化ケ物ノ遊戯

第伍話 所有の印



「はい、こちらが成功報酬となります金額分の入った封筒と、龍院家の恩人の印のカードでございますわ。」




龍院が机にスッと分厚い封筒と黒いカードを置いて差し出す


すかさず机の上の封筒を見て、中の札束を数える




「ふむ、ではたしかに受け取りました。以後またなにか怪異で困ったときはこちらへ。」




いつもの仕事上がりの文句を言う





「ええ、こちらこそいつでも頼ってくださいまし。それではまた地獄で会いましょう。」




そう笑顔で言い捨てて、龍院はいつかの時と同じようにボディーガードたちを引き連れて部屋から出ていった





これで、無事依頼は終了か






それじゃあ、あいつのところに行くか。







   ☆★☆







俺の記憶は、あいつの背について行った所から消えていた


多分、あいつがそれを好ましいと思ったのだろう



気付いた時には、俺は自分の事務所のソファの上に寝ていた




――――手に一枚の黒い紙を持って



――――そして、万を超える怪異たちの血を纏って




怪異の血だから、普通のヒトからは見えないだろうが、俺は全身にその赤黒いドロリとした血を付けられていた



その存在に気が付いた時から分かっていた




その血は怪異たちが自ら付けたものであると




それと同時に俺の心は歓喜に震えた





なんて醜い美しい感情たちだ!





ただただその存在を恐れ、憎み、敬い、嫉妬し、妬み、嫌い、そして愛している!



素晴らしい!



なんて醜くくも美しい、甘美な感情なのだ!




良い!

実に良い!




これこそがの求めた美しい感情の真髄に最も近いもの!







ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ







ソファに寝そべったままの姿勢で、その楽園につかの間の夢を這ぜる





嗚呼、ずっと味わっていたいほどだ




でも俺にはまだやるべきことが残っている




この紙の指示通りに動かなければ




ふふ、どんな悪感情に出会えるかなぁ




起き上がって、ソファにちゃんと座る


見れば体中に傷跡があった




いつものように治そうとすると、心臓の動きが止まった



冷たい汗が背筋を傳う――――


体中の血が急速に冷めていく――――


全身の細胞が活動を停止していく――――





急いで治癒を止める



「ハアッハアッハアッハアッ‥...‥‥‥‥...‥‥‥‥...‥‥」



だめだ、あいつがそれを望んでいないッ




急いで息を整えれば、それはまるでなかったかのように体は生命活動を続ける




来ていたシャツの前のボタンを勢いよく飛ばしながら、性急に上半身を一糸纏わぬ姿にする



そして体に付けられた傷をよく見る




「ハッ」




乾いた苦笑が口から出る


その傷は、体のありとあらゆる血管を裂いて、一種の紋様を築いていた




「ハハハハハハハハハハハハ」




狂ったかのように口から笑いが漏れる




「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」




そうか、そうか、



俺はあいつのものなんだな





山の神であるこの俺がッ!


未来と現世の渡神であるこの俺がッ!


あの化け物のッ!


所有物にッ!




良いだろう


嗚呼、良いだろう





こんな良き従者に恵まれるとは、なんて幸運なんだあいつは



いや、あいつの運命が運の良かっただけか





まだその傷たちからは血が滴っている




ふむ、とりあえずこの傷は放置するか




あいつの感情が刷り込まれているのを感じるが、放置しても大したことにはならん



傷跡が残るくらいだろう


まあ、それがあいつの意図だろうがな




ソファから降りて、浴室まで行く




まずはこの体の汚れを取りたい

不愉快だ




来ていた服を脱ぎ捨てて、浴室に入る




風呂には入らずに、シャワーだけを浴びる



いつもと違い、シャワーヘッドから出てくる水の温度は4℃だ




冷たい水の感覚が傷だらけの体に心地よい

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バケモノ遊戯 雨紅 @WASABIEUGLENA

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