第3話ヒロインなのか?


 萌香と冷児に学校の案内をしてもらうと、俺の教室前で別れた。


「また後でね」


 萌香が元気に手を振り、冷児も笑っている。


 初めてのクラス。緊張する。俺のクラスはDだ。入学前の基礎試験や体力測定で暫定のクラスが決まる。俺は受けなかった訳だから、Dなのは当たり前だ。


 紹介するので、教室前で待っているように先生に言われている。また誰かが走ってくる。


「ち、遅刻しちゃうー!」


 どう見てもさっきの女の子だった。


「あれ!?」


 その子は俺を見て驚いている。連絡を寄越すはずの相手がすでに目の前にいるのだ。考えてもみれば当たり前の話なのだが。


「さっきはすみませんでした! 私は月野舞つきのまいと申します!」


 ペコリと頭を下げる月野さん。髪はロングで前髪ぱっつん。細身の体型。顔は綺麗で人気がありそうだ。


「いや、大丈夫ですよ。それより遅刻しますよ?」

「あっ! やばい!」


 急いで教室に入っていく月野さん。騒がしい子だな。


 暫く待っていると、おじさんの先生がやってくる。歳はとっていても探索者の学校の先生だ。身体はがっしりしていた。


「お前が目許か。今日から宜しくな」

「はい。宜しくお願いします!」


 先生と共に教室に入る。入った瞬間に感じる重たい空気。皆こちらに視線を送ると、またふと横にずらす。月野さんだけが元気にこちらに手を振ってくれる。


「なんだ。月野とは知り合いか?」

「知り合い…ですかね」


 被害者と加害者だが、この際説明もめんどくさい。


「まあいい。事情があって今日からの登校になる生徒だ。自己紹介を」


 先生に促される。


「えー。目許研です。宜しくお願いします」


 パラパラの拍手の中、月野だけはひときわ大きな拍手をしてくれる。


「折角だし、月野の隣に座れ。席も空いてる」


 俺は頷く。Dクラスは定員オーバーじゃない。30人くらい入るクラスに20人くらいしかいない。席もパラパラと空席が目立つ。


「宜しくね。目許君」

「うん。宜しく」


 その後何事もなく授業が開始される。ダンジョンに潜る際の基本的な雑学だった。


 休み時間。すでにクラスのグループは出来てる中。月野だけは輪の中にいないようだったので、2人でつるむことにした。他愛無い話をしていると、1人の男子に話しかけられる


「ちょっと出られないかな?」

「え? 良いけど」


 教室の外に呼び出されると、男子生徒が話し始める。


「目許君、気にならないの?」

「何がさ?」

「月野さんが1人の理由」

「…いじめ?」


 俺は思いついたことを言ってみた。


「違うって。月野さんは別次元なのさ。本来なら特進でもおかしく無い人なんだ」

「そんな凄い人だったんだ」


 男子生徒はめんどくさそうに説明してくる。


「月野ダンジョン開発って知ってるっしょ?」

「うん。探索者目指す人なら誰でも知ってるさ」


 月野ダンジョン開発。ダンジョンは攻略を完了すると、魔物が出現しない安全地帯に変わる。


 広すぎるが故に、1つのギルドの力で開発するのは難しいが、魔石は豊富で資源も豊富。魔道具や回復アイテム、モンスターストーンと呼ばれる特殊なアイテムと宝の山。


 基本攻略したギルドがダンジョンの所有権を持つが、その所有権を高値で買取、開発し、利益を上げるのが、ダンジョン開発会社だ。その世界のトップ企業が月野ダンジョン開発という訳。


「月野さんはそこの1人娘なんだよ」

「え!?」


 流石に驚いた。名字が同じなんて良くあることだと思っていた。


「あの人は常にやばいくらい強い人達が守ってる。関わらない方が良いよ」

「そんなことか」

「そんなことって…」


 やばいくらい強い人達はずっと昔から見てきている。萌香と冷児の両親のギルドの人達とも交流はあった。


「事情を教えてくれてありがとう」


 俺は男子生徒にお礼を言って教室に戻ると、月野さんの前に戻る。


「あの…聞きました?」

「君が月野ダンジョン開発の娘って?」

「はい」

「俺はそんなの気にしないよ。やばいのは慣れてるから」


 月野さんは不思議な顔をする。


「今年の特進クラスに知り合いが2人いる。そいつらもだいぶやばいから」


 俺は笑ってみせる。


「そうなんですねえ」


 月野は両手を顔の前で合わせて、目を輝かせる。


「だから俺は月野さんを特別扱いしないよ。普通に失礼があったら言ってね」

「分かりました!」


 月野は元気いっぱいに返事してきた。そこでチャイムがなる。


 次の授業も探索者とは何かという話だった。


「来週から中間試験だ。試験には実技も含まれる。とは言っても弱らせたゴブリンとの戦闘だ。目的は君達のステータスと能力ギフトの確認だ」


 やっぱりあるのか。弱らせてるとはいえ、こちとらただの人間だ。車を棍棒でペシャンコにするゴブリンだ。雑魚なんて思えない。


「緊張しますね」


 ひそひそ声で月野さんが話しかけてくる。俺は頷いて同意する。顔がニヤけてしまう。なんか青春しちゃってる感じがする。いかん。俺はそれなりの探索者になるんだ。気を引き締めて行こうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る