第2話

泣き笑い:

「お前、まだ泣いてるのか」

めそめそしている妻に画員が話し掛ける。妻が大事にしていた絵筆を誤って捨ててしまったのである。

いつものように起こり出すと思った妻が泣き始めた。予想外の展開に画員は慌ててふためいたのだがー

「これ、好きだろう」

妻の好物を次々並べた。そして新色の絵具や良質の紙だのを妻に見せた。

彼女の表情が泣き笑いになった。


隙間:

 広い屋敷の塀に沿って歩いていると隙間があった。

 そこから覗くと開け放れた部屋の中に少女が居るのが見えた。暑いため上衣は着ずに熱心に筆を動かしていた。

 絵を描いているのか、書写をしているのか、真剣に取り組む表情は貴く見えた。

「あら、いつ来たの。全然気が付かなかったわ」

 いつのまにか傍に立っていた画員に妻が言うと

「あまりに熱中していたので声を掛けそびれたんだ」

と照れたように応えた。


対価:

「夫人、今日も依頼、たくさん受けたみたいですね」

店で寛ぐ画員に少年は話し掛ける。

「ああ、図画署の仕事以外は対価が無いけどな」

「なのに引き受けるんですね」

「本人が言うには、どんな依頼でもしっかり対価は得ているそうなんだ。あいつにとっての対価は金品以外にあるらしい」


水中花:

「このあいだ買った水中花、姉上に好評だったよ」

店に来るなり生員は少年に言った。

「それはよかったです」

「うちは不評だったよ」

先に来ていた画員が言葉を継いだ。

「何故ですか?」

「工芸茶みたいに良い香がしたり、飲んだり出来ないから面白くないってさ」

「なるほど」

生員と少年は顔を見合わせて感心した。


白虹

「月夜なのに何故虹なんて描くんだ」

妻の絵を見ながら画員が言うと

「だって依頼主が描いてくれって言うんだもん」

と妻が応じた。

「変な依頼だな」

画員が言うとちょうど生員がやってきて

「いや南方では夜に虹が見えるらしい」

と言うと妻は夫を見返す。

「ただし七色じゃないけど」


神隠し:

「王妃さまの弟君って昔神隠しにあったんだって」

少年は画員の妻に訊ねた。

「表向きはそうなっているけど実は宮女と駆け落ちしたのよ」

「本当ですか」

「うん、でその宮女が病死すると一人で行方くらましたの」

「ひどい奴だなぁ」

「それは違う!」

側で会話を聞いていた生員は否定した。






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