聞かれる価値のない独白

 剣の腕を磨いたのも魔術の果てを目指したのも、結局は同じ理由だ。


 剣術大会に優勝し、天才だと呼ばれるようになれば、自分が見つかるかもしれないと。


 魔術の研究で評価され、世界に名を知らしめることが出来れば、救われるかもしれないと。


 そう、思っただけだ。


 自分の見たくもない本質を覆い隠して、気にせずに生きることができるのだろうかと思っただけだ。


 結果は語るまでもなかった。


 名声は高まったかもしれない。俺の出来ることは増えたかもしれない。


 だから、なんだ?


 そんな声が奥深くから聞こえてきた。


 俺を責めるように、問うてきた。


 俺が抱えているナニカは想像以上に重いもので――深いところに棲むものだったらしい。それを知れたことが、唯一と言って良い収穫だった。


 …………ようやく気づいた。


 俺は――意志や決意が湧いてくる部分を、失くしてしまった。


 いや……最初から、そんな人間らしい箇所は持ち合わせていなかったのかもしれない。


 そう知ってしまって。考えてしまって。


 けれど後悔なんて。


 出来るはずもなくて。


 それは。


 未練がないのではなくて。


 そんなことが出来る心なんてものは………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る