第8話若気の至りってあるよね?


 俺は家に帰り、悶絶していた。何にSPを振ればいいのか! 舞ちゃんは挑発を上げる! って何故か怒ってたし。一ノ瀬さんは基礎を上げたいようだった。多分MPだ。その上で遺伝と固有の能力ギフトを育てる。甚君は攻撃力を上げるとのこと。


 手が手が動いてしまう! 剣士に振っちゃう! 俺の手はついにやってしまった。


名前:目許研

種族:人間

Lv:10/100

HP:145/145

MP:145/145

攻撃力:55

防御力:55

俊敏:100

器用:55

運:10


SP:0


ギフト一覧 

中級剣士:Lv1 ⭐︎⭐︎

暗視双眼鏡の目:Lv1 ⭐︎⭐︎

虫の知らせ:Lv1 ⭐︎

攻撃力強化:Lv1 ⭐︎

俊敏強化:Lv10 ⭐︎

器用強化:Lv1 ⭐︎


 中級剣士になり、出来ることで凄いものがあった。それが【紋章の刺青エンブレムタトゥー】の力だ。剣士には無用なMPを消費することで使用が可能となる。捧げたMP分攻撃力が向上する。更に全体的な身体能力の向上。これは捧げたMPの半分程度が+されると考えられる。とにかく中級剣士凄い! テンション上がる!


 ただ身体への負担が大きい上に、求道者などと違い、使用時間が10分程度と短時間だ。必殺の能力ってやつだな。もっと上に行けば分からないが、今は十分すぎる能力だ。


 スマホの着信が鳴る。メッセか。舞ちゃんからだ。


『振るの決めた?』


 『剣士に振っちゃった笑』


『うわ! これで初級剣士か。攻撃頼りにしてるよ』


 『任せておけ。必殺を得た』


『必殺!? 超良いね』


 なんてたわいない会話が続く。舞ちゃんは挑発をランクアップしたら【魅了】という能力になったらしい。魔物にしか効果はないみたいとのこと。


__


 仮免試験当日。


「人多いねえ」

「本当だね。受けるのは全国の一年だから」

「組むのは同じ学校だよね? また迅君と一ノ瀬さんが良いな」


 あの模擬体験以来、迅君とも一ノ瀬さんともかなり仲良くなり、メッセのグループがあるくらいだ。


「よお」


 いかついお兄さんこと迅君が声をかけてきた。身長が175あるために非常に怖い。何故かニット帽を被っている。


 近くには一ノ瀬さんもいた制服の上から装備を着ていて、模擬試験の時と同じスタイルだ。


「天明の集合場所はどこだっけ?」

「あ! あれ、先生じゃない?」


 おー。確かに見たことあるおじさんだ。俺達は駆け足で近寄る。


「来たな。お前らが最後だ。いつもギリギリだな」


 先生に嫌味を言われつつ、列に並ぶ。


「今回も4人で組んでもらう。名前を読み上げるから返事しろよー」


 少しずつ名前が呼ばれていく。俺はいつも最後の方だ。


「目許」

「………え? あ、はい!」


 誰がメンバーだ? 聞いてなかった。


「おい! 集まれや!」


 メンバーを呼び寄せているヤンキーがいる。マジかよ。今回こいつと組むのか。ヤンキーと目が合うとにんまりとこちらに笑いかけてきた。


「今回はみんな班が違うね。がっかり」

「仕方ないさ」

「研君、あの人」

「うん。まあ気をつけるよ」


 舞ちゃんは心配そうだが、今の俺はなかなか強い。本物のダンジョンとは言え、攻略された安全なダンジョン。配置される魔物も決まっている。心配はないさ。


__


 順々にダンジョンに入っていく。仮免の説明ではダンジョン内に点数がついた魔物が無数に配置されており、パーティで20ポイント以上獲得で合格。時間制限もあり、入ってから3時間とのこと。


「おい目許。お前が前衛な」

「俺が? 鋼鉄化の能力ギフト持ちがいただろう」

「俺は腹痛くて無理だ。オークナイトを倒した探索者様に任せるわ」


 ニヤニヤ笑う3人のメンバー。こいつら全員仲間ってわけか。良いぜ。俺は仮免取れればそれでいい。ここは合法的にレベルを上げられる場所だぞ。何もしないなんて本当に馬鹿だな。


 俺は不貞腐れた顔をして、内心では笑っていた。20ポイント分。全部俺がいただく。


 俺たちの番になり、クリスタルソードを手にする。前に進めと言うのだからどんどん進む。


「おい待てよ。早すぎるだろ!」


 ヤンキーが悪態をついてくる。


「普通に歩いてるけど?」


 俺が振り返って伝える。もはやレベル違いは歴然だ。どれほどいきがっても俺の方が上だ。


「合格したいんだろう。時間もあるし、死ぬ気で来なよ」


 更に歩幅を開き早く進む。後ろから息が切れる声がする。前からは唸り声。ただのオークだ。ランクはF判定。Fのモンスターは5ポイント。何せ全員がレベル1の設定だ。Fランクのモンスターでも下手すりゃ死者が出る。


「オ、オークか。おい目許! 前衛」


 支援も何もないのに前衛だけ出て何が出来る。攻撃するプランはあるんだろうな。


 オークは豚の鳴き声をあげると、こちらに突進してくる。俺は神経を研ぎ澄まし、剣を構える。


 後ろではヤンキー軍団が狼狽えている。


 オークの棍棒が振られるが、屈んで避けると、そのまま剣を上に弧を描くように振り上げる。オークは見事に真っ二つになって倒れる。


「良し」


 ファンファーレはならない。最早オーク一匹ではレベルが上がらない。もっと群れを倒したいな。舞ちゃんの盾があれば、可能だ。今度舞ちゃん、迅君、一ノ瀬さん誘って、萌香と冷児のダンジョン探索に一緒に行かせてもらうかな。あいつら仮免なのにもう2人でダンジョン潜ってやがる。完全に違法なところを脅してやろう。


 俺はくくくと笑っていると、リリーンと虫の音が聞こえる。虫の知らせだ。そのあとすぐに後ろから思いっきりタックルを喰らう。


「え?」


 崖のすぐそばという下手な場所に立っていた俺はよろけてそのまま奈落へと落ちる。声を出す間もなかった。

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