【オーバースペック】〜女神からのギフト〜

@kagiri0730

第一章 高校生編

第1話ハイパーギフト


 東京


 今から30年前。2020年初頭。世界は初のダンジョンを確認。そこから溢れ出した【魔物】はあまりに強く、人類を蹂躙した。


 人間にも変化があった【ステータス】の導入と神より与えられし【能力ギフト】の力により溢れる【魔物】に対抗する。


 【ハルマゲドン】と呼ばれたその人魔戦争は20年も続き、人類側の勝利で幕を閉じた。戦争終結から10年。奇跡の復興と言われた1年を経て、人類は地球に残されたダンジョンの資源を獲得を目指し、大探索者時代へと突入していく。


 世界を救ったとされるサルバドール救世主の10人は新しい世界の団結を呼びかけ、世界連合国【ドミニオン】を建国。10人はそれぞれにギルドを立ち上げ、その力はサルバドール一つのギルドで政府の力を超え、情報網を凌駕する。


 救世主はたちまち世界の支配者となった。


 ドミニオンには10の地方政府があり、自治区として独立しているが、裏には常にサルバドール達の意志が介入している。


__


 世は大探索者時代だ。【ハルマゲドン】を経て生き残った人類は10億人とも言われ、この日本にも2000万を超える人が住んでいる。


 ドミニオンが再興した世界では電力の動力源が魔石となっており、何をするにも魔石が必要だ。風呂に入るにもスマホ使うにも、電車に乗るにも。


 魔石はダンジョンにしか存在しないが、この世界には億を超える数のダンジョンが存在するとされる。暫く資源に困ることはないが、ダンジョンには魔物が存在している。


 普通の世界の再興を望み、サルバドールに反抗したデモ隊は規模を大きくして反乱運動となり、大規模な衝突もあったらしい。圧倒的なサルバドールの力に敗れ、サルバドールの望む世界となった。


__


 そんな大人な世界はともかくとして、俺こと目許研めもとけんは気分良く、家路へとついていた。目指していた学校への合格を確認した帰りだった。


 優秀過ぎる2人の幼馴染は推薦での入学を決めていた。異様に俺に期待している両親がこの学校の進学を期待していたから、やっと肩の荷が降りた。


 世界はまだまだ危険なのか。与えられた【ステータス】と【能力ギフト】は俺たちの代にも与えられている。それを使い、この探索者時代で成功して、少しでも親孝行出来ればいい。


 進む高校は私立だし。就職先を見つけるのも大変なこの時代に高校に進ませてくれる両親には感謝しかない。


 俺は帰り道の道路前で信号待ちをしていると、親同士が話に夢中で子供から目を離していたのが目に入った。その子が道路に飛び出すのも、トラックが猛スピードで突進してくるのも。なんてお決まりなパターンなんだ。


