第17話レベル上げ
約束の日。赤月さんは仕事受けてくれただけでなく、適当に目星をつけたダンジョンと日程まで決めてくれた。日数的には1ヶ月とちょっと残ってる。
舞ちゃん以外は皆基本的な装備だ。だから舞ちゃんだけやたらキラキラして、本人はかなり恥ずかしそうだ。
「凄い装備だな」
赤月さんが歩きながらこちらに向かってくる。後ろにはニーナと呼ばれた女の子。今日もニット帽と赤月さんと同じ黒のコートを羽織っている。
「舞ちゃんはあの月野ダンジョン開発のご令嬢なんですよ」
一ノ瀬さんが事情を話す。
「そんな凄い人に。不自由はなかったかい?」
赤月さんが舞ちゃんに尋ねる。
「贅沢させてもらいました。でも…自由はありません」
月野は少し沈んだ顔になる。赤月さんはその顔を少し切なそうに見つめている。
「悪いことを聞いたかな。さあバンバンレベルを上げてくれ!」
赤月さんとニーナがダンジョンに飛び込み、俺たちも後に続く。やっと夏休みが始まる。
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「盾よ! 守りたまえ!」
舞ちゃんが叫ぶ。とても美しい盾が現れる。目の前にはオークソルジャー。ランクはF+判定。ナイトよりは弱い。
「支援頼む!」
俺と迅君が舞ちゃんの盾の守りから飛び出し、攻撃を仕掛ける。正直このレベルならすぐに倒せたが、まずは一ノ瀬さんと迅君のレベル上げだ。
赤月さんは後ろでニーナと共にこちらを見ている。それでいい。免許を持つ人が一緒にいてもらうことが重要で手伝ってもらう必要はない。
オークソルジャーの剣が迅君を狙う。
「こっちを見て!」
魅了での敵を惹きつける力は挑発よりもかなり強烈で、オークソルジャーも引き寄せられる。
「おら! 回し蹴り!」
骨の折れる音がする。オークソルジャーの首が曲がり、倒れる。
「良し!」
迅君がガッツポーズする。
「油断しないで! まだまだ来てる!」
舞ちゃんが叫ぶ。
「どんどん来い!」
俺はクリスタルの剣を構えて迎え撃つ。
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小休止の時間。辺りを黄金の獅子が歩いて敵を見張る。舞ちゃんに頼んで、ネメアを出してもらったのだ。どんな時でも頼りになる。
火を起こし、みんなで焚き火を囲み、夕食を取る。
「君達は思っていた以上に強い」
赤月さんが褒めてくれる。
「まだまだだぜ。レベル20にもならねぇ」
「レベル上げって思った以上にハードですね」
迅君と一ノ瀬さんが溜息をつく。
「ダンジョンに潜って1日だ。良い感じじゃん」
俺は2人を励ます。
「ここにいたら、20レベルになるには1週間かかる」
赤月さんが真顔で言う。
「そんなに?」
一ノ瀬さんが驚いていた。
「レベル上げはとても大変な作業なんだ。A判定なんて魔物を撃破したからこそ、目許君達は劇的にレベルが上がった。だがもう一度エルフを倒しても2人とも良くて2レベル上がる程度だろう。どんどん大変になるのさ」
赤月さんが現実を突きつける。
「それじゃあ30なんて、とても」
「学生なんだから焦らなくても良い。30なんて、D級探索者のレベルだ。本来なら10でも驚異的だ」
落ち込む一ノ瀬さんに今度は優しく赤月さんが諭す。
「それでも!」
迅君が立ち上がる。
「負けたくねぇんだ!」
迅君の本音が垣間見える。俺も舞ちゃんも気まずく、下を向いていた。
「そうか。なら最下層を目指そうか」
赤月さんが提案してくる。
「スケール3の階層主ならC、強ければBもありえる。それを倒せば30も近い」
赤月さんが迅君を見つめる。
「危険では」
「行く!」
迅君は張り切っている。
「迅君、気持ちはわかるけど、Bクラスなんて」
「前は勝てたろ! ネメアもいる!」
そうか。確かにネメアがいれば。
「私も行く!」
一ノ瀬さんも立ち上がる。舞ちゃんを見ると、頷く。手伝うと決めた以上はとことんか。
「よっしゃ! 行こう!」
俺の声にメンバーは声を上げる。
__
みんなが寝静まる中、ネメアが寝ずの番を続ける。1人の人間が動く。ネメアと目が合うと、震えだしたのはネメアだった。それ程の力を持つ者。
「ニーナ。どうした?」
赤月さんも寝ておらず、焚き火を見つめる。
「………パパ。何かいるよ」
「分かってる。お姫様の護衛だろう」
「殺す?」
ニーナは無感情に質問する。
「人間は殺しちゃダメだニーナ。何度も教えたろ?」
「じゃあ…半殺し?」
「………こちらにとっても大切な子達だ。無茶をされたらな」
ニーナは頷くと、パパと呼んだ赤月の横に座り、腕に抱きつくと、頭を肩に置き、眠りにつく。赤月はそんな我が子の頭を撫でる。
「長い間何もできなかったんだ。自由は奪わせない」
赤月は虚空に呟く。答える者はない。赤月は吐息をつくと、ニーナに頭を重ね、眠りについた。
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