第10話救出①


 東京 探索者仮免許試験会場


 試験終了後、戻ってきたパーティの1チームがメンバーが崖から落ちたと報告を行ったことで、辺りは騒然となっていた。救出に向かったチームが人が落ちたと思われる先に崩れた床の穴を発見。未攻略のダンジョンまで落下したと考えられたからだ。


 ダンジョンはスケールと呼ばれるクラスで分けられ、1〜10までに分けられる。今回の攻略済みダンジョンはスケール1だ。繋がってしまったダンジョンも付近にはスケール1のダンジョンしかなく、そう難しくない捜索と思われた。


 ただダンジョンとはそう簡単には繋がらない。それぞれが異空間なのだ。穴が空いたから、向こう側に行けますというわけじゃない。無理矢理、魔力障壁までも破壊して、先へ進んだ。それが出来るほどに強い魔物がいたこと意味し、それはまだ穴の下のダンジョンを徘徊している。


__


「ダンジョン間を移動できる魔物とはどれほどのランクになると思われる?」


 今回の救出に際し、会場のダンジョン近くに張られたテントで責任者会議が行われていた。


「最低でもBランクと専門家から回答がありました」

「Bだと!?」


 魔物はアルファベットでのランク付けがあり、G〜SSSまで。Bランクとだけ聞けば弱く聞こえるかもしれないが、単独で倒すにはA級の探索者でも命懸けのレベルと言われるほどに強い。


「完全な特異体かもしくは集合体キメラと予測されます」

「一体どうすれば。探索者協会に応援を頼んでも、動けるギルドなどないだろう」


 皆が沈黙している。実際に専門家の回答を得てから即時に探索者協会に応援を頼んだが、Bクラスの魔物を倒せるレベル。C級以上のギルドはすぐに手配は出来ないと返答されてしまった。


「仮免試験で魔物による不慮の事故は過去にもあった。今回のような事例もあるということだ。遺体だけでもご両親に返してあげたいが、探索者を目指した者のリスクは承知だったはず。今回の件もきちんと反省し、次回に生かす。それが最高の供養だ」


 仮免許試験の最高責任者が匙を投げる事態だった。対応を諦めたわけではないが、この絶望的な状況に出た言葉だった。


「外で何人かの受験者がダンジョンに入ろうと暴れています!」


__


「離して下さい! 誰も助けてくれないなら私達が救出に向かいます!」

「そうだ! 離しやがれ! ダチを見捨てられるか!」

「私達はEランクの魔物も倒しました! やらせて下さい!」


 月野、綱紀、一ノ瀬が暴れていた。彼女らは仮免試験に合格し、喜んでいたところ、目許の転落事故の話を聞いたのだ。


 そして捜索が難航してるという情報もリアルタイムで感じていた為、強硬手段に出たのだ。


「君達で行けるわけがないだろう! 仮免の意味を分かってるのか!?」

「きちんとした探索者となら潜れるんでしょ?」


 横から女性の声がする。


「本当に久々のオフが出来たから実家に帰ってみたら、弟失踪の連絡が入るとはねぇ」


 紫の髪のかき上げ、面倒臭そうにする女性。軽装の鎧。豪華な装飾がなされた短剣が2本が腰につけられている。筋肉質な細身の身体。只者ではないことはスタッフにも分かった。


「貴方は?」


 思わずスタッフが尋ねる。


「B級探索者。【紫電】が来たと責任者に伝えなさい。あと研と組んでたって子達を呼んで」


__


 目許鳴子めもとなるこ。通り名は【紫電】。B級探索者でB級ギルドの【紫電の騎士団】のギルドマスター。


 目許研の10歳年上の姉である。本当は弟の仮免試験日を知っており、合格を前提に祝うつもりで休みを取っていた優しい姉であるが、本人は決して認めない。誰よりも弟を大切に思っている。


 テントにいた責任者が飛び出してくる。


「ほ、本当に【紫電】様。ギルドの方々も?」

「いないわ。オフだもの。私だけで中に入るわ」


 鳴子が責任者に伝える。


「いくら【紫電】様でも、Bランクの魔物を1人では…」

「1人じゃないわ」


 後ろから2人の影。


「どなたです? 学生に見えるが」

「火野萌香です」

「宇良田冷児です」


 責任者の頭に?マークが浮く。


「2人とも仮免だけど、実力はそれなりにあるわ。別にBランクの魔物を倒すのが目的じゃない。弟の救出だもの。人は多い方がいい」

「しかし…」

「2人ともA級ギルド【フレイムロード】と【アブソリュート】のギルドマスターの子供達よ。止められないわ。貴方には報告しているだけ。許可は求めてない」


 責任者は息を飲む。そしてやめてくれと思う。そんな大物ギルドの餓鬼どもに傷でもついたら自分の首が飛ぶ。


「安心しなさい。2人の意思だから。貴方は何も出来なかったと言えばいい」


 これ以上逆らえば、この場で何らかの制裁の受ける可能性もある。引き下がるしかなかった。


 鳴子は2人を従えて、ダンジョンに向かう。髪をまとめ、戦闘態勢に気持ちを切り替える。


 萌香と冷児が居たのは勿論友を祝う為だったが、研失踪を知り、鳴子に手伝いを申し出てきた。有名探索者の子供に良くある驕りを感じたし、危険だった。1人の方が安全だ。ただ友を想う気持ちに嘘はないと感じた。


「良い? 無理は禁物。約束守らなかったら即失神させる。弟を助けるのが私の中での最優先だから。撤退はないわ」

「「はい!」」


 萌香も冷児も両親が揃えたであろう一級品の装備に身を固める。


「あの!」


 鳴子達がダンジョン内に入ろうとした時に、声をかける者がいた。


「何?」


 すでに殺気立っている鳴子が睨む。


「私達も連れて行って下さい!」


 月野が頭を下げる。


「ごめんね。舞ちゃん」


 答えたのは萌香だった。月野が頭を上げた時に、3人の姿はそこにはなかった。

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