第15話恋しちゃったんだ
「終わったー!」
俺はクラスの部屋で叫ぶ。
「お疲れ様」
舞ちゃんが声をかけてくる。舞ちゃんは無茶苦茶頭がいい。テストは余裕だっただろう。その証拠に家では多忙な冷児の代わりになんと迅君が、そして学校では呪いの言葉を呟くように絶えず舞ちゃんが俺のそばで授業の内容を呟き、刷り込んできた。
一ノ瀬さんも迅君も集まってきた。折角だし、夏休みにどこかのギルドにお願いして、雑用でも何でもいいから、仕事をさせてもらおうかと話していた。
「良いとこ見つかった?」
俺はみんなに尋ねる。
「ないな。天明でもDクラスと分かったら、すぐ切られちまう。1年だしな。せめてBクラスくらいなら拾ってくれたかもな」
迅君が答える。舞ちゃんも一ノ瀬さんも同様のようだ。
「紫電の騎士団は無理なのか?」
迅君が尋ねてくる。
「無理だな。2年はインターン受けてくれるって言ってたけど。それに連絡しても繋がらないんだ」
多忙すぎる姉は、今もダンジョンの中なのだろう。
みんなでどうしようかと話していると、急に教室に先生が入ってくる。
「あー。目許、月野、一ノ瀬、綱紀。職員室に来なさい」
俺らが? 何かしたかな? 崖から転落の件は内密で学校でも伏せられている。俺を突き落とした前田達は退学処分ということで済ませた。
両親は警察沙汰にしようとしたが、姉ちゃんが協会に前田達を連れて来させた瞬間に3人を病院送りにするほどにフルボッコにしていたらしいし、結果的にはみんなを強くしてくれたし、学校側も揉み消したい様子だったので、恩を売っておいた形だ。
俺達は呼び出されるまま、教室を出た。
__
職員室のDクラスの担任の机の前まで行くと、担任が週刊誌を机の上に置いた。
「スッパ抜かれたよ」
週刊誌の表紙には『影の英雄。【紫電】と共に戦ったの学生だった!』という見出しが見えた。
「お前らの実名までしっかり書かれてる。当然うちは抗議するし、警察にも訴えるつもりだ。だがこの週刊誌は話題を呼んでかなり売れてしまっているらしい」
【紫電】がいたとは言え、危険なA判定の魔物と学生が戦ったとなれば大事なのかな?
「幸い。お前らのクラスまでは分かっていないようだ。だから今日からお前らは特進クラスとする。最高のクラスの生徒だったとなれば、批判は少しは和らぐ」
そうか。どうして学生がと天明が責められた時の予防措置か。それにしてもいきなり特進って。
「すでにマスコミからの連絡がかなり入ってる。ともかく入学からお前らは特進だったことにする。いいな?」
特進になるのはありがたい話だ。それならギルドにも雇ってもらえる。逆らう理由はなかった。
他のみんなも俺と同じことを考えているようで、問題ないと答えていた。
「顔も割れている。マスコミからも守るため、暫くは月野グループが用意してくれた車で登下校するように。すぐに夏休みだ。我慢してくれ」
「分かりました」
__
確かに外は凄いことになっていたが、ネメアが最初に通り、道を開け、その後を俺たちはそそくさと通ってマスコミの質問を回避した。
「研、聞いたぞ」
久々に学校に来ていた冷児が声をかけてきた。というより同じクラスだから、同じ教室だった。
「夏休み。冷児は親のとこか?」
「ん? ああ。萌香ももう母親とダンジョンもぐってるよ。お前らは?」
「お前らのどちらかに頼もうと思ってた」
俺が冷児に頼んでみる。
「うーん。いきなりは難しいな。人数も多いし。来年のインターンとかなら行けるかもだけどな」
「来年は姉ちゃんのとこで世話になる。今年がなぁ」
「萌香も無理だろうしなぁ。まあ特進クラスになったんだ。探せばあるだろ」
暫くは冷児と同じクラスになった違和感について盛り上がり、時間を過ごした。
__
夏休みに入ると、ギルドの手伝いは無理なら、1人探索者の人を雇って、ダンジョン攻略に挑むのはどうかという話になった。
俺が落下したダンジョンはちゃっかり姉ちゃんが攻略していた為に公平に所有権の売却料を振り込んでくれたのだ。とんでもない額だが、これでは魔道具一つも買えやしない。でも人は雇えるはずだ。
「私達も4人のを合わせてもDクラスの人を雇うのが精一杯かな。そこら辺でとりあえず協会に依頼を出してみようか」
一ノ瀬が提案する。皆が頷いた。お金で遊ぶというのも青春だが、俺たちは早く一人前になりたかった。
「そういえば舞ちゃん。ネメアは?」
それを聞かれた舞ちゃんは上機嫌に右腕の甲を見せてくる。箱庭の絵のようなタトゥーが彫られていた。
「格好いいね。どうしたの?」
「これはね。絵の通り【箱庭】のタトゥー。テイマーさんなんかがモンスターを収納する為に考えられた物なんだ。勿論【収納】の
あれだけ自立を目指していたのに。舞ちゃんは変わった。
「私は弱い。だから強くなる為に何でもやるってきめたの。パパだって」
「そうか」
舞ちゃんは特別な何かを感じる。盾も並の力じゃない。俺はいつまで彼女のそばに居られるだろうか。そんなことを思うと胸を締め付けられた。彼女のことが好きなんだと気づいてしまった瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます