「開けてみますか?」

「殺す」

「自業自得だ」

「真陽留さん。もっとやってください」

「任せろ」

「想安、今日のお前の菓子は抜きだからな」

「はぁ?! おい! ふざけんな!! 父さんと違って、僕は食べないと死んじゃうんだぞ! ネグレクトになるつもりか!!!」

「菓子は食わんでも人間生きていけるわ!!!」


 横腹に一撃を食らった明人は、お腹を抱えソファーに座り直し、想安と口喧嘩を再度始める。

 真陽留が殴ったのだが、想安の言葉で彼の気が逸れたため、音禰と共に呆れ顔を向けていた。


「まったく。本当に誰に似たっ──」


 お腹を擦りながら、明人はドアの方に目を向けた。それに釣られるように、他の三人もドアへと目線を移す。


「依頼か?」

「みたいだな」

「カクリちゃんいないけど大丈夫なの?」

「問題ねぇわ」


 明人は依頼人を迎える準備をし、他の三人も立ち上がり奥の部屋へと移動しようとする。


「………父さん」

「なんだ」

「しっかりと開けてあげなよ」

「依頼人次第だ」


 彼の返答を聞き、想安は少し悲しげに目を細め、そのまま奥の部屋へと姿を消した。

 それを、明人が肩越しに見ており、音禰と真陽留も彼の背中を見送り、ドアを閉めた。


 それと同時に、依頼人である男性が一人、小屋のドアを開き中へと入ってきた。


「…………」


 周りを見回すだけで、彼はドア付近から動こうとしない。そんな彼に、明人が一声かける。


「依頼人ですね。こちらへ」

「…………」


 声をかけるが、まるで聞こえていないのか周りを見回し続けており、動かない。再度声をかけるものの同じだった。

 首を傾げた明人だったが、その場から立ち上がり、彼の肩に手を置いた。


「どうかされましたか? お話でしたらソファーで──」

「…………」


 明人を見上げ、首を傾げてしまう。


「…………あぁ、もしかして」


 見下ろしていると、何かわかったらしくそう呟き、左手を男性の背中に置き、右手を添えソファーへと促す素振りを見せる。

 それを見てわかったのか、男性は戸惑いがちにソファーと明人を交互に見るが、促されるがままソファーへと腰を下ろした。


 無言が続き、お互い何も話さない。すると、明人がテーブルの下から紙とペンを取りだし、何かを書き始める。


「『噂を耳にし、こちらへ来ていただけたのでしょうか?』」


 紙にはそう書かれており、男性は文字を読むと首を横に振った。それを見て、明人はまた紙に文字を書き込む。


「『でしたら、誰かからのお誘いでしょうか?』」


 その文字に男性は小さく首を縦に振る。

 頷いた男性を見て、明人はここまで辿り着いた経由を瞬時に察し、紙に文字を書き足す。


「『分かりました。依頼内容を書いていただいて構いませんか? ゆっくりで大丈夫ですので』」


 その紙を見せたあと、明人はもう一セット分の紙とペンを取り出し男性へと渡す。それを受け取り、不安に眉を顰めながらも、テーブルに紙を置き、几帳面な文字を書き始めた。


 ☆


 紙には綺麗な文字が書かれ、明人はそれを受け取り読み進める。


『数々の無礼、お許しください。

 俺は生まれつき耳が聞こえません。そのせいで周りからは異様な目で見られてきました。それにはもう慣れましたが、やはり悲しいです。なので、一人でもいいです。一人だけでも、が欲しいです。どうにかできませんか。お願いします』


 受け取った紙にはそのように書かれており、明人は片眉を上げ、男性を見る。

 真っ直ぐな眼差しで彼を見ており、眉を顰めた。


「まったく、めんどくせぇもんが来たな……」


 そう呟いた明人は、顔をゆっくりと上げ紳士的な優しい微笑みを浮かべ、紙にペンを滑らせる。


「『分かりました。それなら協力出来そうです。まずはお名前をお聞かせください』」


 再度、紙とペンを渡しそう問いかけた。

 男性は素直に差し出されたものを受け取り、サラサラと書いていく。紙には『仁志田勇にしだゆう』と、書かれていた。


「『ありがとうございます。では、早速ですが、貴方の匣、開けてみますか?』」


 明人の書いた文字を読み、勇は首を傾げてしまう。その様子を見た彼は、いつも依頼人に説明するように紙へと書き、自分達が行っていることを簡単に説明した。

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