「探しに行こう」
「な、んだよそれ。やっぱり、父さんがやっていたのは──」
「どう捉えてもらっても構わん。それより依頼人は帰ったぞ。それだけを報告しに来た。じゃな──あぁ、そうだ。しっかりこれを食っとけよ。今日の分の菓子だ。毎日菓子が食えて幸せだなお前」
明人は小さな巾着袋を想安に押し付け、「じゃぁな」と手を振りながら何事も無かったかのように部屋を出てドアを閉じた。
残された三人はなんとも言えない顔を浮かべており、想安は明人から受け取った巾着袋を手にしながら、怒りの表情を浮かべている。
彼の態度が気に食わなかったらしく、顔を赤くし、空いている方の拳を強く握り震わせていた。それでも怒りが収まらないのか、壁を思いっきり殴った。
「くそっ!!」
「お、落ち着いて想安。相想もきっと何か考えがあるのよ。今はとりあえずゆっくり飲み物でも飲んで、そのお菓子を食べっ──」
「確かに考えてるかもしれないね。自分が犯罪者にならない為、どうすればいいかを」
歯を食いしばり、相安はそのままドアを開け、受け取った巾着袋をベッドへと投げ部屋から出ていく。
明人はソファーの上で横になっており、本を顔に乗せ眠っている。その姿すら不愉快に感じたらしく、舌打ちをしながら外へと出ていってしまった。
想安の後をついてきていた二人は、明人の様子を見て問いかける。
「相想、想安は外に行ってしまったの?」
音禰が不安げに問いかけたが、返答はない。だが、寝息も聞こえていないため起きているのは分かる。
「明人、なんであんなこと言ったんだよ。お前のことだ。どうせ何か考えてんだろ? なんでそれを伝えない」
「…………さぁな。あいつに伝えたところで結局あいつは取り乱すだろ。どっちも同じなんだったら、こっちの方がマシだろ」
「本当にそう思ってんのか。今のあいつ、相当やばいぞ」
「そうだな」
一言だけ口にすると、明人はそれ以上話さなくなってしまい、真陽留も口を閉じてしまう。
音禰も何も口にできず、俯いてしまった。
「何を隠しているの相想。私達には教えて貰えない?」
「めんどい」
「おい」
音禰が悲しげに問いかけたが、いつも通りの冷たい言葉が返ってきた。瞬時に、真陽留が呆れ気味にツッコミを入れる。だが、明人の声にはいつものような覇気がなく、声も低い。
「…………お前はいつもそうだな。重要なことは絶対に誰にも言わない。僕達にもだ。そういう所、直した方がいいぞ」
「言う必要が無いだけだ。てめぇには関係ねぇよ」
その後は、重苦しい無言の空気が小屋の中に広がり、静かな時間が進む。すると、子供のような声がドアから聞こえ始めた。
「付いて来るでない!!」
「目的地が一緒なんだから仕方がないだろ」
「ここはお主の目的地ではない!」
「そんなの貴様には関係ないだろ!!」
そんな口喧嘩と共にドアが開かれ、カクリとベルゼがお互いの頬を引っ張りながら小屋に入ろうとしていた。だが、中の空気感を感じ不思議に思ったカクリは首を傾げ、手を離す。
「どうしたのだ。重いぞ」
「お前の肩に何か乗っかってんじゃねぇの? やめろよ。ここに変なものを持ってくるな。今すぐどっかに置いてこい」
「何を言っているか分からぬが、私の肩にはなにも乗っていない。そんなことより、何があったのだ」
明人に近づき、カクリは本を奪い問いかけた。
「依頼人でも来たのかい?」
「あぁ来たぞ。帰したけどな」
「そうか。開けにくかったのかい?」
「前提としててめぇがいなかった。それと、俺の力なんて必要無さそうだったからな。まったく、余計なもんを連れてくんじゃねぇわ」
「そうか。後半の言葉は知らぬが、それなら良い。それより、想安はどうしたのだ。居ないようだが」
周りを見回しながら、カクリは軽い口調で問いかける。その事に、音禰が簡単に先程あった出来事を二人に話す。ベルゼはそれを楽しげに聞いており、カクリは表情一つ変えず最後まで聞いた。
「────と、言うことなの」
「それは明人が悪いだろう」
「はぁ? なんで俺だよざけんな」
「口数が少ないのも考えものだぞ。人を馬鹿にする際に動くその脳と口を、なぜ今回は役に立たせなかったのだ」
「言うようになったじゃねぇか。それに、俺は人を馬鹿にした覚えはねぇ。事実を口にしているだけだ。それを馬鹿にされたと勘違いするやつは、自分が馬鹿だと認めているということだ」
「…………はぁ。明人でも、実の息子に関しては手を焼くらしいな」
「黙れ」
再度静かな時間が進む。
カクリが溜息をつき考えていると、ベルゼがなんともないような口調で口を開いた。
「つーか。てめぇの息子の匣は大丈夫なのか?」
「…………え?」
「は?」
音禰と明人が抜けた声を出し、ベルゼの方に視線を向ける。
「見んな」
「どういうことだ」
「あ? だから、想安の匣は無事なのか? あやつも半分人間じゃないとはいえ、匣は持っている。黒くなってる可能性とかねぇの?」
二人からの視線に眉をひそめ、ゲンナリした表情でベルゼが顔を背けた。そんな彼の様子など気にせず、明人が体を起こし再度問いかけた。
「相想、大丈夫──だよね?」
「……………ちっ」
音禰は不安げに瞳を揺らし、不安げに明人に問いかけた。だが、彼はすぐに返答出来ず難しい顔を浮かべる。すると、何も言わずに立ち上がり、カクリの首根っこを掴み外へと出ていってしまった。
「え、相想のあの反応……まさか」
音禰は顔を真っ青にし、真陽留を見上げた。
「……僕達も探しに行こう」
二人も慌てて外へと出て行ってしまい、残されたベルゼは眉をひそめながらも、ソファーに寝っ転がり目を閉じた。
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