第9話2度目の死にかけ


 暗い暗い底まで暫くの時間が掛かってる。このままでは死ぬレベルで落下しているのを俺は冷静に考えていた。探索者に憧れたのは姉の影響だ。姉も探索者になりたての頃は時々家に帰っては色々話を聞かせてくれる時期があった。更に幼馴染との出会い。


 俺も強く、格好良く。


 でも知り合いのおじさんが急に消えることも多かった。理由はわからなかったが、今なら分かる。


 名誉なことじゃないか。探索者はダンジョンの中で散ることこそ本望だ。

 

 グシャッと音が鳴るのが自分にも聞こえた。心残りがあると気づく。俺はあの子と。舞ちゃんともっと一緒に居たかった。


__


「やばいぜ前田! ここの深さ知ってんのかよ!」


 ヤンキーの1人が騒いでいる。


「ここはスケール1だぜ? そんな深いわけあるかよ。さあさっさとポイント稼いで帰ろうぜ」


 前田と呼ばれたヤンキーは2人を引き連れて歩いて行く。


 このことによって目許失踪の発覚はだいぶ遅れる結果となる。


__


「いってて」


 またもやだ。死にかけているんだ。あれで即死じゃなかったのは、運が良すぎるな。


「あまーい!!」


 男性の声。女神様じゃないのか?


「女神じゃなくて残念じゃの。ワシは閻魔じゃ。地獄の番人」


 閻魔と名乗るおっさん。鬼の仮面っぽい顔に口髭が凄い。立派な帽子。色鮮やかだが、男性の着物。とにかくでかい。顔が俺くらいある。

 

「じ、地獄」

「当たり前だ。親不孝もんが!」


 た、確かに親より先にはダメだよな。


「本当ならさっさと連れていって地獄の釜茹でにでもしたいところだが、まだお前は死にかけ。チャンスをやろう」

「どんな試練でも!」


 閻魔がニヤつき、指をパチンと鳴らす。黒いモヤから現れたのは…


「生死ガチャガチャじゃ!」

「また!?」


 ガチャガチャが好きなんですね。


「ここに良いものなどないぞ。入っているのは【生】と【死】その2つのみよ」

「は、はい」


 俺は迷わない。せっかく貰ったチャンス。ダメで元々なんだ。ガチャガチャを回す。カプセルが落ちてくる。


「えっと…【大吉】です。何ですか?」

「何!?」


 閻魔が悔しそうな顔をしている。


「女神が運の良い子を見つけたと言っていたが、本当に忌々しい」

「あの…」

「お前にとっては成功だ【生】と同じ意味よ。更に徳典のランクアップ。女神が仕込みおったわ」


 女神様が、ここまで心配してくれたのか。


「あの、ランクアップって?」

「知らんわい! どうせまたここに来るんじゃ! さっさと行け!」

「すいません! ありがとうございました!」


 俺はまた睡魔に飲み込まれ、意識を失った。


__


「う、うぐ」


 あれ? 暗いな。崖に落ちたままか? 体力も。死にかけのまま。薄ら記憶に残ってる。おっさんの言葉。その意味がわかる。


 ここはまだ崖の下だ。そして最悪なことに。ここは、他のダンジョンに繋がっている。


 だが感じる力の波動。女神様からの贈り物。


「ステータス」


名前:目許研

種族:人間

Lv:10/100

HP:5/145

MP:145/145

攻撃力:55

防御力:55

俊敏:100

器用:55

運:10


SP:10


ギフト一覧 

上級剣士:Lv1 ⭐︎⭐︎

暗視双眼鏡の目:Lv1 ⭐︎⭐︎

虫の知らせ:Lv1 ⭐︎

攻撃力強化:Lv1 ⭐︎

俊敏強化:Lv10 ⭐︎

器用強化:Lv1 ⭐︎


 やっぱり。感じるんだ。新たな可能性を。


【剣帝】:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎【⭐︎⭐︎】


 脳裏に焼き付いた知識。超越能力ハイパーギフトを越えた超超越能力スーパーギフトか。


__


 いかつい顔のおっさんが地獄の門の前をそわそわしながら行ったり来たりしている。


「閻たーん! 待ったー!」

「待ってなーい! 女神たん可愛いー!」


 だらしなくなるおっさん。


「私のお願い聞いてくれた?」

「聞いたさ。聞いた。ワシのお願いも覚えてるよね!?」


 おっさんがワクテカしている。


「デートでしょ♪ 楽しみ♪」


 おっさんがやたらはしゃいでいる。念願だったらしい。


 女神はやたらはしゃぐ閻魔にため息をつきつつ、少年の幸運に下を巻いていた。あの子に目を掛けたのはただ単純に気に入ったからだ。今回の【大吉】も入れて貰ったのは一個のみ。引ける確率は宝くじ並みのはず。


「うふふ。上手くいくとはねぇ」


 徳典ガチャガチャは天界規定で1人1回のみ。もう1度引かせることは不可能だった。そこで親不孝で地獄に行きかけていたのを見て、閻魔にお願いしたのだ。


「運がいい子は大好き」


 少年を強くしても、女神が視る複数の破滅的な未来に影響はない。でも影響を持つ女の子の近くにいる。彼女の子は未来の世界の主役の1人になる。彼女を守る者も強くあっていいはずだ。未来にほんの少しの波紋を残すかもしれない。


「まあ別に関係ないわ。貴方はとにかく楽しんでね。私のお気に入り♪」


 女神はデレている閻魔の機嫌を取りに行く。またいつか使えるだろうから。


__


「女神様もとんでもないことにしてくれる。こんなサプライズなら何度でも受けたいね」


 ただ状況は良くない。魔物だらけのダンジョンに落ちてしまった。本来繋がっていないダンジョンが強すぎる魔物が暴れたりして床が砕かれ、繋がってしまうということが稀にあると授業で習った。今まさにそれに遭遇しているのだ。


 SPは閻魔様がくれたのか? なんだかんだで優しい人だな。


名前:目許研

種族:人間

Lv:10/100

HP:5/145

MP:145/145

攻撃力:55

防御力:55

俊敏:100

器用:55

運:10


SP:0


ギフト一覧 

上級剣士:Lv1 ⭐︎⭐︎

暗視双眼鏡の目:Lv1 ⭐︎⭐︎

予感:Lv1 ⭐︎⭐︎

攻撃力強化:Lv1 ⭐︎

俊敏強化:Lv10 ⭐︎

器用強化:Lv1 ⭐︎


 HPが残り5かよ。ゴブリンに小突かれただけでまた閻魔様と再会だ。しかも今いるのは未攻略のダンジョンだ。レベルが上がってもHPは回復しない。回復アイテムをここで探すか。敵に一撃も貰わずに出口を探すかだ。どちらにしてもハードモードだな。


 止まっていても仕方ない。傷口からの血が止まらない。休んでいたらHPは減っていくだろう。なら動いて、最後まで諦めない。


「暗視双眼鏡の目。ありがとう。母さん」


 俺はクリスタルの剣を握りしめ、暗闇を歩き出した。

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