第十二話 そこまで見てたんですか……

 さてさて。


 帰りにちょっと真式さんの鍛冶屋を再訪してみようと思い、またとことこと来た道を戻って、入店。


 ……静寂。


 ……ついに客が俺だと挨拶もしてくれなくなったかと思ったのだが、そうではなかったらしい。店主は店の奥の工房に引っ込んでいて――もっと言えば、剣を鍛えているようだった。


「邪魔はしないほうがいいよな……」


 ちょっと店にある剣を眺めていることにしよう。


 ○

 ――剣を手に取るのは自由と言うことだったので――俺が刀を持っていると、「あっちぃ……」という声と共に店主が出てきた。


「お疲れ様」


「……何だ坊ちゃん、また来たのか」


「うん。ちゃんと剣にできそうか気になりまして」


「ほらよ」


 店主が何気なく見せてきたのは――一振りの剣。


「プレゼント?」


「んな訳ねぇだろ」


 じゃあどういう――と言おうとして、思い至る。


「……もう打ったの?」


「ああ。不思議と興味を惹かれたしな……ああそうだ、形は刀じゃなくて剣にしたぞ。それが一番よさそうだったからな」


「ええ。ありがとうございます……じゃあ代金は……」


「普通の剣一本分と同じでいいぞ」


「……そうですか」


「ああ。やることは殆ど変わらないし、労力が特別に必要ってこともねぇし」


「魔剣を打ってもらったときには、普通の剣の十倍くらいの代金を求めるものらしいですよ」


「そりゃ詐欺だな……あい、毎度。その刀も買ってくか?」


「欲しい所なんですけど、ちょっとお金が足りなさそうなんで……」


「そうか。ま、気が向いたら――あと、他の客が買ってかなかったら、次来た時にでも買えよ」


「ええ。そうします」


「んでだ……その剣には何の術式を刻んだ?」


「なかなか面白い術式を刻みましたよ……実演は出来ませんけどね」


「危険なのか?」


「いえ、回数制なので」


「……おいおい。剣ごと壊れたりするのか?」


「魔法陣がぶっこわれるだけです。剣自体に影響はありません」


「……そうか。ま、どう使おうがお前の勝手だけどな」


「大切に使いますよ……出来るだけ」


「不穏な付け足しをするなよ……ったく」


 店主はにこり、というよりはにやり、と言った方が似合う笑い方で笑った。


「じゃあ、また」


「へーい」


 ○

 ……悠可の授業に余裕で間に合う時間に帰ってこれたのはいいんだが――。


「あら、由理様。こんにちは」


「ああ、こんにち――」


「間違えました。おかえりなさいませ、でしたね」


「……なんの事だか分からないんだが」


「そうですか?王宮から飛び出していく人影を見たものですから、由理様かと思ったのですが」


「い、いや、不審者かもしれないな。父さんに報告しておくよ」


「そうですね。こうお伝えください。特徴は、白い髪で貴族風の服を着た男性――歳は十七歳くらいで強化魔法が得意……」


「すいません俺です」


 人影って言ってたのに。


 ちゃんと細部まで見えてるじゃんか……。

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