第十一話 あれ、普通に素性バレてる?
「それで有紀君、ちょっと頼みがあるのだけど」
「……なに?」
「ここの問題を教えてくれないかしら」
「……何で中庭に問題集なんて持ってきてるんだ?」
「あなたに教えてもらおうと思って」
「……さいですか」
なんで俺は変装して城下に下りてきてまで先生をやらなければならないのだろう。
「だって、有紀君の解説、分かりやすいし」
「……わかったよ。どこだ?」
彼女たちが指差したのは、問題集の難易度ナンバリング的に最高難易度だと思われる問題。
「……こんなの正直解く必要ないと思うけどな」
「私もそう思うけど、気になるからしょうがない、ね?」
同意を求めた未來に、望海が小さく頷いた。
……しゃあない。解くか。えーと?『古代魔法に多用される魔法陣構造に、立体魔法陣構造と言うものがある。これは重層的に魔法陣を組むことによって一つ一つのパーツが簡潔に分かりやすくなり――しかし全体で見ると複雑で多様な術式を表現できるというメリットがあった。さて、これを踏まえたうえで、次の魔法陣を立体魔法陣構造に変換せよ』…………。
もしかして俺の素性ばれてるんじゃない?古代魔法の研究をバリバリしてるのばれてんじゃない?
じゃなかったらこんな問題訊かなくないか?
「……解けたよ。もう解説していいか?」
そう言った途端に、少女たちの表情に驚きが浮かんだ。……あれ、ホントに偶然だったのか?
「……おーい。解説していい?」
「有紀君、それ、制限時間六十分って書いてあるけど」
……確かに。
「じゃ、やっぱまだ解けてないってことに……」
「なる訳ないでしょ?」
ですよね。
「……有紀君」
「なに?」
「とっても優秀なのね」
「……いや別に」
「うちの家庭教師になる気はない?」
「……ない」
「三食部屋付きだよ?」
「だめ」
「お付きのメイドさんもいるよ?」
「……だめだ」
「色んな魔導書が読み放題よ?」
「…………………………………だ、だめだ」
揺れてなんかいない。断じて。
「メイドさんよりも本の方が揺れるんだね……」
「のーこめんと。はい、解説するよ」
俺は話をごく自然にすり替えて、少女たちに古代魔法の素晴らしさを吹き込みながら解説をした。
○
「じゃあ、また」
「またね」「また今度」
……帰るときはちょっと怖いんだよな。狙撃手に背中を向けるわけだし。
ちなみに、先の狙撃は望海がそのあり得ないほどの魔力感知範囲を利用して俺の位置を掴み、それをリアルタイムで未來に伝えて、未來のあり得ないほどの魔法の射程を活かして行われたものだ。彼女たちの波長がぴったり合っていないと出来ない業だ。
彩希は俺が八十メートル程の距離が開いた位置の魔力を操作しているのを見て驚いていたが――望海と未來が力を合わせれば、その射程は優に二百メートルを超える。
……まとめると、世界は広いってことだ。当たり前だけど。
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