第十六話 月が綺麗な夜ですね
……てなわけで。
時葉への授業を終え、今日の仕事は終了。昨夜と同様に、俺は王宮六階へと移動する。
すると。
「由理様」
そこには既に佳那――と、もう一人。
「こんばんは、兄さん」
第二王女の悠可がいた。
「どした?」
「由理様はご存じだと思いますけど、悠可様は魔力の制御がまだあまり出来ないそうで……」
「あ、ああ。一応知ってる。一応な」
そう……一応。話に聞いただけ。
「眠りにつくのが難しいときがあると聞いたので、気休めではあるんですけど、落ち着く紅茶を用意してみまして……」
「なるほどな」
魔力の暴走は精神的なものではないのだが、眠るときに不安があると寝にくいのは確かだ。
……あと、現象としての魔力の暴走は物理的なものではあるものの、魔力を暴走に導く過程には精神も関係はしてくる。ここで紅茶を飲んで落ち着くことが出来るならば、それに越したことはないだろう。
もしこうやってお茶を呑んでいる時点で魔力が制御不能になっていたら俺が治せるし。
「……ということで、今日から三人で紅茶を飲むということでいいですよね」
「もちろん」
佳那の提案に反対する理由がない。俺が夜に悠可の寝室へ行くのは年齢的にどうなのかなとか思ってたところだし。
ああいや、聞いた話だけどな。
○
三人でテーブルを囲んだところで、佳那が口を開く。
「時葉様には謝れましたか?」
「ああ。古代魔法の授業をするってことで手を打ってくれた」
「古代魔法……ですか?」
「ああ。俺が何で古代魔法の研究をしてるか知りたかったんだって」
俺はカップを持ち上げる。すると――佳那が言っていたように――心を落ち着かせるような良い香りがした。すす、と飲んでみると、温かさが体に染みわたる。
……俺が眠くなってきた。
「それで由理様」
「……なんだ?」
「今日はどちらへ――」
「ちょ待ッ」
眠気が吹っ飛んだ。俺は佳那に、必死に視線で訴えかける。
それは秘密にしておいてくださいお願いします。
……上手なウインクが飛んで来た。
「それで今日はどち――」
「わー!。今日は夜空が綺麗だなぁ!」
何にも伝わってないじゃんか。いや伝わってる?伝わった上でこれなの?
「確かに、すっごく綺麗な空ですね」
「そ、そうだよな。今日は月も綺麗だし……」
あ、口が滑った。
「……。え、ええ。そうですね」
「あら。今のって――」
「……佳那も見てよ。ほら、月が綺麗だよ」
「――強引な誤魔化し、ですね」
「……いや、本心だよ」
本当に。
月が綺麗な夜ですね。
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