「遺伝みたいなものだ」

 明人から放たれた言葉に、想安は驚きに目を見開き、その場に固まってしまう。

 真陽留も意外だったらしく直ぐに口を開くことが出来ず、信じられないものを見るかのような瞳を彼に向けていた。


「相思……」

「…………はぁ。これでわかったかよ。いいか、今後こんな言葉を俺から聞けると思うなよ。絶対にもう言わんからな」


 赤い顔を隠すように彼は、そっぽを向き鼻を鳴らす。それを見て想安は、口をパクパクと動かし、何かいいだけにしていた。


「ありえない。だって、父さんは他人なんて興味ないんじゃ……」

「ねぇよ。他人がどうなろうと知ったことじゃねぇ。だが、お前は俺の息子だ。他人じゃない。それに、他人だったやつでも、親しくなれば他人ではなくなり、友人となる。人間関係なんてどう変化していくかわからん。決めつけて、相手を知ろうとせず、勝手なイメージを作り上げるな」

「……そういうところが他人に変なイメージを植え付けてるのわかんないの? やめた方がいいよ。そう言うなら自分が改める必要もあるんだからさ」

「言うようになったじゃねぇか糞ガキ」

「父さんから褒め言葉頂きましたー」

「これが褒め言葉に聞こえるほどおまっ──」

「そこまでだ。お主たちの会話は無限に続く」


 二人の会話をカクリが無理やり止め、呆れ眼を向ける。


「とりあえず、父さんが人殺しじゃないのは何となくわかった。でも、それじゃなんであんなことしてんだよ。する意味はあるのか?」

「…………俺が面白いと思っているかっ──」

「そういうのいいから。早く事実を言って」


 明人の言葉を遮り、想安は急かす。他の人も頭を支えたりため息を吐いたりと、それぞれ彼に対して呆れの表情を浮かべていた。


「これが事実だがな」

「それ、愉快犯と同じだから……」

「……はぁ。明人の体は、もう人間と同じ食べ物を受け付けんのだ。人の想いに触れ続けんとならん」


 キリがないと思ったカクリは、ため息混じりで二人の会話に割り込みそう口にした。その言葉に明人は、バツが悪そうな顔を浮かべ、音禰と真陽留、想安と真恵が驚きに目を見開き、口を開くことが出来ず、彼に顔を向ける。


「…………人の想いに触れていないと、相思は──」

「人形になる。だが、それは想安も同じこと」

「え、想安もって……。どういうこと?」


 震える声で音禰がカクリに問いかける。

 言ってもいいのか明人に目線を送るが、顔を背け何も言わない。それを肯定とみなしたらしい彼は、ゆっくりと話し出した。


「明人はもう人間ではない。我々人ではない生き物と接しすぎたのだ。私の力も使い続けている。それにより、明人の体は私の力に対応しようと、人の想いを受け付けようと変化した。だが、それにより、逆に人の想いに触れ続けなければ体に異変が起き、体は無事だが、人形に近い存在となってしまう。その血を引き継いだ想安は、明人ほどでは無いが想いに触れなければ、今回のように倒れてしまうのだ」


 カクリの説明を聞き、想安は驚きや悲しみといった。複雑な表情を浮かべている。


「だから、明人は考えたのだ。いつものように、一番の最適な方法を──」

「一番、最適?」

「想安が元の人間に戻れる方法と、想いの摂取方法だ」


 その言葉に想安は、明人を見上げる。その目から逸らすように、彼はそっぽを向き続けている。


「想いの摂取方法は、いつも食べさせているお菓子だ。そこに想いや記憶の液を垂らし、混ぜ込んでいた。その量を徐々に減らし、少しずつ想いから遠ざけようとしていたのだ」

「なんで……」

「知らん。それは明人に聞くのだ。私は、実の息子だろうと、今の生活でも良いと考えているからな」


 話は終わりというように、カクリは口を閉ざしてしまった。

 いきなりそんな話をされ、どう反応すればいいのか分からず、明人以外の人達は口を開かない。そんな中、真恵だけは疑問を彼にぶつけた。


「私はどうなの? 私も結構想いに触れてきていると思うんだけど」

「お前の場合は俺とは無縁だからな。血の繋がりもなければ、赤の他人だ。関係ねぇよ。契約している訳でもないしな」

「血の繋がりが重要ってこと?」

「そりゃそうだろ。遺伝みたいなものだ」


 そう口にする明人はなにか思うところがあるらしく、いつものように淡々と話してはいるが、肩が少しだけ震えている。

 それを想安は見逃さず、目を伏せた。


「まさか、こんな父さんを見ることが出来るなんて思わなかった。怖いの?」

「…………」

「怖いんだ。僕から嫌われること。もしかして、今までの僕の言葉も結構心に刺さってた?」

「調子に乗ってるだろ」

「当たり前じゃん。だって、初めて父さんの弱みを見れたんだもん。完璧人間で腹立ってたんだよね」

「それはお前もだろ。俺の血を継いでるんだからな」

「それもそうだね。それより、今回僕が倒れたのって、想いの摂取が少なかったから?」

「あぁ。お前が俺の渡したもんを食わんかったからな。だが、それ以外に何かあったと思う。なにか気になるもんとか見てねぇか?」


 明人は横目で想安を見る。

 彼の言葉に考え込むと、なにか思い出したらく、四人を見上げ口を開いた。


「そういえば、どこかの古本屋の壁に、父さん達の名前が書いてある記事を見つけたんだ。それを見た瞬間、苦しくなった 」

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