亡くなってしまった者を案内する所だ」


 はあ!?まじで?けど、自分の体と言う実感はあるし、意識もはっきりしている。ただ、この場所とこのおっさんには一切見覚えが無い。しかもよく見ると、自分の家と思われる建物の上方に俺達はいるっぽい。真下にそれが見えるんだよ。


「えっとじゃあ、僕はどうなるんでしょうか?」


 どうにも俺が死んだのは本当っぽい。じゃあ俺、天国とかで過ごすって事?そうだ!家族は!?


「うむ、それなんだが、実はそなたに頼みたい事が・・・」


「お父様!」


 神様とかいうおっさんが俺に説明しようとしていると、いきなり女の声が聞こえて来た。そして白い靄の中からとんでもない美少女が現れた。


「お父様、死んだ人間を案内するのは私の役目と何度も言ったではありませんか!」


 声の主を見ると、腕を組んでほっぺを膨らませて怒っている少女だった。それにしてもかなりの美人だ。腰近くまである金色の髪にグリーンの瞳と長いまつげ。そして出るとこは出て引っ込むべきところは引っ込んでる完璧なプロポーション。


 うん、俺が最も苦手とするタイプだな。


「いや、しかしだな・・・」


「しかしではありません!前回も私を差し置いて亡くなった人間を案内しようとしていたではありませんか!」


「いやいや、そなたを差し置こうなんて気は全くなくてだな・・・」


「問答無用です!」


 完全に劣勢の神様。お父様って呼んでたからこの神様の娘なんだろうか?と言うか、天界にも親子とかあるのか?


「あのう・・・」


 これ以上、この二人の親子喧嘩を見せられても仕方ないので、俺は恐る恐る声を掛けた。


「はっ!・・・こほん。失礼しました出雲優さん。私はこの天界に置いて亡くなった方をご案内させていただく天使「ソニア」と申します」


 そういって優雅に挨拶あいさつをする天使ソニアさん。


「あ、ど、どうも出雲優です」


 ・・・どもってしまった。美人を相手にするとこれだから嫌になる。


「さて、ここからはこのソニアが出雲優さんをご案内させて頂きます」


 そう言ってこの少女はさっきまでおっさんが座っていたソファに腰を下ろす。ふと神様を見ると、しょんぼりしてソニアの後ろにちょこんと立っていらっしゃる。どこの世界でも娘を相手にするお父さんの立場ってのはこんなもんなのかもな。うちの親父も・・・まあそれはいいや。


「さて出雲優さん、あなたには幾つかの未来があります」


 未来?俺死んじゃったのに未来があるの?一体どういうことだよ?いやそれよりも、もっと大事な事を俺は聞いてない!


「あ、あの!」


「なんでしょう?」


「僕が死んだ理由を聞いていないのですが!」


 そう!俺はなぜ死んだのかをまだ聞いてない!


 さっき学校から帰ってきて、着替えもそこそこにリビングでテレビにスマホを繋いでいた所だったはずだ。なんでそんな状況で死ぬなんて事があるんだよ。原因を聞かないと死ぬに死ねねーよ!死んでるけど!


 俺がそう言うと、ソニアはあーはいはいと何やら書類を取り出した。一体どこから取り出したんだ?


「出雲優さんの死因はばっちりと記録されていますので、正確にお伝えできると思いますよ」


「そ、そうですか」


 この子が俺の死んだ瞬間を記録しているって事か。他人から自分の死亡原因を聞かされるとか、斬新すぎるな・・・。


「ではご説明しますね」


 そして俺は彼女から、俺が死亡した理由について説明を受けることになった。そして俺がここに来る直前までの出来事を細部まで知ることになった。


 その日の俺は、学校が終わると数少ない友達からの誘いも断り、猛ダッシュで家路についていた。何故なら、今日は家族が泊まりで親戚の家に行っており、家の中には俺しかいないからだ。


 健全な青少年男子ならこれが何を意味するかわかるはずだ。つまり、リビングの大型テレビでエロ動画を心ゆくまで堪能できるというわけだ!誰も俺を邪魔することは出来ないぜ!


 そう思いながら急いで家に帰りシャワーを浴び、ばっちり充電していたスマホを取り出し、40型の大画面液晶テレビに接続した・・・。


 そしてここからの記憶が無い。ここまでは彼女の説明とまったく同じ記憶が脳内再生されていたんだが、ここで俺の記憶は途切れてしまっている。


 こんな美女から俺がエロ動画を見ようと躍起になっていた話を聞かされるとか、羞恥しゅうちプレイにも程があったが、それでも何とか我慢して聞いていたんだ。なのになんで記憶が途切れてるんだ?しかし動揺している俺にお構いなく天使は説明を続けている。


「さて、エロ動画を見る準備万端の出雲優さんは、そそくさとズボンとパンツを下まで下ろし・・・」


「わあああああああああっ!そんな事説明しなくて良いからっ!俺が死んだ原因だけ教えてくださいよ!」


 なんで俺は可愛い女子から、俺がエロ動画をはりきって見ていた話を詳細に聞かされなきゃならんのだ。ここは地獄か!?


「いやでも、この事はあなたが死んだ原因に関係ありますから」


「はあ?」


 なんで俺がエロ動画見てた事が死んだ原因と関係あるんだよ・・・。


「じゃあ仕方が無いので、ズボン脱いだところは省略します」


「それでおねがいします!」


 あんたのせいで俺のライフ残量がゴリゴリ減ってるんだよ・・・。あ、もう死んでるんだった!ややこしい!


「で、実はこの後ですね、ご家族が帰って来られたんですよー」


 俺は天使ソニアの言葉に耳を疑った。両親と妹が帰って来ただと・・・?


「・・・は?え?でも、みんな泊まりで帰って来ないって・・・」


 親も妹も今日は泊まりだから俺は張り切ってたのに、こんな時に帰ってきたらやばいだろ!


「なんでも、用が早く済んだのでギリギリ帰って来れるねーって事になったみたいですよ」


「・・・まじで?」


「はい、ホントです」


 物凄くこの後の展開を聞きたくなくなってきたんだが、この天使はお構いなく話を続けてくる。


「そんな事は全く知らないあなたは、段々と興が乗ってきて、下半身完全に裸になってテーブルの上に登り・・・」


「やめてええええええええええええええええええっ!」


「なんですかさっきから!話しが全く進まないじゃないですか!」


「その話いる!?ねえいるの!?」


 いらねーだろその情報!とっとと俺が死んだ所だけを話してくれよ!じゃないと俺の心が死んじゃうだろうが!


「必要だから話してるんです!」


「ぐぬぬぬぬ」


 なんだよ必要って!なんで俺は死んでまでこんな辱めを受けねばならんのだ!しかしこの女は、そんな俺にお構いなく話を続けていく。


「それで、下半身を露出させてテーブルの上に立ったあなたは、「ひゃっほおおおおおおおおおっ!」と叫びながら右手であそこをダイナミックに上下させていたわけです」


 ・・・もういいよ。もう好きにしてくれ・・・。俺は諦めてこの女の話を聞くことにした。考えてみればもう死んでるんだし、怖いものなんて無いしな。


「そしたら、ちょうど妹さんとお母さまがリビングに入ってきて・・・おうふっ・・・ちょ・・・な、なにするんですか!?」


「おおおおおおおおおおおおおおいっ!なんでそんなタイミングで帰宅してくるんだよ!」


 妹と母親がそんな状態の俺がいる時に帰ってきたってどういうことなの!?俺は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら天使に詰め寄った。だってあんまりなタイミングだろう?せめて普通にエロ動画見ている場面とかにしてくれよ!


「し、知りませんよ!だから用事が済んだからでしょ!あー、服がしわしわに・・・それでですね」


 しわしわになったコスプレみたいな丈の短いワンピースを直しながら、天使は話の続きを始めた。正直もう聞きたくないが、この悪魔みたいな自称天使は絶対にこの話を俺に聞かせるつもりらしい。


「そんなあなたの姿を見た妹さんが叫び声をあげ、それに驚いたあなたは、テーブルから慌てて降りようとして足を滑らせ、そのままテーブルの角に頭をぶつけてしまい、ソファの上に下半身を露出したまま仰向けに倒れてしまいました」


 そして「以上があなたが死んでしまった理由です」と、神妙な顔で天使は付け加えた。それを聞いた俺は、両手で顔を押さえながら誰か俺を殺してくれと思いました。


 目の前にいる悪魔みたいな天使に完璧に打ちのめされた俺は、周りから見たら廃人同様に見えたかもしれない。しかしそんな俺にこの女はさらに追い打ちをかけるように話しを進める。


「えっとそれでですね、その後お父様も入室されまして・・・」


「もうこれ以上俺を傷つけるのはやめて!」


 俺は顔を手で覆いながら、3流ドラマのようなセリフを吐いてしまったが、もう死亡原因もわかったしこれ以上説明不要だろ!?


「ん~、これからが面白いところだったんですけどねー」


「・・・何だって?」


「いえ、別に何も」


 こいつ今、これから面白くなるとか何とかって言わなかったか?あ!もしかしてわざとか?わざとやってんのか!?


「ところで!今後のお話ですが・・・」


 突然、くそ真面目な顔をしてソニアが話題を変更して来た。やっぱりこいつわざとやってたのか?俺が疑いの眼差しを向けたから慌てて話題を変えた感があるんだが・・・。そんな俺の視線を無視するがごとく、天使は話を続けて来た。


「あなたには未来が幾つかあります」


「未来?」


 そういやさっきも未来がどうとか言ってたな。しかしすでに死んでる俺にどんな未来があるんだ?


「はい。あなたの今後を左右する重大な未来です。死んでしまったあなたが、今後どう過ごされるのかを決定します」


「えっと、それは俺が決められるんですか?」


「はい」


 死んだ俺の未来って一体どういう事なんだ?

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