第12話 ジャックとの思い出
思い返せば、ジャックと出会ってから三ヶ月ほど過ぎていた。
俺は師匠のところで働かせてもらっていて、ジャックはその厩舎で毎日を過ごしていた。
俺たちの出会いは割とどこにでもある、大したドラマもない出会いだった。
「お前、結構ブラッシングも慣れてきたな」
ある日の朝、朝食をつまみながら師匠はそんなことを言った。
「え、まぁたしかに慣れてきたとは思います」
と、俺は答える。厩舎にいるランドランナー達のブラッシングをはじめて二週間ほど。
もう変なところをブラッシングしてランドランナーたちを苛立たせることも無くなった。
「だからまぁ、そろそろ難易度の高いやつ。そうだな……ジャックのいる厩舎のブラッシングしてみろ」
俺がジャックの名前を聞いたのはこの時が初めてだった。
「ジャック、ですか?」
「おう、ジャックは図体は小さめだが気性が荒くてな……油断してると、ガブリだぜ」
と、師匠は脅しをかけてきた。しかしその眼は真剣そのもので、その脅しが冗談ではないことが伝わってきた。
俺は気合いを入れてブラッシング道具を持ってジャックのいる厩舎へと向かった。
すると、数匹の中から一匹のランドランナーがギロリとコチラを爬虫類系の独特な眼で睨んできた。
小柄なのも合わせて、あらためて確かめるまでもなく俺はそいつがジャックだと確信した。
俺はジャックの視線を感じつつ淡々とブラッシングの作業をしていく。
厩舎内でもヒエラルキーみたいなものがあるらしく、ジャックはその中でも後ろの方。前の方のランドランナーから先にブラッシングしてゆく。
そうしてジャックの番、俺は緊張で少し硬くなりながらも、手順通りのブラッシングをしてゆく。
ジャックは特に何も不満げな行動を見せず、なされるがままに気持ちよさそうにブラッシングを受けていた。
そして、程なくしてジャックのブラッシングは終わる。
そして俺は内心ホッとしながら別のランドランナーの方へブラッシングへと向かった。
これが俺とジャックのはじめての邂逅。
ほんとに何もなく終わった。
そして、それからも俺は師匠の指示がある日はジャックの厩舎に向かった。
「お前もなかなかだな」
と、ある日の晩、唐突に師匠がそんなことを言ってきた。
「何がです?」
「いや、ジャックのことだよ。アイツ随分お前のこと気に入ってるみたいだぜ?
俺がブラッシングに行くと不機嫌になりやがる。それに、ジャックの厩舎は一種の試練だ。あそこのブラッシング任されて失敗して、そんで辞めていく奴も何人かいた」
「へぇー、そうなんですか。そんなに難しいとは思いませんでしたけど」
「そこがなかなかだなって言ったんだ」
「明日ジャックを牧場に解放するから、アイツの相手してやってくれ」
と、師匠に言われ、俺は「はい」と、答えた。
それから俺はよくジャックを任されるようになった。
多分師匠はこの時から俺にジャックを譲るつもりでいたのかもしれない。
そんなこともつゆ知らず、俺とジャックは一緒になって絆を深めていった。
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短編書きました!
タイトルは
【霊能力者の俺が乙女ゲーヒロイン乗っ取り転生者を『破ァ!!』したらヒーロールート確定した話】
です!
この作品とはタイプの違う作品ですが作者的に面白い作品だと思っているので読んで頂ければ……!!
あと、この作品もですが、星評価、応援、レビュー、等していただけると作者のモチベが上がります。
では!
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