第13話救出④
凄まじいやりとり。【紫電】の鳴子の動きは目にも止まらない。無数の紫の線の残像が出来、ダンジョンの壁を抉る。だがエルフは確実に捌き、抑えている。
「すげー。鳴子さんはやっぱりとんでもねぇ」
冷児と萌香は呆然と鳴子の動きを見ていた。一級の探索者を目指す者として、まさに憧れの頂点に近い存在の戦いは2人を引きつけた。事実、鳴子の力はA級探索者と遜色なしとして、近々ランクが上がる予定となっていた。
「見せもんじゃねぇぞ! 逃げろ!」
鳴子の檄に2人は動くが、風が襲いくる。エルフが鳴子の攻撃を受けながら、風の力を2人に向ける。
「余裕かましてんじゃないよ!」
「余裕なんだから仕方あるまい」
くそ! 紫電でも捉えきれない。何て目の良さしてやがるんだよ。2人もダメージが抜けきれていないし、エルフの風で抑えられてしまう。レベルが足りないか。
「う、動けねぇ」
「私達でやらないと! 研を助けなきゃ!」
萌香が炎を纏い、何とか動こうとする。肝心の研は意識を失い、風に転がされる。
「研! 起きろ! せめてこっちに来い!」
爆風の中でも友に手を伸ばす冷児。逃がせないならせめて盾になる。冷児は這って、研を追いかける。萌香も同様だ。2人とも、仲間のために命をかけてきた親の遺伝子を見事に受け継いでいた。
鳴子がエルフと鍔迫り合いを行う。
「良いのか? 近づいて?」
「問題ない。
雷の爆裂音が響く。エルフも耳を塞ぐほど。斬り刻まれるエルフ。冷児と萌香も走り、研を抱えて逃げる。
傷を受けたエルフが声を上げ、自ら動く。何と紫電の動きを追走し、追いつく。
「な!」
エルフの豪腕の一振りに鳴子は吹き飛ばされ、壁に叩き潰される。さらにエルフは逃げる2人を追いかける。
「あの女の大切な者達。全て潰す」
血を流したエルフ。エルフはプライドが異常に高い。自分の血を流させた者の全てを奪う。
「やってみやがれ! 行け! 萌香!」
「ダメよ! 3人で逃げるのよ!」
冷児の身体から白い湯気が上がる。身体の周りの温度が下がっていく。剣を構え、エルフを睨みつける。仕方ないと萌香も剣を抜く。
「何人いようと同じこと!」
エルフの剣が2人捉える瞬間、紫電に包まれた鳴子が剣を止める。
「ふざけた真似してんじゃないよ! 2人とも! 命令を聞け!」
「邪魔だ!」
エルフの凄まじい力に押される鳴子。
冷児も萌香も冷静な判断が出来ずに動揺していた。命令通りに逃げても、鳴子が死ぬ。逃げられる保証もない。なら自分達も戦い、一緒に。そんな考えの狭間にいた。
エルフの雄叫びと共に、再び鳴子は弾かれる。
「フレイム!」
動いたのは萌香だった。思わず動いた。だがこの動きが2人の行動を決定づける。
エルフの剣にかき消される炎が消えると、飛び上がった冷児の剣を受ける。
「いいぞ!」
エルフが笑う。エルフの拳が冷児の腹部を捉える。血反吐を吐き、吹き飛ぶ冷児。
「冷児!」
萌香が冷児の元に走る。
「お前もだ」
エルフの拳が萌香を狙う。萌香が目を瞑る。フワッとした風が起こると目の前の悪意が消える。同時に何かが壁に叩きつけられる音が響く。
萌香が目を開ける。
「あ、あ」
萌香は震えた。更なる絶望。こんなところで【聖獣】と呼ばれるクラスの魔物。母でさえ、単独の撃破は不可能であろう存在。ネメアが萌香を見つめていた。
「大丈夫ですか? 萌香さん!」
聞き覚えのある声。そんなはずがない。
「舞ちゃん?」
「はい!」
遠くで瓦礫が吹き飛ぶ音がする。
「くそおおお!」
エルフの激昂がダンジョンを揺らす。
「ネメア!」
主人の言葉にネメアが反応する。敵であるエルフにとどめを刺しに走る。
「止まれ!」
ネメアの動きが一瞬止まる。魔物の支配者たるエルフの言葉は一瞬どんな魔物も服従させる。だがすぐにネメアは解放され、エルフを狙うが、その一瞬でエルフはネメアの視界から消え、ネメアの主人を狙う。
「盾よ! 守りたまえ!」
剣戟の音。何とただの少女の盾はエルフの攻撃を防いだのだ。
「何!?」
驚き、怯んだエルフの心臓を短剣が貫き、激しい雷撃がエルフを焼く。エルフの口から黒い煙が吐き出される。更に失神したエルフにネメアが噛みつき、食いちぎる。
「ふん。あんたは油断しすぎだね」
鳴子が髪をかき上げる。鳴子が月野に近づいていく。月野は研を抱き上げ、様子を伺っていた。
「【聖獣】なんてもん従えるとはね。あんた何者?」
「月野ダンジョン開発の社長が父です…」
「あの…そりゃあ凄い。世界の長者番付常連じゃないか。サルバドールにもコネがあると聞く。さっきは悪かったね。謝るよ」
鳴子は素直に判断ミスを謝罪する。
「いえ! あの時私は迷ってて。だから役立たずだったのは間違いないです。お姉様は何も謝ることはありません」
鳴子が笑う。
「お姉様か。本当にお嬢様なんだね、あんた。研は良い彼女が出来たもんだ!」
「か、彼女ォ! ち、違います!」
月野は顔を真っ赤にする。
「え? 違うの? まあいいや。あんた達もありがとう!」
一ノ瀬、綱紀もお礼を言われる。
「萌香。冷児を回復させて。さあ帰るよ!」
「「はい!」」
月野は研を抱え、ネメアに乗り、走り出す。
こうして目許研救出は無事全員生還で幕を閉じた。
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