『幸せな家族をな』
「────は?」
明人は、想安が何を見たかわかったらしく、目を開き抜けたような声を出した。だが、他の人は何かわからないらしく首を傾げている。
「どうしたの相想?」
「何か知ってるのか?」
音禰と真陽留が問いかけるが、明人は何も言わず顔を青くし俯く。
「その記事を見たのか?」
「……う、うん。読めるところと読めないところがあったけど、なんか……。失踪とか、書いてあったんだけど……」
「そうか。その話はまた後日話す。今は気にするな」
その会話で察したのか。真陽留も目を開き顔を青くした。
「どうしたの親父。なんか、顔青いけど……」
「…………いや、なんでもねぇよ」
明人と真陽留が何故か顔を青くしているのか周りの人はわからず、問いかけたくとも、二人の雰囲気が重い為、聞くに聞けない状態だ。
「………話せないってこと?」
「今はな……。だが、そのうち話そうとは思っている。それまで、待ってくれると助かるんだが……」
想安の問いに弱々しく明人が答える。今まで見たことの無い彼の姿に、それ以上問いかけることが出来ず、頷くしかなかった。
☆
想安はただの貧血だったらしく、直ぐに退院でき小屋へと戻った。
「ただいっ──」
中に入ると依頼人が来ており、ちょうど明人が依頼人の記憶を見ている状態だった。
「……あ、あれ。この人って、確か仁志田?」
今来ていたのは、前回帰されてしまった仁志田勇だった。
目を閉じ、眠っている。明人も同様で、五芒星が刻まれている赤い瞳を開けたまま、眠っていた。
「…………やっぱり、開けてあげるんだ」
二人が目を覚ます前に小屋の奥へと行こうとしたが、それより先に明人が目を覚まし、大きく息を吐いた。
「はぁ……。今回はめんどくさかったな」
「そのようだね。でも、無事に開けることが出来た」
「そうだな──あ? 帰ってたのか」
奥の部屋へ続くドアの前に立っていた想安に気づき、明人が声をかける。その表情は疲れており、汗が滲み出ていた。
「大変だったんだね」
「まぁな。今回のは頑固だったわ。まったく、めんどくせぇ」
汗を拭い、勇を見下ろしている。
彼はまだ目を閉じており、ソファーに寝っ転がっていた。
「良かった……」
「匣を抜き取らなくてか?」
「………まぁ」
「そうだな。俺も、良かったと思うよ」
疲労の顔を浮かべながらも、口元に笑みを浮かべ想安を見る。
「…………今日のお菓子は何?」
「クッキー」
「もう飽きたんだけど……。たまには違うのが食べたい」
「俺が作ってんやってんだぞ。有難く食え」
「父さんなら他のお菓子も作れるでしょ。食べさせて」
「はぁ、めんどくせぇな」
「実の息子のためでしょ」
「へいへい」
その後、二人は薄く笑い合い、目を覚ました勇を見送った。
カクリも明人の隣に立ち、無表情で見送る。
「まだまだ父さんについて謎が多いのって、息子としてどう思う? ねぇカクリ」
「そうだな。明人の息子としてこの世に生まれてきてしまった自分を恨むが良い」
「それは、母さんに怒られるからやめておく」
「そうか。なら、諦めるんだな」
「本人の前でそんな会話をすんな」
そんな会話を三人でしていると、小屋のドアが開き、真陽留、音禰、真恵が入ってきた。
カクリは明人と想安をチラッと見たあと、三人へと近づいて行く。
明人は変わらず、ソファーに座った。その時、想安も隣に座り、口を開いた。
「────父さん」
「なんだよ」
「ごめんなさい。あと、父さんの子になれて良かったよ。ムカつくけど、人との繋がりを人一倍大切だと、感じられる」
想安の目線は真恵に向けられており、その瞳は優しく暖かい。
その言葉を聞いた明人は、何故か苦い顔を浮かべ、顔を背けた。
「気持ち悪い事言ってんじゃねぇわ」
「…………やっぱ嫌い」
☆
『おめぇの事は、音禰と同じぐらい大事に思っているし、何をしてでも守り通す。俺にとっての──幸せな家族をな』
明人の本音を聞き、想安は父を信じ、音禰はそれから数日間はにやけ顔が止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます