第3話

秋灯:

秋灯の下、王は最後の書類に目を通した。

仕事を終えた王はふと義弟のことを思った。

「しばらく会っていないな」

窓の外を見ると月明かりに色付いた木々が照らされている。

「共に紅葉を愛でたいものだ」

彼はさっそく筆を執ると紙上に走らせた。

書き終えた書状を王は義弟の元に送らせた。


屋上

高楼の屋上に登った王は周囲を見回した。紅葉、黄葉に彩られた風景に季節の変化を実感する。

「よい時季になりましたね。民たちは紅葉狩りをたのしんでいます」

隣にいた弟宮が示す方向に目をやると画員の妻の一行ほか多くの人々が飲食をしながら楽しんでいる姿が見え、王は思わず微笑んだ。


流星群

「昨夜の流星群に対する民たちの反応は如何だったか」

王は弟宮に訊ねた。

「皆、大量の流れ星に大喜びでした。観象監から予めこれは凶事ではないとお触れが出ていたので人々は動揺もしませんでした」

「それはよかった。こうした自然現象を利用して民を煽動する悪い奴がいるからな」


地下一階:

人々は王宮の地下一階には、財宝が眠っているとか、狂疾の王族が幽閉されているだの様々なことを言うがどれも正しくない。そもそも木槿国の王宮には地下室が存在しないからだ。

 なのに何故こうした噂が流れるのだろうか。

 王は弟宮に尋ねると

「庶民にとって王宮は別世界だからですよ」

と答えた。

 王が怪訝そうな顔をすると弟宮は

「未知のものというのは人々に様々な想像をかきたてさせるのです」

と説明した。


金木犀:

久しぶりに遊びに来た弟に王妃さまは桂花茶を淹れた。

「昔居た家も金木犀があったけど、ここにもたくさん植えられているね」

「ええ、だから桂花茶を作ってみたの」

「お茶作りは楽しかったね。安い茶葉に金木犀の花を混ぜただけでも高値で売れたからね」

「だからこの季節が一番好きよ」


おやつ

「姉上、そろそろおやつにしましょう」

弟宮は風呂敷包みを解き菓子箱の蓋を開けた。

「まぁ団栗餅」

「友人の奥方から貰った物です」

「懐かしいわ、よく作ったわね」

「ええ、山で団栗を拾って」

「たくさん作って市場に持って行ったらよく売れたわね」

「本当に秋は稼ぎ時でしたね」


旬:

「弟は帰ったのか?」

王妃のもとを訪ねた王が聞いた。

「ええ、お友達との約束があるといって」

「そうか、いつもすぐ帰ってしまうな。旬月もいたためしがない」

「外の世界の方が楽しいのでしょう」

「王妃も王宮の外の方がいいのか」

「私は主上の側がいいです」

王妃は笑顔で応じた。


ステッキ:

「いい加減、王宮に戻って下さい、私も年を取り御宅に伺うのがしんどくなりました」

ぼやく男に弟宮はステッキを与えた。

「洋杖ですか、これをついて来いとおっしゃるのですか。私はいにしえの将軍のような偉人ではありますせんよ」

男は暫く文句を言っていたが、弟宮は笑顔で聞いていた。









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