「危ない!」


 思わず駆け出し、その子を押し飛ばして助けると俺はモロにトラックに吹っ飛ばされ、くの字に曲がったまま地面へ激突。意識を失った。


__


 薄らと目を開ける。最初は病院かと思ったが、全体的に薄らとモヤがかかった空間にいることに気づく。


「ここは?」

「はーい! どうもー!」


 妙に元気なお姉さんに声をかけられる。天女様のように古い着物と羽衣纏う天女様だ。


「立てるかな?」

「はい、何とか」


 俺はくの字に曲がったはずの身体を真っ直ぐに起こす。


「よく出来ました!」

「テンション高いっすね。ここは天国?」


 キラキラしたもやの中をぐるっと見回すが何もない。


「違いまーす! 死にかけって感じ!」

「死にかけ…」

「大丈夫。私に会えたんだから助かるよ。更にね。ビックプレゼント」


 天女様は両手を広げて、更にウィンクする。何が楽しいのか。


「ビック、ですか?」

「そう!」


 天女様は指を鳴らすと何やらやっすいガチャガチャを出した。あの100円入れると回せるやつだ。


「この中には星4、星5の能力ギフトが詰まった玉が入ってまーす。名付けて徳徳ガチャ! 徳を積んだ死にかけさんにのみの大特典!」

「ほ、星5!? 最高の能力じゃないですか!」

「そうだよ。でも命を投げうってまで、小さな命のために身を捧げた君にはそのくらいのサプライズがあっても良いじゃない」


 天女様は両手を合わせて今度は天を仰いでいる。わざとらしく涙ぐんでもいる。


「この中には銀、金、虹そして空」

「あれ? 銀が星4なら、虹は?」

「うふふ。まあお楽しみ。滅多に出ないしね」


 天女様は口元を抑えて、微笑んでいる。


「あの空は?」

「空は空だよ。ハズレ」

「ハズレもあるんですか!?」

「当たり前じゃん」


 何言ってんのよとばかりの天女様。さっきまで泣いてたのはやはり演技か。


「さあ、引いてごらんなさい!」


 俺は天女様に背中を押され、ガチャガチャの前に。まあ銀でもとんでもなく嬉しい話。化け物じみたあの2人に少しでも追いつける。俺はガチャに手を置き、回す。


 ガラガラと音がなり、カプセルが落ちてくる。


 中の光は…


「虹色だ」

「え!?」


 天女様が驚いたように俺をすっ飛ばして、確認する。


「うわー! 本当に虹色! 凄ーい!」


 ぴょんぴょん跳ねる天女様。


「私が女神になって初めてかも」


 マジマジと虹色の玉を見ている。


「虹は何なんですか?」

「知りたい? 宿してみなよ」

「宿すって」


 俺は虹色の玉を渡される。とりあえず握ってみると、玉は溶けるように霧となり、俺のことを包み込む。


 【剣王】:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎【⭐︎】


 【剣王】? 剣士系のスキルの最高峰は【剣聖】だよな?


「それは超越能力ハイパーギフトだよ」

「超越…何ですか?」

「普通の力には限界がある。貴方の世界では星5が最高。これはそれを超越した能力ギフトだよ」


 天女様はまた微笑んでいる。


「そんなものがあったんですね」


 俺は素直に驚いていた。


「先代の女神様は戦争が始まった頃。この能力やさらに上の能力を人間に配った。多くはその力を以ってしても殆どが死に絶えた」

「あのサルバドール救世主達は?」

「間違いなくあなたよりも上の能力ギフトを持つ」


 天女…女神様が真顔になる。


「殆どが死に絶えただけで全滅はしていない。サルバドールだけじゃない。それに対抗する人たち。無関心な人。多くの人が力を持っている」

「どうしてそんなに多く力が?」

「先代の女神様はどうしても人を助けたかった。優しい人だからねぇ。世界の変化の原因は私達にも分からなかった。だから余計に助けたかったんだろうね」


 そうだったのか。なら女神様には感謝だ。でも俺は疑問を感じた。


「SPポイントが足りなくないですか?」

「ふふん。SPポイントはレベルアップ以外にも手に入れる方法はあるんだよん。貴方は徳を積んだ死にかけプレゼントとして10ポイント多くプレゼントされる。あとは自分で何とかして。知識はもう貴方の中に入ってる。少しずつ消化していって」


 そんな放任主義な。ありがたいけど、他にも徳ガチャガチャをやった人はいるはずだ。どうやってるんだろうか。他の質問をしてみる。


「今は先代の女神様は?」

「他の世界をお助け中ー。私達が見るのは宇宙規模だからね」

「そ、そうですか。お礼を言っておいて下さい」


 俺は頭を下げる。平和をありがとうございます。


「それはもう沢山の人の祈りで届いてるよ。でもね。前の女神様は力をばら撒きすぎた。それは私達すら脅かす。目が覚めたら、貴方は貰った能力ギフトの事以外は殆ど忘れてる。折角強くなれるんだから、人生を楽しんでね」

「そうなんですね。残念ですけど…ありがとうございます」


 女神様が微笑むと、とんでもない睡魔に襲われる。


 女神様は俺に向けて何かを伝えているようだ。


「【ミリオン・フォレスト】と【矢田英雄やだひでお】には近づかないように」


 俺はその声を聞くと同時に眠りについた。

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