第十七話 起こしてもらうのは流石に………

 ドアを閉める。一つ息をつく。


 色々あったけど(つい二十分前とか)、今日も充実した一日だった。


 悠可は――紅茶のおかげか――気持ちが落ち着き、今日は寝られそうだと話していたので一安心。佳那にお礼を言っておいた。


 今日も今日とて小説を一冊持ってベッドへと向かう。昨日の本は結局読み終わってしまったので(読み終わるまでやめられなかったので)、買っておいた別の新刊を読むことにした。


 ……正直、もう既にちょっと眠いけど。


 表紙をめくる。ページを繰る。紙が手に触れる感触を味わう。


 ……今日はそんなにのめりこまないようにしよう。うん。た、多分眠くてそんなに読めないと思うし……。


 ○

 ……何だか妙に爽やかな目覚めだった。ここ最近の記憶を掘り返してみてもこんなにすがすがしい気分で目覚めたという事実は見当たらない。


 …………。


 俺は言い知れぬ緊張と不安に身を焦がれるような気持ちで、置時計を見た。


 9:42


 ………………………。


 …………………………………………。


 …………あ、あぶね、今日は休日――と言うか授業が休みの日だった。いや、あっぶね――。


「と言っても遅すぎる目覚めであることは確かなのであった……」


 そう呟いてから、いつものローブに着替える。


 こんな事情を知りたい人がいるかはわからないのだが、俺はいつも同じローブを着ているのではなく、何着かの――デザインというか色合いがちょっと違う――ローブを着まわしている。だから綺麗だよ……ちなみに、着たローブは佳那が部屋の掃除のときに回収してくれているようだ。ホント感謝。圧倒的感謝。


 ドアを開け、食堂のある一階へと下りようとする。つまり六階分の高度を階段で下りる訳だが、不足しがちな運動を補うためだと思って頑張っています。


 太腿の辺りが痛くなって来る頃、やっと一階に脚をつけることが出来た。


 食堂へ入ると、彩希と時葉が談笑している姿が目に入った。


 ………二人に気づかれると確実にお説教が飛んでくる予感がするので(『先生、また読書が――』とかね)、こそこそと厨房へと移動。


「……おはよう、佳那」


「由理様、今日は遅いお目覚めでしたね」


「お察しの通り――かどうかはわからないけど、小説が面白くてですね……」


 予想通りです。と佳那は笑みをこぼした。


「……そろそろ起こしに行こうかと思ってたところだったんですけどねー」


「……子どもじゃないんだからさ」


「立派な大人ってわけでもなさそうですけどね」


「……それはそうだけど」


「何なら、毎日起こしに行ってあげましょうか?」


「い、いや、それには及ばないよ。佳那の仕事を余計に増やすわけにはいかないし……」


 そうですか?と佳那は悪戯っぽい笑みを見せる。


 何故か、昨日眺めた月を思い出した。

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