第14話 進化

「けど、はいそうですか、ってやられてやるわけにはいかないのよね!」


そう言ってテュースさんは不敵に笑う。


「その通りだ!全員ッ、木を盾にして森の中を突っ切るぞ!あのデカさじゃ森の中じゃ身動き取れないから追ってこないはずだ!」


ランガさんは言うが早いか森の中に飛び込んだ!


俺も他の二人と共に後を追い、森の中に入る。

しかし、敵は進化種だけではなかったことを俺たちは失念していた。


「っ!ブラッククロウが追ってきてる!」


三匹はその小柄な体格を活かして、森の中をうまく飛び、自分達のボスに鳴き声で状況を知らせる。


ブオッ!!と上空から凄まじい突風が吹き荒れる。

それは狙いすましたかのように、俺たちを襲う。

ブラッククロウ・ドンの攻撃だ。


しかし、森の木々がその威力を抑えてくれるお陰か、大したダメージは受けない。せいぜいがかすり傷程度だ。


「これは、まずいな……」


ランガさんはいつになく深刻な表情を浮かべていた。


「やつは自分で俺たちを仕留めるつもりはないのかもしれない。……目的は多分、木々を薙ぎ倒して、俺たちに怪我を負わせて、そんで他のモンスターに俺たちの存在をアピールすることだ」


「なるほど、自分では手を下さず、他のモンスターに嬲り殺させようってわけね。見た目以上に残酷なモンスターね!」


「………………」


俺は衝動的に謝りたくなるのを唇を噛んで抑える。

じわりと口の中に血の味が滲む。


(謝るのは生き残ってからだ!……今は自分にできることを考えるだ!)


ジャックに乗って逃げる?いやだめだ、小柄なジャックじゃ、とても全員を乗せて走るなんてできない。


なら、三羽烏をたおすか?

いや、奴らも今は警戒して動いてる。

そんな状況じゃ狙って倒すのは困難だ……

どうすれば、どうすれば、どうすれば!!


焦って思考をしながらの逃走では足元がおぼつかない。

俺は木の根に躓いて倒れてしまう。


「ぐっ」


受身を取れず、全身を強かに打ち付けた俺は、痛みに耐えながら立ち上がる。


『ガァァア!』


俺が倒れて隙を晒したのは、最悪にもそれなりに視界の開けた場所だった……それをしっかりと見ていたブラッククロウ・ドンは、俺に向けて突っ込んでくる。


俺は一瞬恐怖し、その後。 


(いや、俺を殺れば奴らは満足して、他のメンバーは見逃してくれるかもしれない……)


そんなことを考えた。

考えてしまった。


『───バカ野郎!!!』


と、その瞬間、俺の頭の中に大きな声が響いた。


そして、ドゴッという衝撃音と共に、ブラッククロウ・ドンは何かに突き飛ばされ横に吹き飛んだ。


『大丈夫か?───相棒』 


俺が見上げると、かすり傷だらけで血まみれのジャックがこちらを見ていた。


「ジャック、お前。喋れたのか?」


『いや、いまそっちかよ……まぁいい。お前と俺の特訓の成果だな。死を身近に感じることが俺たちの限界を引き出したんだ。それで互いの気持ちが通じるようになった』


『そして変化はそれだけじゃない───俺の背中に乗りな。こっから、勝つぜ。相棒』


俺はジャックに言われた通りに背中によじのぼる。

すると、俺の右手の甲の紋章が虹色に輝いた。


『進化だ。俺は今この状況を切り抜けるのに最も相応しい姿に変わる』


やがてジャックも虹色に輝き、そして、変化を迎えた。

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