第2話目覚め


 東京 病院


「ん? んあ?」


 眩しい。目が開けていられない。何だか長い夢を見ていたような。


「研!」


 ドサッという衝撃。母親がベットの上に手を置いたのだ。顔は涙に溢れている。


「母さん…」


 酷く息がしづらい。人工呼吸器のマスクが口を覆っている。


「研。目が覚めたか。馬鹿野郎」


 父親もそばにいた。父も涙を流している。覚えているのは子供助け、トラックの撥ねられる瞬間のライト。そして地面。


「ごめんよ…」


__


 俺はあの子を助けてから1ヶ月もの間、生死を彷徨っていたらしい。ようやく落ち着いても目が覚めずに更に1ヶ月。


 男の子は幸い無事で、トラックの運転手もすぐに逮捕されたらしい。その後のことは両親に任せる。伝えることは伝えるが、そのおかげとは言いたくないけど、チャンスも貰った。


 親には相当心配をかけてしまった。でも生きていた。そして夢で覚えている確かな記憶。これを確かめるにはレベルを上げるしかないけど、俺にはまだダンジョンに潜る資格がない。


「高校始まってるよね」

「ええ、でも大丈夫。事情は説明して、いつでも登校できるようになってるから」


 それを聞いて一安心だ。うちの高校は卒業出来れば、自動的にGランクの探索者資格が授与される。探索者専門に勉強する高校だからだ。


「それなら良かった。ありがとう」

「萌香ちゃんも冷児君も良くお見舞いに来てくれてるわ。明日も来るだろうから」

「あいつらか、確かに会いたいな」


 2人の幼馴染。昔からずっと3人で遊んでいた。だが2人とも探索者の資質は俺とは違う。それがずっとコンプレックスでもある。


 とりあえず今日は寝ろという事なので、医師に一度診察してもらい、骨折は既に治っているので、あとは体力作りで、数週間で退院できるだろうという事だった。


__


 数週間後


「行ってくるよ。母さん」

「本当に気をつけてね」

「分かってる」


 俺は玄関を開けると、2人の男女が手を上げている。俺も手を上げて、2人に合流する。


「悪いな」


 俺は2人に声をかける。


「良いよ。初登校でしょ」


 火野萌香ひのもえか。短いホブの髪型。制服の上からも分かるスレンダーな身体。身長は160。可愛らしい顔ですでに学校で人気者らしい。


「俺らが学校の中案内してやるよ」


 宇良田冷児うらたれいじ。癖っ毛で短髪の髪はツンツンと立っている。筋肉質。180の高身長爽やかイケメン。俺は髪質はさらさらの為に短髪でも髪は下りているし、170で細身。人気の差は歴然だ。


「お前ら特進クラスだろ。案内できんのか」

「特進だろうと利用する施設は変わんねーだろ。問題ねーよ」


 3人で軽口を叩きながら、電車に乗りながら、学校の感じとか教えてもらう。


 2人は入院してる時も毎日お見舞いに来てくれた上にリハビリにも付き合ってくれた。


「でもちょっとしんどいよな。もうすぐ中間だもん」

「それは確かにね」

「天明って中間はレベルアップ試験だよな?」


 俺が通う天明高校。ただ単に探索者育成高校とは名乗ならない。そうするとそんな名前だらけの高校ばかりになる。うちの学校の名前は探索者育成校でも有名な天明という名の高校だ。


 レベルアップ試験はダンジョンに潜る資格がない学生の可能性を知る為にレベルを1だけ上がるような魔物と戦闘する試験。そこで更に才能を図る。


 2学期にもクラス替えがあるという厳しい学校だ。うちはクラスがAからDまで、そこに特進というAより上のクラスが存在する。特進は今年は3人いるらしい。


 ちなみに冷児も萌香もダンジョンに潜ったことがある。2人とも親がギルドマスターであり、更に両親が星4以上の能力ギフトを持つというまさにサラブレッドだ。


 今の世代は親の能力ギフトを引き継ぐのが当たり前だ。例外もあるが、つまり才能は親の力である程度分かってしまうわけだ。


 だからこそこの2人は特進での入学を決めた。その頃には受け継いだ力も分かっており、ちなみに冷児も萌香も星5の能力ギフトを受け継いだことが分かっている。


 能力ギフトは1〜5とランクがあり、上があるかは能力ギフトをLv10にして極め、次の選択肢があれば星2という具合に見極めていた。今は様々な能力が解明された上、期待値というどこまで成長するかを図る機械も開発され、ある程度予測が可能になっている。


「いきなりゴブリンと戦うとか確かに少し怖いな」

「問題ないよ。ゴブリンなんて金属バット振ってれば倒せるよ」


 萌香が伝えてくるが、やはり不安だ。弾丸ならともかく金属バットって、でも鉄砲も扱いづらいか。とにかくやってやるしかないな。


「お前の両親は何だっけ?」

「【薬草学】か【鷹の目】だな」

「【鷹の目】は星3まであることが分かってる。そっち引けたら良いな」


 そんな話で盛り上がりながら、俺達は学校へと向かう。


__


「うおー。受験以来。なんか懐かしい」


 2人と歩きつつ、校舎へと向かう。そこへ猛スピードの自転車がこちらに向かってくる。


「きゃあー!」

「ぶへ!」


 自転車クラッシュを受け、吹き飛ぶ俺。


「何すんだ!」

「ご、ごめんなさい。ブレーキの壊れちゃって」


 ぶつかってきたのは女子生徒だった。急いでいるようで、謝りながらメモで連絡先を渡してきた。


「私急いでて! 後できちんと謝るので、連絡します!」


 女子生徒は走っていってしまう。


「研。良かったな。女子の連絡先ゲット」

「それは良いが、俺がぶつかられて俺が連絡するっておかしくない!?」


 爆笑している萌香。冷児も笑っていた。俺はぶつぶつ文句を垂れながら、ようやく校舎内へと入っていった。

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