第4話

秋灯2:

秋灯の下、パティシエ船員は手紙を書き終えた。

偶然、かつての友人の消息を耳にし、懐かしく思ったからだ。

しかし、彼の今の居所は分からない。

そうだ、風の便りで彼のことを知ったのだから、手紙も風に任せよう。

船員は手紙を飛行機型に折ると船着場に出た。

風よ波よ、運んでおくれ。


紙飛行機:

「かぼちゃ饅頭好評だったよ」

少年が声をかけるとパティシエ船員は紙飛行機を手に振り返った。

「それはよかったです」

「ところでそれは何だ?」

「行方不明の友人に手紙を書いて飛ばすところです、もしかしたら届くかも知れないので」

「浪漫主義者だな」

少年が言うと船員は照れ笑いした。


はなむけ:

昼食の片付けを終えた包丁を研ぎ始めた。愛用しているこの包丁は友人からはなむけとして貰ったものだ。

今の仕事が決まった時、彼はとても喜んでくれた。堅気の生活をする気になったかと言いながら。

彼自身も同じ頃、堅気の暮らしを始めた。でも自分同様、賭け事は楽しんでいるだろう。


引き潮:

「大漁だなぁ、一人で釣ったのか?」

足元に魚が溢れた桶を置いたパティシエ船員に少年は言った。

「もちろんです、引き潮満ち潮時間をしっかり確認して出掛けたのですから」

船員は胸を張る。そして、

「当分食事は魚料理になりますがよろしいですか」

と言うと少年は

「いいね」

と応えた。


クリーニング:

「友人がこの地域でクリーニング屋始めたいと言っているのですが」

夕飯を食べ終えた少年にパティシエ船員は訊ねた。

「やめた方がいいよ。ここいらには洗濯女が大勢いるから商売にならないよ」

「そうですか。仕立て屋はどうでしょう?」

「それもダメだな。針仕事は女たちの内職だから」


レシピ:

「木槿国の王宮でお前の料理が気に入ったからレシピ書いてくれって言うんだ」

休息中のパティシエ船員に少年が言った。

「俺、木槿語書けませんが」

「俺が書いてやるから教えてくれ」

「分かりました。材料はしょっつると白菜‥」

「おい、ニョクマムなんて言ってないぞ」

 側で見ていた船長が少年に注意すると

「しょっつるもニョクマムも同じようなものだから構わないですよ」

と涼しい顔で応えるのだった。


缶詰:

「このあたりは缶詰の売れ行きがよくないなぁ」

大量の売れ残りの缶詰を前に船長は嘆くと

「木槿国も扶桑国も保存食品が発達してますからね」

少年が残念そうな口調で応じた。

「これどうすればいいものやら」

「料理人に任せましょう、あいつなら上手く調理してくれますよ」

「名案だ」


ほろほろ:

「今日の晩めし、美味かったなぁ」

少年が御機嫌で言うと

「ほろほろ鳥を使ったものですから」

とパティシエ船員も嬉しそうに応じた。

「ほろほろ鳥って高級品じゃないか」

「はい、注文していた扶桑国の長者がキャンセルして他に買手がなかったので、船長が夕食に使えと言ったんです」


裏腹:

「今回の仕事は思ったよりも儲けが少なかった。申し訳ないが諸君の褒賞は無しだ」

船長が言うと少年たちは

「仕方ないですね、次回は稼ぎましょう」

と明るい口調で応じた。

だが、笑顔とは裏腹に皆、心の中では“儲かった時は多く払わないくせに少ない時は無しかよ”と文句を言うのだった。








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木槿国の物語~それぞれの秋 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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