第十三話 第二王女への歴史の授業

 時間があったのでちょこっと研究の続きをして、悠可への授業の十五分前には準備を終え、後は講義室(という部屋があるのだ。時葉や彩希は自室で授業を受けたいって言うからほとんど使わないけど)へ行くだけ。


 ――今日は研究に没頭しすぎて時間を忘れるということはなかった。偉い。


 ……いや、二日も続けてそんな失態を演じていたら教師としてどうなのかと思うが。前も考えた様に。


 ……よし、まあ、もう行くか。


 無駄に長い王宮の廊下を歩き、階段を使って四階へ。そして王宮の端へ向かってちょっと歩くと、ほぼ使われない講義室が姿を現す。


 正直、このロケーションが講義室を敬遠させるんじゃないかと思わなくもない。場所が極めて分かりづらい。


「……あれ」


 講義室に入ると、既に悠可が席についてノートにペンを走らせていた。


「ごめん。待たせた?」


 ――あれ、なんかこのセリフは適切じゃない気がするな……という考えが刹那の内に脳裏をよぎった。


「いえ。今来たところです……」


 そう言った悠可の頬はほんのり朱に染まっている。


「……まあ、授業を始めようか」


「そ、そうですね。それがいいです」


 ○


 今日悠可に受けてもらうのは歴史の授業だ。魔法技術がいくら発達したとは言っても過去の出来事から得られる教訓の価値は下がらないし、何より過去は現在に通じている。王族として学ぶべき学問だ。


「さて、この国――極星国は周囲を海に囲まれていることは知ってる?」


「はい。島国、ということですよね」


「そうだ。外界から一定の距離を置いていることで、この国は独特な文化を持っていると言われているが――しかし、問題があるな?」


「……海の向こうの国々と関わるのが難しい――ことですか」


「うん。加えて、海の向こうの諸国から魔法により総攻撃を受けたら逃げ場がないということでもある。


「例えば隣の聖命国から勇者が、明涼国から聖女が広範囲魔法を同時に放ってきたとしたら、甚大な被害がもたらされるよな」


「……『祝福されし魔術師』が何もしなければ、ですけどね」


「……そうだな。うん。そいつが何もしなければ、甚大な被害は避けられない。だからこそこの国は外交に力を入れてきた」


「聖命国と明涼国はこの国の友好国――ですからね」


「今は、そうだな。しかし過去に友好関係が途切れた事もある。例えば七十三年前。もっと遡れば三百年前――」


 ○

 ――お察しの通り、テストでは満点を取られました。ま、まあ、魔法陣とかの授業とは違って教えてないことは出さないからな。べ、別に悔しくなんかないんだからね。


「じゃあ、あの……」


 悠可がそう言うので、俺は手を悠可の頭にそっと置いた。艶のある黒髪は夜の美しさが投影されたようで、今にもそこに星が流れて来そうだった。悠可が目を細めて、猫のように愛らしい顔を見せる。


 夜空を星が流れていく音が、聞こえた気がした。


 さらさら…………と。

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